電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

山形弦楽四重奏団第89回定期演奏会でモーツァルト、シューベルト、ベートーヴェンを聴く

2023年10月16日 07時12分43秒 | -室内楽
秋のまっただ中である10月15日(日)の夜、山形市の県民ホール第一スタジオにて、山形弦楽四重奏団の第89回定期演奏会を聴きました。山形弦楽四重奏団は、山形交響楽団に所属する演奏家が中心となって組織したカルテットで、2000年の結成以来すでに23年の歴史があり、ハイドンの弦楽四重奏曲全曲演奏を達成したほか、日本の近現代の室内楽作品を積極的に取り上げるなど活発な活動を続けています。今回は、山響首席コンサートマスターの犬伏亜里さんを迎えて、モーツァルト、シューベルト、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲第1番を取り上げる、というものです。具体的には、

  1. モーツァルト 弦楽四重奏曲第1番 ト長調 K.80(73f) 「ローディ」
  2. シューベルト 弦楽四重奏曲第1番 ト短調 D.18
  3. ベートーヴェン 弦楽四重奏曲第1番 ヘ長調 Op.18-1

の3曲です。とくに、若いベートーヴェンの作品が大好きな中でも、とりわけこの第1番がお気に入りなので、プログラム発表以来ずっと楽しみにしていました。

会場は長方形のスタジオの短辺側にステージを置いたもので、聴衆は80〜90人は入っていたでしょうか、けっこうぎっしり感があります。楽器の配置は、左から第1ヴァイオリン(犬伏亜里)、第2ヴァイオリン(中島光之)、ヴィオラ(倉田譲)、チェロ(茂木明人)となります。

第1曲、モーツァルトが少年時代のイタリア旅行中に作曲され、ウィーン時代に完成されたという第1番。「ローディ」というのは、宿泊先の地名だそうです。第1楽章:アダージョ、いきなり緩徐楽章から始まりますが、穏やかな中にも音楽に華があると感じられます。第2楽章:モーツァルトらしい活発なアレグロ。第3楽章:メヌエット〜トリオ、高域のヴァイオリンと中低域のヴィオラ・チェロの対比が魅力的です。第4楽章:ロンド、アレグロ。犬伏さん、楽章間のちょっとした合間に、右手で譜面をめくりながら左手の指で弦をはじいて音を確かめています。ハーモニクス?無駄のない合理的な動きで、なんとなく普段からテキパキとした方かもと想像してしまいました(^o^)/

続いて第2曲、シューベルト14歳の作品です。おそらく家庭内で演奏するなどの目的で作られた曲なのでしょうが、私には初体験。意外にも劇的な面もある音楽でした。第1楽章:アンダンテ〜プレスト、ヴィヴァーチェ。間を合わせるのが大変そうですが、力強さや迫力を感じさせます。すでにベートーヴェンを経験していたであろう少年作曲家のかっこいい音楽。第2楽章:メヌエット〜トリオ、一転して弱音器を付けたかわいらしい音で演奏されます。第3楽章:アンダンテ、弱音器を外して演奏される緩徐楽章です。第4楽章:プレスト。再び訴える力のある劇的な音楽となります。後年の室内楽曲の充実しか知りませんでしたが、若い時代の交響曲は全集で耳にしており、若いシューベルトの弦楽四重奏曲も魅力的なものがあるのだなと知りました。得難い経験となりました。

ここで15分の休憩です。

後半は、ベートーヴェンの第1番。1801年に改訂完成とありますので、作曲者が30歳頃の作品です。モーツァルトやシューベルトとは異なり、少年時代のものではなくすでに成熟した大人の作品。しかも、作品18の6曲のうち1番目に来るものとして番号を付けられたものですから、できの良い方を第1番にするというベートーヴェンの流儀からみても、青年期の傑作と言ってよかろうと思います。
第1楽章:アレグロ・コン・ブリオ。ごく自然な始まりです。チェロの中音域の音色が優しい。過度に意味有りげにせずに、演奏の自然なたたずまいは、多くの演奏経験のゆえでしょうか。第2楽章:アダージョ・アフェットゥオーソ・エ・アパッショナート。2nd-Vn、Vla、Vcによる中低音の中に、1st-Vnが悲しげな旋律を奏します。作曲者はロミオとジュリエットの墓場の場面を想像して作曲したのだとか。しだいに表情は穏やかなものに変わっていきますが、たいへん魅力的な音楽を説得力のある演奏で堪能しました。三度の休止が効果的。
第3楽章:スケルツォ、アレグロ・モルト〜トリオ。前楽章からは一転して、青年期ベートーヴェンらしい、活発なスケルツォです。とりわけ 1st-Vn は自信と思い切りの良さが求められるのだな、と感じました。
第4楽章:アレグロ。晴れ晴れとした開放感を感じさせる音楽、演奏です。これですよ、これ! 緊密な響きの中にやわらかな優しさを含みながら、闊達な音楽が広がります。実に若いベートーヴェンらしい、ステキな音楽です。いいなあ! 弦楽四重奏の充実と楽しさを、たっぷりと味わいました。

