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FMラジオから流れるリストのピアノのリズムは、悲哀感がこもる。
まさに今、はるか上空のステルス戦闘機、そして目に見える自衛隊ヘリが通過していく。
ここはミサイルが飛んでくるわけではないが、日常生活への爆音攻撃は米軍基地からかけ離れている那覇でも変わらない。もちろん、絶えず米軍機が離着陸する嘉手納や北谷に住む住民は、物凄い爆音被害に晒されている。
妊婦の流産や死産も多いのだと、かつて産婦人科の看護婦で、海外で支援活動をしたいと、大学に再入学した50代の女性から聞いた事がある。
小さな沖縄の島々は全域が米軍や自衛隊、また他の国々の演習地になっている。
そうした異常さは、今カーカー鳴いているカラスの鳴き声を打ち消す威力で侵入してくる。
それでも庭には鶯も目白もやってくる。
猫たちは、敏感に反応する。人の足音にも瞬時に耳をそば立てる彼らにはいつも驚かされるが、ステルス戦闘機は、金属音を空から拡散してサッと通り過ぎる。ヘリも足早に逃げる風である。ゆえに猫は逃げることはなく耳のアンテナで反応する。
明らかに、ステルス戦闘機と自衛隊ヘリは、呼応しあっていると感じさせる。何かが起こっているのか、彼方で、蠢いている何かが、あるのかも知れない。
リストのピアノ曲は、どこか物悲しい。悲哀と歓喜は交差しあっているとも言えよう。人の世の宿命としての悲しみを掬い取っているような旋律だ。
物悲しいが、力強さも醸している。
今度はパトカーのサイレンが鳴る。昨今はひねもす救急車とパトカーのサイレンが響いている。
どことなく、不穏な空気が漂っている。
リストのピアノの旋律は思念を深めてくれるようだ。
深夜にあらためてリストのピアノソナタに耳を澄ましたい。