(ミー母さんと娘の黒子ちゃん)
どちらかというとクラシック音楽が落ち着く。ジャズもいいが、あまりFMから流れない。たまたま、テレビがないので、コマーシャルがないNHKのFMをオンにしていると、流れてきた。FMシアターである。
スイートメモリーズ、はAIペットのポーちゃんと75才のつるさんだったか、その女性と娘ジュン子、お隣のツトムさんなどが登場した。
つまりペットロスのないAIペットとの深いつながりを描いている。そのロボットペットもしかし機械ゆえに壊れる。壊れたゆえにパーツの部品を他のロボットペットの部品として提供するお話しだが、母娘の愛情の絆も描いていた。
ちょっとメロドラマ風でもあったが、AIペット犬とワークホーリックで懸命に働いてきた女性の人生や親子関係、会社の光と闇の部分も垣間見せる。
AIロボットペットのお葬式は、実在の犬のように、喪失感を与え、心に刻まれる。ロボットペットと人間の関わりという点が新奇な面白さだろうか。ペットロスはAIでも起こった。
以前、タマゴッチと言うゲームがあり、一時はまった記憶がある。たまごっちに食事を与え、それが死なないように頑張っていた記憶が残っている。もう20年以上前だっただろうか。子供が先に夢中になっていて、こちらもやり始めた記憶が残っているだけだが、育てるという点で、母性本能をくすぐっていたようにも思える。
ゲームでありながら、飼育に取りつかれていくような仕組みだった。死なないようにが、テーゼのように夢中になっていたのだろうか。いつのまにか忘れてしまった。このFMシアターを聴いて、どことなく似ているなーと感じた。
ロボットでも、ペット犬のように振る舞う存在に愛情を注ぐ気持ちはありえることだと言える。たかがゲームのたまごっちに揺り動かされる私たちゆえに~。このシアターの中で新しいAIドッグは飼育のように大きく育てることも今では可能だと業者の男性が話していた。アンドロイドやクローンのような存在そのものとどう変わるだろうか。
AIペットに感情移入することは十分あり得るし、この物語がそうだ。壊れたペットAIの機械の一部が他のペットAIの壊れた部品に置き換わり、修理(治療)をへて蘇る物語だが、人間も機械と融合した存在としてありえる近未来も想像させる。
例えばことばが通じない猫たちでも、普段に言葉をかけていると、分かっているような気になってしまう。かれらが実際にことばを理解しているかいなかは問題ではなく、話しかけている。ひょっとしたら分かっているのかもしれないと思ってしまう。
彼らは名前を認識している。音で知覚しているのだろうか。ある決まった表現、ことばに条件反射的に対応しているのだろうか。なぜか寝床にやってくるときの彼らは、何かスキンシップを必要とする、存在の不安などに陥っているのだろうか、といじらしくもなる。
抱きしめて大好きだよと声をかけてあげる。心配しないでいいよ、とか、いろいろ~。声を発して、あい、と返事をするのはシーバだ。一番声音がいいのは黒子で、ドアを開けてほしいときなど、外から声を出す。なき声は、単に泣くではなく、伝達する声(なき声の種類による)、ことばになっている。
スイートメモリーズは、AIペットなどの機械や電化製品の修理を引き受けているショップの名称である。AIペットのみならず、電化製品もまた人間と物との深い絆を持っていることを暗に示している。
フェティシズムとも異なる人間とその他(AIや自動車や有機&無機物)の結びつきもありえる。このFMシアターの場合、ツルさんのおとなりのツトムさんの愛車は太郎と名前が与えられている。「太郎、今日もよろしくな」などと話しかけていてもおかしくはない。話題が拡散しているかもしれない。
AIペット犬と、若い頃キャリアウーマンだった75才女性の物語である。彼女のAIペットポーへの愛着(愛情)は生きた犬と変わらない。代替可能な生き物として登場するAIペットだろうか。寂しい人間は、愛を分かち合う存在が必要な存在。それがAIペットの近未来ではなく、現在のリアルを描いている。そこには実在する母と娘の絆もまた描かれていた。
人間の関係性の心理的な綾は、家族であればあるほど、「母を捨てる」「母を捨てるということ」「母という呪縛 娘という牢獄」の書などが登場するように、すさまじいものがある。ツルとジュン子の間にも隙間風が吹いていたようだ。今時は「親を捨てる」子供も不思議ではなく特集が組まれたりしている。
親子関係の軋みの中で、独身男女が増加する中で、老後の孤独を共に生きるAIロボットの登場は、ペット犬や猫に替わっていくのだろうか。必ずしもそうではないと言えるのかもしれないが、AIペットは増えていくのだろう。
*****************
初回放送日:2023年6月17日
~心を思い出させてくれたのは機械でした~ 【NHK FM】 2023年6月17日(土)午後10時~午後10時50分(全1回) ★「聴き逃し」配信あり(放送から1週間) 【出演者】 三田和代 大路恵美 清水綋治 福井裕子 村上かず 原田翔平 下井明日香 山田海人 【作】 松田裕志 【音楽】 長生淳 【スタッフ】 制作統括:藤井靖 技術:大神真樹 音響効果:林幸夫 演出:木村明広
【あらすじ】 夫に先立たれ一人暮らしをしている70代の主人公。心配して様子を見に来てくれる娘とは折り合いが悪い。家族のためにと家庭を顧みず共働きでがんばってきた人生だった。子供の頃あまり一緒にいてやれなかったことがわだかまりとなり、娘ときちんと向きあえないのだ。 そんな彼女が大切にして共に過ごしているのが「ロボット犬」のポーちゃん。ペットのように世話がかからないし、夫のように死んだりもしない。いつまでも一緒のはずだった。 だが、ある日不具合を起こし、古い型ゆえパーツ交換での「治療」も出来ないと分かる。思い出を共にしてきた機械のパートナーとの別れに混乱するのだが……。 生き物の替りだった機械が気付かせる、心と心のふれあいの物語。