聴衆の拍手に応えて、アンコールはハイドンの弦楽四重奏曲第1番の第1楽章を。今回は、「1」づくしの回でした。

次回の第90回定期演奏会は、2024年1月22日(月)、19時から、同じ県民ホール・スタジオ1 にて。山響のクラリネット首席の川上一道さんを迎えて、ミュラーのクラリネット四重奏曲第1番ほか。
いよいよ第90回ですか。これはイソ弦楽四重奏団の100回の定期演奏会を超えるのが現実的に見えてきたようです。年4回の定期演奏会であれば25年で100回。ファンとしても応援したい。団員の皆さんのご健康を祈ります。



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映画館の隣にスーパーマーケットが進出して

2023年10月15日 06時00分08秒 | 散歩外出ドライブ
東根市の国道13号線から国道287号線が分岐する角地に、新たにスーパーマーケットが進出しました。「スーパーヤマザワ・さくらんぼ東根店」です。名前のとおり、JR のさくらんぼ東根駅西口から出て国道13号を横断したこの場所は、たしか以前はパチンコ店だったはず。パチンコ店の経営が振るわず撤退し、地元スーパーの「ヤマザワ」が進出したということのようです。ちょうど隣接して映画館「フォーラム東根」等があり、映画の帰りに買い物というようなことが可能になります。巨大なショッピングモールを見慣れた目には、むしろちょうどいい規模のように感じます。食料品を中心にしながら、日用品や猫エサなども置いてあるので、一通りの買い物ができるようです。妻とぐるりと回ってみましたが、開店セールでだいぶ安価な設定になっており、このところの値上げラッシュ月間にあって、助かります。

そうだなあ、東根市内でも国道13号線の西側に位置するこの近辺は、わりに地価がやすいために新規の住宅建設が多い地域ですので、人口減少の時代にあってむしろ人口が増加している地域です。そうした見通しを含んでのスーパーマーケットの新規開店なのでしょう。サクランボ畑から住宅地へという流れ(*1)は、どうやら加速しているようです。

(*1): 果樹園と宅地化、原野化〜「電網郊外散歩道」2019年6月

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ステーショナリー・フリーマガジン『Bun2』2023年10月号を読む

2023年10月14日 06時00分35秒 | 手帳文具書斎
先日、買い物に出たついでに、行きつけの文具店でステーショナリー・フリーマガジン『Bun2』の2023年10月号をもらってきました。今号の特集は、

2024年手帳特集〜気になるアイテムはもう見つけた?

というものです。毎年、この号は同種の特集を組みますので、楽しみにしています。そしてその内容は、

  • Pick Up: 環境保全につながる「竹紙ダイアリー」
  • 併せて持ちたい手帳まわりグッズ「ピタン」
  • 銀座伊東屋本店で聴いた2024手帳動向
  • 寄稿・ふじいなおみ「私のスケジュール管理」

というものです。このうち「竹紙」のほうは、昔の「ケナフ」の流行の頃を思い出してしまいますが、竹紙が定着すれば何よりのことでしょう。銀座伊東屋本店で聞いた話というのは、最近の手帳界隈の流行と言って良かろうと思いますが、(1)ブロック・ウィークリーとToDoリストを併記するタイプや、(2)パソコンの前に置いて使う横開きタイプ、などが注目されるとのことです。

ふじいなおみさんの「私のスケジュール管理」については、家族のスケジュール管理の部分が参考になりました。我が家では、月末になると妻がカレンダーを持ってきて、家族の予定をお互いに出し合ってメモしていきます。このときに、自分の手帳の方にも妻の外出や通院などの予定を記入しておきます。以前、勤め人だった頃は、特に自分のスケジュールを把握するのに精一杯で、家族の予定を把握していなくてよく叱られたものでしたが、今のスタイルになってからは、

(妻)病院14:30同乗

みたいにメモしておくことで、お叱りを回避できております(^o^)/



ところで、2023年の「Bun2大賞」ですが、今年、自分で購入して便利だと思ったものというと、「キャンパス:ノートのように使えるバインダー」です。製品解説のうち、「ノートのように使えるルーズリーフ・バインダー」というのは正しいと思うけれど、「教科ごとにバインダーを分ける」というのは違うと思う。それならルーズリーフの意味はなく、ふつうの綴じノートのほうが薄くてかさばらないでしょう(^o^)/

