東京輪舞 月村了衛
面白い小説です
ノンフィクションて言ってもいいくらいに取材されてます
警察内部の確執を縦糸に美人ロシアスパイとの駆け引きを横糸に
おりなされる話にのめりこみますぞ
まずはあらすじから
1970年代昭和の時代、田中角栄が日本列島改造論を唱え
地方へ公共投資を推し進め日本の経済が目覚ましい発展を遂げた時代
そんな時代に警察へ入った砂田。
田中角栄の警備に当たった砂田は、角栄を狙う暴漢と対峙し怪我をおう
そんな砂田を病院に見舞う角栄という場面で物語が始まるのですが、
警察は、治安維持を担う公安部と刑事事件を追う刑事部があるが
砂田は公安部外事課へ配置され、スパイ活動を取り締まる立場となる
1976年時の総理大臣、田中角栄が逮捕されるという衝撃的なニュース
ロッキード事件である
砂田はCIAの下請けでロッキード社の元社員を追うが
ソ連のスパイ、クラーラに妨害される
1986年、外事課で手腕を発揮している砂田に部下が情報をもたらす
東芝、東芝機械、伊藤忠の3社にKGBが接触していると
そのスパイの中にはかつてロッキード事件のとき煮え湯を飲まされた
美人スパイ、クラーラの名前があった
東芝によるCOCOM違反事件である
1991年、ゴルバチョフによるペレストロイカが推し進められているソ連。
いったいソ連は何を行おうとしているのか?
混沌とした東側陣営。
そんなか、東京の片隅のソ連系商社で殺人事件が発生した
犯人を追う砂田の前にクラーラが現れ
またも砂田はクラーラに翻弄される
1994年 砂田はかつての上司に呼び出され「オウム真理教」という
宗教団体の調査を依頼される。
調べるうちにオウムが恐ろしい団体であることがわかる
砂田は、外事の伝手を使い、オウムが「ヨーシフ」というロシア人を使い
数々の武器を北朝鮮やロシアから調達していることを突き止めるが
地下鉄サリン事件を止めることができなかった
1995年、後手に回った警察をあざわらうかのように
警察庁長官が何者かに狙撃された。
捜査方針をめぐり、公安部と刑事部が対立する中、
砂田はひとり、ヨーシフを追い続けるのだが
阪神淡路大震災で唯一の手掛かりであったヨーシフとの接点を失ってしまう
そこに現れたのはKGBのクラーラで
砂田に北朝鮮を洗えと示唆して消えていった
2001年
クラーラとの関係を疑われ、また公安と刑事部の軋轢に巻き込まれた砂田は
公安から刑事部へ左遷されて、成田空港の警備部に飛ばされていた
そんな砂田に驚愕の情報が入った
成田着の便に金正男、金正日の長男が乗っているというのだ
金を確保し取り調べに立ち会う砂田。
持っていたメモから金正男は、北朝鮮のミサイル購入の資金調達係として
動いていることを確信するが、当時の田中真紀子外務大臣の
要請により、金を開放することになる
2018年
警察を退職した砂田は、自分が関与してきた事件を振り返り
田中角栄の墓前にたたずむ
昭和、平成とは何だったのか
田中角栄がロッキード事件に巻き込まれずそのまま宰相として
日本を導いていたら、日本はどうなっていたのか
年老いて、東京のスーパーマーケットで食材を選ぶ砂田の前に
同様に年老いたクラーラが現れる
そして手を取り合い輪舞を踊る2人
それは儚い夢であったのか
すごい大作ですが、一気に読まさせます
面白いです
1970年代から自分が生きてきた時代の話なので
当時の思い出がよみがえりながら読了しました
ロッキード事件、まだ幼い中、黒いピーナッツや
コーチャンなど語感が面白いので印象にのこってます
COCOM違反なんかは、特に実感がなかったですが
いまさらながら、不正経理などで取りざたされている東芝の
会社としての体質が、そのころから腐っていたという話なんでしょうね
ペレストロイカの、ソ連崩壊の話の中で
さりげなく出てくるのが、ウラジミール・プーチンの名前でした
当時はKGBの一員で、要職にもなく暗い顔をした陰鬱で矮小な人物
それが今では、ロシアという大国の独裁者になり上がっています
作者の月村さんも、これを書いていた当時2017年くらいでしょうか
こんな事態になることを予感してたのでしょうか
オウム事件は恐ろしかったですね
当時、名古屋で暮らしていたのですが
近所の公団住宅にオウム真理教のポスターが貼られていました
空中浮遊する麻原彰晃のすがたが不気味でしたねえ
それから数年後です
長野のサリン事件が起こり、てっきり一般人である隣人の農薬が原因かと
警察はミスリードしてました。
それが、災いし地下鉄サリン事件が起きてしまった
日本で最大最悪のテロ事件です
その後数か月、テレビに映し出された上九一色村のサティアンは
本当に不気味な姿をさらしてましたね
そして、金正男
優位な外交カードのこの男を無為に放出したことで
拉致被害者の帰国がとん挫したといってもいいのではないでしょうか
それを考えると、当時の田中真紀子、小泉純一郎の無能さには
残念でなりませんね
この本の中でも書かれてましたが
小泉が推し進めた、郵政民営化に代表される構造改革
これが果たして、日本の国民に良い結果をもたらしたのか
数十年にわたる疲弊した経済
これでよかったのでしょうか
そんなことはわかりません
結果ですね
貯金もなく、狭い一戸建てのローンが65歳まで残ってます
娘2人はなんとか社会人となって巣立ってくれました
それだけで何もない
年老いた猫と嫁だけが家にいます
毎日、食べるものと寝る場所があるだけましか
そんなことまで考えさせられる、面白い本でした
同じ世代のおっさんに読んでほしい小説ですね