電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

カタリン・カリコ博士とワイスマン博士の2人がノーベル医学生理学賞

2023年10月03日 06時00分21秒 | Weblog
報道によれば、今年のノーベル医学生理学賞には、カタリン・カリコ博士とドリュー・ワイスマン博士の2名が決まったとのことです。詳しくは今日付けの新聞等に解説が掲載されることと思いますが、主眼は mRNA の医療への応用(*1)を開く発見をした功績によるものと思われます。その有効性を示した実例が、今回の新型コロナウィルス禍と世界的なワクチン接種による一定の沈静化だった、ということなのでしょう。これまでのワクチン開発とは異なり、病原ウィルスやその変異株の遺伝子の塩基配列が明らかであれば、これに対応した修飾mRNAを作ることにより、実際に細胞内に導入しても激しい拒否反応が起こることはない、という点が画期的なポイント。したがって、COVID19 のウィルスだけでなく他の感染症やガン等にも応用できる、という点が将来的には非常に重要でしょう。

iPS細胞の山中伸弥教授との対談(*2)も興味深く聞きましたし、やがてノーベル賞だろうなあとは感じていましたが、いざ実現すると、「あ、やっぱり」という感じです。一般向けの本(*3)も興味深く読みましたが、カタリン・カリコ博士一家のハンガリー出国のエピソードや米国での研究生活の蹉跌などを含んで、映画にもなっているらしいのでこれも興味深いものです。



ところで、予算権限を持つものが誤った「選択と集中」を行うことにより、大切な基礎研究が圧迫されるという弊害が如実に現れることも、両氏の研究の経緯から読み取れます。若い人が短期的な研究実績を求められ、それがないと研究費も研究ポストも得られないという日本の政策は、若い世代の研究活力を奪っているだけでなく、そもそも研究者になろうという志向を阻害しているように思います。まことに残念なことです。おそらくその象徴が、中学高校の放課後の活発なスポーツ活動と対照的に、閑散とした放課後の理科実験室の姿に現れているのではなかろうか。

(*1): 新型コロナウィルスのワクチン接種始まる〜女性科学者の努力に拍手!〜「電網郊外散歩道」2021年2月
(*2): NHKのTV番組でカタリン・カリコ&山中伸弥両博士の対談が興味深かった〜「電網郊外散歩道」2021年5月
(*3): 増田ユリヤ『世界を救うmRNAワクチンの開発者カタリン・カリコ』を読む〜「電網郊外散歩道」2021年11月

【追補】
プレジデント・オンラインに、興味深い記事を見つけました。ポプラ新書でカタリン・カリコ氏についての本をまとめた増田ユリヤ氏によるものです。「パンデミックが起こらず、自分が無名のままでいるほうが良かった」〜President Online より

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