写真は、『Bun2』10月号と、鼻づまり治療記録に使っているもの(*1)に追加して新たに購入したコクヨの「キャンパス:ノートのように使えるバインダー」、それにぺんてるのエナージェル・インフリーのオレンジ0.7mmです。文庫本は、珍しく弓道を背景にした小説らしいので購入してみた(*2)講談社文庫で、なんだか厳重に封印されているのが印象悪いのですが、肝心の中身はどうなのか興味深いところです。

(*1): 「ノートのように使えるバインダー」を鼻づまり治療記録に使って〜「電網郊外散歩道」2023年7月
(*2): 若い頃、弓道をやっていた時期がありましたので、興味が持てます。

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最近のコンピュータ利用の中心はブログと音楽再生か

2023年10月13日 06時00分10秒 | コンピュータ
メインのコンピュータは、2016年製の hp のデスクトップ Pavilion 550-240jp/CT ですが、Ubuntu Linux 20.04LTS を毎日使っています。LTS というのは Long Time Support の略? Ubuntu のバージョンはすでに 22 を経て 23 に移行していますが、16GB のメモリと OS のサポート継続をいいことに、その時代のハードにはその時代のソフトウェアというバランスを重視して、いまだに 20.04 で使い続けています。

ところで、もっぱら常用しているソフトウェアはブラウザ Chromium でブログの更新・閲覧と LINE のやりとり、写真等の画像編集に Gimp、それに音楽再生に Rhythmbox が中心です。メールによる連絡などもたまにありますので Thunderbird も使いますが、メールによる連絡はそう頻繁にあるわけではありません。退職前は専門的な領域では TeX/LaTeX を多用するものの、一般の事務的な業務は Word/Excel が中心で Outlook で連絡を取り合うような生活でした。今は農業経営の確定申告や地域の連絡文書の作成などは LibreOffice を使っていますが、これらは季節的な性格が強く、そう毎日使うようなものではないようです。

生活の様子が変われば道具の利用も変化するのは当然のことでしょう。むしろ、退職前の現役の頃と退職後の自由な生活で、同じコンピュータが使えるということが驚きなのかも。ブログの毎日更新は日常生活の励みになっていますし、Rhythmbox と USB で DAC を経てミニコンポに接続する簡易なデスクトップ PC-audio による音楽再生は、あまり規模の大きくない私のLPや音楽CD等のライブラリの範囲にとどまらず、ネット上のパブリック・ドメイン音源も加わり、若い頃には触れることもできなかった録音も楽しむことができます。また、山形交響楽団や団員の皆さん等による演奏会などに参加するときに YouTube 等でさわりを聴いたり後で関連する曲目を調べて聴いたりもしますが、生の演奏に触れる嬉しさと共に、パソコンによる音楽再生も大きな力です。ありがたいことです。

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ある日のランチ〜リンゴのトーストなど

2023年10月12日 06時00分08秒 | 料理住居衣服
秋は何かと忙しい季節です。退職して仕事を離れたらのんびりゆっくりできるのかと期待したのでしたが、たしかに通勤がなくなり自由度は増したものの、公私ともに予定がなくなるわけではありません。お昼を済ませて急いで出かけなければいけないときもあります。そんな時間がないときに重宝するのがトーストです。食パンのトーストは、サラリーマンの朝だけではないとっておきの秘密兵器(^o^)/

今回は、厚切りの食パンにバターを塗り、我が家のリンゴ「紅つがる」をスライスして載せた上にマヨネーズをかけて軽く焼き、同じく我が家のサクランボ「紅さやか」のジャムを載せたものです。本当は、レタスを飾り、タマネギやとろけるチーズなどで彩り豊かにして粒粒のマスタードなどで味を調えたい(*1)ところですが、今回は焼く時間も短縮の手抜きバージョン。



まあ、朝食の残りのナスの炒めものとコーヒーがあれば、なんとか格好はつきます。急いで食べて、急いで歯磨きをして、車で出かけました。はて、何の用事だったかな? 忘れました(^o^;)>poripori

(*1): パストラミ・ビーフを使って(1)〜サンドイッチ編〜「電網郊外散歩道」2021年11月

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若い才能を惜しむ〜ソプラノ歌手パトリシア・ヤネチコヴァ逝去に思う

