電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

有坪民雄『誰も農業を知らない』を読む(1)

2021年03月25日 06時01分57秒 | -ノンフィクション
しばらく前に購入してから少しずつ読んでいた単行本で、有坪民雄著『誰も農業を知らない〜プロ農家だからわかる日本農業の未来』を読みました。2018年12月に第1刷が刊行され、私が購入したのは翌2019年の9月で、同年8月刊の第5刷とあります。おそらくは順調に増刷され話題にもなっていたのでしょう。たしかに、書店では平積みになっていた記憶がありますし、また読んでみて主張の多くは理解でき、共感もできるものでした。

本書の構成は次のとおりです。

第1章 第二次農業機械革命の時代
 IoTは革命になりうる
 もうひとつの革命――遺伝子組み換え・ゲノム編集
 農業のイノベーションの歴史
 いま、農薬は安全である
 農業IoTは地域振興と矛盾する
第2章 無力な農業論が目を曇らせる
 無知な人ほど言いたがる「農業にビジネス感覚を」
 「農業にはマーケティングが欠けている」のか?
 大規模農業のアキレス腱
 夜逃げする無農薬農家
 六次産業化は絵に描いた餅の典型
 ハイテク農業の大失敗を直視せよ
 日本農業の問題点は戦前から指摘されてきた
 なぜ農家は儲からないのにやめないのか
 現実の議論をしよう――コメ輸入をシミュレーションする
第3章 農家も知らない農業の現実
 誰も農業を知らない
 農業知らずの農業語り
 実は農家が変化するスピードは速い
 農林水産省は本当に無能か
 ピントがずれている農協改革案
 農協解体は得か損か
第4章 農業敵視の構造を知る
 「農家は甘えている」
 農業が儲かっていた時代
 「明るい農村」の時代
 農家出身のサラリーマンがいなくなる意味
 邪悪なクレーマー
 明るい材料
第5章 新しい血――新規就農・企業参入・移民
 脱サラ就農はラーメン店をやるより何倍も有利
 誰をバスに乗せるのか――新規就農者に望むこと
 農薬を否定する人は農業の適性がない
 企業が農業参入で成功するためには
 農業は外国からの移民を認めるべきか
第6章 21世紀の農業プラン
 遺伝子組み換え作物の栽培を実現せよ
 兼業農家を育てよ
 中央官庁移転は農業道県に
 海外市場は開拓可能
 辺境過疎地は選別せざるをえない
 農協の経済部門を半アマゾン化せよ
 地元から優秀な農業起業家を育てよ
 「農業経済学・経営学」を農学部から追い出せ
 食育を推進し、学校給食予算を増額せよ
 農家よ、戦え!

さらに、帯のキャッチフレーズがすごいです。

その農業改革案はピンぼけです!
大規模農業論、6次産業化……机上の改革案が日本農業をつぶす。
農家減少・高齢化の衝撃、「ビジネス感覚」農業の盲点、農薬敵視の愚、遺伝子組み換え作物の是非、移民……専業農家のリアルすぎる目から見た日本農業の現状と突破口。

さらに、裏表紙側の帯にはこうあります。

  • 大規模農業ほど価格下落に弱い
  • 6次産業化は絵に描いた餅の典型
  • 無知な人ほど言いたがる「農業にビジネス感覚を」
  • なぜ農家は儲からないのにやめないのか
  • コメ輸入をシミュレーション――さほど安くならない現実
  • いま、新規就農はしやすい。しかし適性がある。
  • 海外市場は開拓可能
  • 兼業農家を残すべき理由
    ……などなど、目からウロコがボロボロ落ちてくる、誰も書かなかった〝ぶっちゃけ〟日本農業論!

著者は1964年生まれ、経済学部経営学科を卒業後に船井総合研究所に勤務、コンサルティングの経験があるらしい。その後、退職して専業農家の跡継ぎとなり、2haの農地で米と60頭の和牛を肥育する農家となっているそうです。なるほど、現役農家の立場からの発言ですので、理解しやすく共感もできるということなのでしょう。

個人的に興味深いと思った点を列挙してみます。
まず第1章:農業におけるイノベーションについて。(1)農業機械のIoT化、(2)遺伝子組み換え・ゲノム編集技術、(3)肥料と農薬、について注目していること。
第2章:大規模農業論について。大規模生産=コストダウンできるとは限らない。経営規模と生産性・効率の図は説得力があります。効率が最大化するには適正規模があり、あちこちに点在する小規模農地を寄せ集めても、機械の積み下ろしと移動に時間が取られるだけ。作物の管理がやりきれなければ、収量や品質が落ちてしまいます。このあたりは、経験上からも言えます(*1〜3)。

(※:長くなりそうなので、2回に分けます。)

(*1):今年の桃の農作業まとめ〜収穫と出荷は過去最高だが反省点も〜「電網郊外散歩道」2019年9月
(*2):2020年の川中島白桃の収穫・出荷状況は〜「電網郊外散歩道」2020年9月
(*3):今年の桃の出荷額は大幅な増加でした〜「電網郊外散歩道」2020年9月

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