≪帰ろうかな、帰るのやめよかなー、とありし日の人は歌った。帰ろうかな、君のところに帰ろうかな、でも君は遠いかなた≫
≪人は記憶の中の眼差しに身震いする。目が矢になって貫くもの、それが虚をこころという不可解なふわりとしたものを射ぬく≫
≪遠くからやってくる目線があり、その目線に返せない実存の沼がある。その沼であえいでいるが、沼が本体になってしまう日常≫
≪あれとこれとそれと、やらねばならないことばの論理化があり、対象化があり、襲われるような気分になったりしているが、実はそれが生きる糧になっていたりする。ほんとうはいつでも君と海辺を川辺を森の海を泳ぎたいのだ。ただその日のために生きているような幻想を抱いたりしている≫
≪死がすべてに決着をつけるまでの猶予があり、それまでの一歩一歩を病室で闘う日々、人は行かなければならないところに向かっている。明日のあなたもわたしも虚無の中、実存はあなたやわたしが生きる闘い(歓びや苦吟や陶酔)の中で表出したもの、あなたとあなたの実存の片鱗をことばの形にするのがわたしのあなたへの約束で、それは果たさなければならない。リュックを担ぐ日々にもはや誰彼の目線など気にならない。あなたの眼の色のカスミに心が曇ったり、それでもあなたの闘いの姿を写真に撮り続けるわたしがいる≫
≪ほんとうのことばを交わしたことがないのだ。ほんとうのことばとはなんだろう。怒りなく、おだやかに生きていることをただねぎらえることばがあったらいいね。傷のなめ合いではなく、ほんとうの思いをことばで語りえることができたらいいね。齟齬もなく刃もなくただいたわりあえることばと互いの実存そのものを認め合えることばと空間、んんん、ことばが棘になりことばが殺し合いにならない対話が永遠に続くようなそんな束の間の幸せな気分が持続できたらいいね、関係の絶対性に縛られることのない鷹揚な飛べることばのありかはどこ?≫