2023年10月11日 06時00分46秒 | -オペラ・声楽
10月に入ってから、ソプラノ歌手パトリシア・ヤネチコヴァに関する以前の記事(*1)へのアクセスが増えており、注目していました。チェコの「タレントマニア」というテレビ番組で優勝し、オペラ歌手を目ざして精進してその成果を見せつつあった時期に彼女に注目した内容だったために、Google 検索ではかなり上位に出てくるブログ記事だったためのようです。その後も、コロナ禍の中で活動が制限されていた時期にも、インターネットにより表現の場を得ていたらしい記事(*2)も書いています。若い人がチャンスを活かし精進して才能を発揮するのを見るのは嬉しいもので、東洋の島国でひそかに応援していたところです。

ところが、Wikipedia の記事によれば、昨年の冬にインスタグラムで乳がんを公表、演奏活動を休止しているとあり、その後の経過が良好でありますようにと祈っていたところでした。今年の春には結婚し、演奏活動も徐々に再開しつつあるとのことでしたので、治療がきいていたのだろうと安心していたところ、最近の同記事に、この10月1日に亡くなったとあります。出典のリンクがすでに切れているようで、報道記事を見つけることはできませんでしたが、YouTube でもいくつかのメモリアル動画が投稿されており、ああ、本当なんだと感じた次第です。まだ25歳、才能とチャンスに恵まれ、オペラ歌手として活躍中だったのにと、残念です。

In memory of Patricia JanecKova.


病気は突然襲ってくる。それは幸不幸、有名無名を問わない。もちろん容姿容貌や境遇、実力の有無をも問わない。ある日突然に病気になり、あるいは発見され、ひどく混乱します。なんで自分が…おそらくそんなことを考えるのでしょう。ただ、私たち一般人とは違って、有名人には健康を省みるゆとりがあるのかどうか。若い人であれば健康に自信を持っているのが普通でしょうし、人気があるということがマイナスに作用する面もあるのかもしれません。

10月は乳がん月間で今日は当地の健康診断の日。なにかと面倒でも、こうした制度的な機会が準備されているというのはありがたいことです。若いソプラノ歌手の早すぎる死を悼むと共に、健康診断という制度に尽力した先人の努力に敬意と感謝です。そして、妻や娘たち、孫たちも健康で過ごせますように。

(*1): へぇ〜そうなんだ!〜パトリシア・ヤネチコヴァのこと〜「電網郊外散歩道」2019年10月
(*2): 新型コロナウィルス禍の年、オペラ歌手パトリシア・ヤネチコヴァの近況〜「電網郊外散歩道」2020年12月

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スモモの伐採とサクランボ果樹園への堆肥散布など

2023年10月10日 06時00分36秒 | 週末農業・定年農業
暑い暑いと言っていたのが一転して急に寒くなりました。体を動かすと汗ばみますが、じっとしていると涼しさを通り越して寒く感じます。特に、風が強くなる午後〜夕方にかけては、体温を奪われて風邪を引きやすい時間帯で、農作業時の服装や作業後の着替えにも気を使います。



ところで、少し離れた園地のサクランボ果樹園と桃・リンゴの中にポツンと一本だけ残っていたスモモがありましたが、残念ながらこれはタイムリーな管理ができず、病害虫のもととなりがちですので、思い切って伐採することとしました。チェーンソーでバッサリ切り倒し、枝を集めて焼却する準備をします。




そんな作業をしているところへ、注文していた堆肥が届きました。畜産会社から直送の完熟牛糞堆肥は2トンで8,000円。ダンプカーで運んできたものを園地の入り口付近にザザーッとおろしてもらい、一輪車でせっせと運んで散布します。雨の合間をみながらの作業ですので、1〜2時間ほど作業をするとブルーシートをかけて雨よけにし、また次の日に作業をします。例年の今ごろはこんな作業は終わっていたのですが、どうも1〜2週間ほど遅れているようです。葉の蒸散作用に伴う吸水力=養分の吸収を考えると、本当はサクランボの葉がまだ充分に残っている間に散布するのが良いのでしょうが、作業の遅れがどんなふうに響いてくるのだろう。とはいえ、桃のほうは葉がまだ青々としていますので、樹勢の回復に効果的に働くことでしょう。



作業の遅れと言えば、里芋とサツマイモ畑の様子も気になります。里芋の方は、9月も後半になってからなんとかマルチを外し土寄せをしておきましたが、カラカラ天気が続いたこの夏の影響で子芋の成長がどんなふうになっているものか、掘ってみないとわかりません。サツマイモの方は、マルチの端っこの方を試し堀りしてみて巨大な芋を掘り出して驚きましたが、逆にマルチの中の方は芋がまるで小さく、高温障害なのか蔓ボケなのか、全体的な結果が知りたいところです。



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山形県立博物館の講演会で加藤セチの生涯を聴く〜高等女学校にも理科実験室があった

2023年10月09日 06時00分53秒 | 歴史技術科学
山形県立博物館のプライム企画展で、「高等女学校と実科高等女学校〜青春の学びと生活〜」という展示をやっているそうです。そこで「理学博士加藤セチの生涯」という記念講演会が予告されていましたので、聴いてきました。「女性科学者のパイオニア 加藤セチ 〜真実一路の生涯〜」と題して、山形県産業科学館の館長の宮野悦夫氏の講演です。氏は先ごろ山形新聞で加藤セチの生涯を取り上げて執筆されており、この上下二回の連載記事を興味深く読んだ(*1)だけに、期待も高まります。入館料は一般300円。



県立博物館の副館長さんの挨拶と講師紹介の後、ノートパソコンとプレゼンテーションソフトを用いて講演がありました。庄内の押切村新田の豪農・加藤家の三女に生まれたセチは、押切尋常高等小学校を出て鶴岡の高等女学校に進みます。この頃、実家が開拓と酪農経営に失敗して没落、父が死去し家は破産します。このため三年時に高等女学校を退学、庄内藩の重鎮の家から嫁いでいた継母とともに山形に出て山形県女子師範学校に入学、特待生として表彰されたくらいに優秀だったようです。卒業後に狩川尋常高等小学校の訓導として赴任しますが、教えることに悩みます。継母の熱心な勧めで東京に出て東京高等師範学校の理科に進みます。ここまでの疑問は;

  1. 継母が東京女高師の存在を知っていたのはどんなルートからだったか。もしかすると、庄内藩の重鎮だった実家・水野家を経由しての情報?
  2. 加藤セチが東京女高師の理科を選んだのはなぜか。もしかすると、鶴岡高等女学校あるいは山形女子師範学校時代にも物理や化学など理科の実験室があり、それらの科目が面白いと思ったことがあったのかも。これに対する宮野氏の考えは、ちょうどその頃に東北帝大理学部に三人の女子学生が受験・入学するという「事件」があり、これらの報道等に接し、理科ならばなんとかなるのではという期待を持ったのかもしれない、とのことでした。

当時、女子が入学できた最高学府が東京と奈良の女子高等師範学校でしたが、尊敬する先生の推薦により、卒業後は北海道のミッションスクールに数学・理科・体操の教諭として勤務します。ここでも勉強の不足を痛感し、北海道帝国大学農学部に女子第一号の全科選科生として入学します。ここで学問に目覚め、農芸化学教室の副手として勤務します。その後、推薦を受けて理化学研究所に勤務、吸収スペクトルによる化学分析を武器に業績を挙げ、女性では三人目の理学博士の学位を取得、後にこちらも理研初の女性主任研究員となります。理研を定年退職後は嘱託として勤務するかたわら若手の女性教員・研究者を集めて理科ゼミを主催し、95歳で永眠する、というものです。

会場からの質問で、太平洋戦争末期、山形でも試作されたロケット戦闘機「秋水」の燃焼試験の不調に接し、燃料成分について20%ほど水で薄めてはどうかと助言したら成功した、というようなエピソードも紹介され、「秋水」は産業科学館で展示しているのでどうぞ、との案内もありました。



講演会の終了後、「高等女学校と実科高等女学校」の展示を見て回りましたが、女子校らしい制服の展示と三台のグランドピアノが目につきました。うち2台は当時のままで、1台は復元修理したもののようです。10月28日(土)と29日(日)には山形西高の高校生による合唱と山形北高吹奏楽部による演奏、11月23日(木)には復元修理したピアノを用いたミニコンサートが開かれるのだそうで、これも興味深いところです。



また、展示の中に、谷地実科女学校を前身とする谷地高等女学校の平面図があり、この中に「地歴博物教室」「同準備室」「理科教室」「同準備室」の記載がありました。学制の中で相当する男子のコースである旧制中学校には、明治24年の「尋常中学校設備規則」により物理・化学・博物の特別教室および準備室、薬品室・標本室等を整備することが記載されている(*2)ことを考えると、これに準じる形で物理と化学を一緒にして「理化教室」、それに生物地学分野が地理歴史と兼ねて「地歴博物教室」とされているものと想像しています。したがって、大正〜昭和初期頃には、高等女学校にも理科実験室があったと判断して良さそうです。ただし、旧山形師範学校のような、グループで実験可能な生徒実験室スタイルだったのかどうかは疑問です。このあたりは、写真帳などに実際に理科教室や授業風景の写真が残っていないか、調べる必要がありそうです。

なお、山形市内の道路拡張工事が終了しており、東北中央自動車道から東進して霞城公園北門に右折する信号ができていいますので、山形市内東側市街地からはもちろん、市街地西側・西バイパス方面からも県立博物館に車でスムーズに行くことができる(*3)ようになっています。

(*1): 理研で主任研究員となった女性・加藤セチの業績のことなど〜「電網郊外散歩道」2022年7月
(*2): 明治期の中学校と理科実験室〜「電網郊外散歩道」2015年10月
(*3): 山形市西部から霞城公園・県立博物館へ行くには〜「電網郊外散歩道」2010年10月〜この裏道情報はもはや不要になりました。

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昼寝をするとほんとに疲れが取れる

2023年10月08日 06時00分26秒 | 健康
最近は年齢のせいか朝早く目が覚めるようになっています。早起きして動き回るためか、お昼前、あるいは昼食後に、猛烈に眠くなります。そこで無理せずに昼寝をすると、疲れがすっと取れてまた動けるようになります。これは、活動時間の長さから見てごく自然なことでしょう。時間配分的には、午前中にお昼寝をするほうが良いのかもしれません。



昼寝の後、まだぼーっとしているときに、お茶を飲んだりラジオ番組を聞いたりすると、眠気が取れるような気がします。以前、1日を2日に暮らす、というような記事(*1)にしたこともありますが、たしかに積極的に昼寝をすると疲れがだいぶ取れて、七十翁(^o^;)でもそれなりに農作業、地域活動、あるいは趣味の読書や音楽、PC三昧に従事し楽しむことができるようです。ただし、夏場ならそのまま居眠りしても大丈夫だけれど、これからはそうはいかない。先日から長袖の下着に替えていますが、風邪引き予防に毛布一枚の心がけが大事になるようです。

李白が「ボクなんか毎日お昼寝をしているよ」と申しております。そういえば、保育園にも毎日お昼寝の時間があったなあ(^o^)/

(*1): 1日を2日分に暮らしていた亡父の生活スタイルは賢明だった〜「電網郊外散歩道」2021年6月

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母の一周忌法要の案内状を配り終えて

2023年10月07日 06時00分13秒 | 季節と行事
母の一周忌まで一ヶ月ほどとなり、主だったところへは前もってお盆の際に予定を伝えていましたが、正式なお使い状をご近所親族に配り終えたところです。遠方へは郵便で送付し、高齢の方々も少なくないことから無理をすることのないように、出欠だけをお知らせくださいと一筆添えました。考えてみれば、両親の兄弟姉妹はほとんど90代、その子ども、すなわちいとこ達でさえ60代〜70代となっています。近隣在住の場合はお互い様だけれど、遠方の場合はどうしても無理がかかります。このあたりは、感情的なものというよりは理性的に合理的に判断するべきものでしょう。逆に言えば、ふだんのお付き合いというか、関わりの深さによるものと言っても良い。自分のこととして考えれば、義理ある人の葬儀等には可能な限り出席したいと思うけれど、形だけの場合はちょっと考えてしまいます。



「遠くの親戚よりも近くの他人」という言葉がありますが、実際に大事になるのはそういうつながりのことが多いでしょう。だから、老父母を遠方の子どもが引き取るという形ではうまく行かず、「老木は植え替えるべからず」と言われるのだろうと思います。もし、私が最後に一人だけになったとしても、子供のところに身を寄せるよりはできるだけ介護サービスを利用し、ご近所友人知人の中で「一人で暮らす」方を選ぶでしょう。我が先祖が大事にしてずっと仏間に掛けてきた「野晒し」の画のように「最後は一人」という覚悟で生きたいものだと思います。もっとも、李白が老猫になる頃には私も90代に突入でしょうから、1人と1匹か(^o^)/



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今年の桃の出荷は過去最高になった〜結果を分析する

2023年10月06日 06時00分03秒 | 週末農業・定年農業
今年、農協に出荷した桃の精算伝票がそろいましたので、結果をまとめてみました。今年の特徴は、非常勤の勤務もなくなり、2019(令和元)年以来の農家専業になったことと、出荷品種「あかつき」「川中島白桃」に「美晴白桃」が加わったことです。例によってパソコンの表計算に入力し、雨降りのお天気を良いことに、いろいろな角度から結果を分析してみました。その結果、

  • ほぼ全量を収穫・出荷でき、出荷数量は増加して箱数ベースで昨年比113%となった。樹はどんどん大きくなるわけで、「あかつき」若木の成長による増加が大きい。
  • 出荷の内訳は、大玉が51%、中玉が33%、小玉が16%と、小玉が減り大玉が増加した。これは昨年の反省を活かし、摘果を根気よく実施したのが効果的に作用したもの。
  • 出荷金額は、昨年比で176%、一昨年比で136%の伸び率で、出荷数量の伸び率と考え合わせると、市況が良好だったこととともに、単価の高い大玉の比率が多くなったことが影響している。

  • 収穫作業に従事した日数は、退職前はほんとに週末農業で頑張っても7日が限界だったけれど、専業となった今年は、お盆の期間を除き、8月上旬から9月初旬まで計20日を超えた。これは見込み違いで、ちょっと多すぎる。
  • この時期、8月末〜9月初旬に桃の収穫と選果、出荷にかかりきりになったために、他の農作業、とくに野菜の種まきと植え付けに影響がでた。毎年70株も植え付ける白菜の作業タイミングを逸したことは大失敗で、影響が大きい。来年は、樹はさらに大きくなるわけなので、従事日数をこれ以上増やさない対策を考える必要がある。
  • 具体的には、反射シートを併用して赤くなるのを促進することと、小玉ばかりがざくざくなりがちな老木を間引き伐採して若木に世代交代することで、経営規模の過度な肥大を抑制すること、などか。

などが判明しました。うーむ、全体的にはサクランボの不作をカバーできるほどではないけれど、明るいニュースには違いない。失敗もあったけれど、私、がんばった(^o^)/

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藤沢周平『玄鳥』を再読する

2023年10月05日 06時00分58秒 | -藤沢周平
読書の秋に、文春文庫で藤沢周平著『玄鳥』を再読しました。この文庫本を最初に読んだのは、奥付けのあたりにメモした記述によれば2006年10月9日、浦安にて、とあります。また、当ブログで記事にしています(*1)ので、まるまる17年ぶりの再読です。当時は表題作「玄鳥」の終わった感というか喪失感というか、温かかった家庭の懐かしい記憶と対比された現実の寂寥感に共感したり、「三月の鮠」の清涼感が映画やドラマにならないものかと思ったりしていましたが、年月を経て着目するポイントがやや増えていました。それは、「闇討ち」という作品を生み出した作家の背景です。



「闇討ち」という作品は、初読時の感想によれば、隠居している三人の仲間のうち一人を罠にはめて闇討ちした中老を、残る二人が逆に仕返しする話なのですが、かつてのように少年時代の友情の現れというだけではない、中高年の仲間意識というか紐帯というか、そういうものが色濃く背景に見えるような気がするのです。作品の最期の部分、

「ちくと一杯やって、権兵衛をしのぶとするか」
めずらしく植田の方から誘った。
「むじな屋か」
「そうだ」
「何かうまいものがあるかな。大根の古漬けはもうわしは喰わんぞ」
「おれも喰わん」
と植田は言った。いい日和だったが二人とも背のあたりに、こういうときにいるべきもう一人が欠けている寂寥を感じていた。口少なにむじな屋を目ざして歩いて行った。

このような寂寥感は、実感として心当たりがあります。昨年、一昨年、あるいはその前と、中学や高校の仲間を病気で失った後の感情は、まさにこうした寂寥感そのものでしょう。おそらくは作家もまた、仲間あるいは教え子の一人を失うという経験を経て、その寂しさを背景にこうした作品を生み出したのではなかろうか。「闇討ち」の発表は1989年、藤沢周平62歳ころの作品です。

(*1): 藤沢周平『玄鳥』を読む〜「電網郊外散歩道」2006年10月

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ピアノの調律が終わると響きが格段に良くなる

2023年10月04日 06時00分48秒 | 季節と行事
9月の某日、ピアノの調律に来てもらいました。私自身は、若い頃にバイエルを練習したものの、Uターンや仕事が忙しくなって続けることができず、さらに右腕の腱を痛めて現在に至ります。子どもたちが独立した今、たまに帰省したときや孫たちがやってきたときに弾く程度になっていますが、ピアノの調律が終わると、やっぱりなんとなくいくつかの和音など弾いてみたくなる。フランス近代音楽ふうの不思議な和音を探し当てたときなど、ああ、この音はこういう音の組み合わせなのかとちょいと嬉しくなります。本当はもっとがんがん鳴らしたほうが良いのでしょうが、そういうスポーツ的な音の快感を求める年代はとうに過ぎていますので、ピアノの調子を維持するのが主眼です。



そう言えば、だいぶ涼しくなりましたので、だいぶ前に記事にした(*1)シューマンの「ピアノ・ソナタ第1番」などを聴いてみたい今日この頃です。私の手元にあるのは、マウリツィオ・ポリーニのLP、エレーヌ・グリモーと伊藤恵のCDの3枚。ネットで探すのが手っ取り早い面もあります。

YouTube より、ポリーニの演奏による第1楽章。
Schumann: Piano Sonata No. 1 in F Sharp Minor, Op. 11 - I. Introduzione (Un poco adagio -...


同じく YouTube より、マレイ・ペライアの演奏で全曲を。
Schumann: Sonata No.1 in F-sharp minor, Op.11 (Perahia)


うーん、秋だなあ。

(*1): シューマン「ピアノ・ソナタ第1番」を聴く〜「電網郊外散歩道」2007年12月

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カタリン・カリコ博士とワイスマン博士の2人がノーベル医学生理学賞

2023年10月03日 06時00分21秒 | Weblog
報道によれば、今年のノーベル医学生理学賞には、カタリン・カリコ博士とドリュー・ワイスマン博士の2名が決まったとのことです。詳しくは今日付けの新聞等に解説が掲載されることと思いますが、主眼は mRNA の医療への応用(*1)を開く発見をした功績によるものと思われます。その有効性を示した実例が、今回の新型コロナウィルス禍と世界的なワクチン接種による一定の沈静化だった、ということなのでしょう。これまでのワクチン開発とは異なり、病原ウィルスやその変異株の遺伝子の塩基配列が明らかであれば、これに対応した修飾mRNAを作ることにより、実際に細胞内に導入しても激しい拒否反応が起こることはない、という点が画期的なポイント。したがって、COVID19 のウィルスだけでなく他の感染症やガン等にも応用できる、という点が将来的には非常に重要でしょう。

iPS細胞の山中伸弥教授との対談(*2)も興味深く聞きましたし、やがてノーベル賞だろうなあとは感じていましたが、いざ実現すると、「あ、やっぱり」という感じです。一般向けの本(*3)も興味深く読みましたが、カタリン・カリコ博士一家のハンガリー出国のエピソードや米国での研究生活の蹉跌などを含んで、映画にもなっているらしいのでこれも興味深いものです。



ところで、予算権限を持つものが誤った「選択と集中」を行うことにより、大切な基礎研究が圧迫されるという弊害が如実に現れることも、両氏の研究の経緯から読み取れます。若い人が短期的な研究実績を求められ、それがないと研究費も研究ポストも得られないという日本の政策は、若い世代の研究活力を奪っているだけでなく、そもそも研究者になろうという志向を阻害しているように思います。まことに残念なことです。おそらくその象徴が、中学高校の放課後の活発なスポーツ活動と対照的に、閑散とした放課後の理科実験室の姿に現れているのではなかろうか。

(*1): 新型コロナウィルスのワクチン接種始まる〜女性科学者の努力に拍手!〜「電網郊外散歩道」2021年2月
(*2): NHKのTV番組でカタリン・カリコ&山中伸弥両博士の対談が興味深かった〜「電網郊外散歩道」2021年5月
(*3): 増田ユリヤ『世界を救うmRNAワクチンの開発者カタリン・カリコ』を読む〜「電網郊外散歩道」2021年11月

【追補】
プレジデント・オンラインに、興味深い記事を見つけました。ポプラ新書でカタリン・カリコ氏についての本をまとめた増田ユリヤ氏によるものです。「パンデミックが起こらず、自分が無名のままでいるほうが良かった」〜President Online より

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ガーデン・ハックルベリーの収穫とジャム作りの下準備

2023年10月02日 06時00分02秒 | 週末農業・定年農業
先日、9月の下旬に、ガーデン・ハックルベリーを収穫しました。昨年までは、隣家の同級生にもらっていたのでしたが、今年は苗をもらって植えてみたところ、立派に育って収穫期を迎えました。





黒くなっている実がついている茎のところをはさみで切り取り、作業小屋の前まで運びます。コンテナを椅子代わりにして、茎から実が房のようにまとまっているのをハサミで切り取ります。要らなくなった茎は、まとめて処分しやすいようにコンテナに集めます。このあたりの段取りと配置が、作業効率に影響します。




たくさん実がついた房の部分だけを菓子箱に集めます。後でこの実をもいでいきますが、今はまず茎から切り取る段階。



すっかり切り取り終わったところで、収量はこのくらいです。BGM は、USB メモリに保存したモーツァルトのピアノ協奏曲集です。




後は、この実を1個1個もいでいきます。黒く熟した実はオーケー、まだ緑色のものはジャガイモの芽と同様ソラニンを含むので有毒だそうです。





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