ぬえの能楽通信blog

能楽師ぬえが能の情報を発信するブログです。開設16周年を迎えさせて頂きました!今後ともよろしくお願い申し上げます~

まばたき。

2006-01-26 01:27:54 | 能楽
今日は朝からお弟子のお稽古に出かけていて、夜は2月11日の研能会のための『鵜飼』の稽古をしていました。

ところでお弟子さんから1月の研能会初会の「千歳」の話題が出て、「よくまあ、あれだけ微動だにせずに。。」と言われました。「微動だにしない」というのは「千歳之舞」が終わってからの話で、あとはおシテが舞うので、その間は千歳は脇座でずっと平伏している、その間の事です。「翁之舞」が済んでおシテが面をはずし、正先に出て、登場した時と同じく正面に拝礼するまで千歳はずっとそのままで、拝礼のあとおシテと一緒に立ち上がって幕へ引きます(「翁返り」と呼ばれています)。

お弟子さんからは「微動だにせずに」と言って頂きましたが、実際には微動だに、どころか「まだたき」さえしていないのです。。いや、それはちょっとオーバーか。。2度、「あ、やっちゃった。。」と思いながら まばたきをしてしまいました(白状)。でもまあ、30分間で2度、だから、まあまあ成績は良かった方かなあ。

去年はある野外能で『熊坂』の前シテを勤めさせて頂きました(はいそうです。前シテだけ。。後シテは先輩が勤めました。なんだか不完全燃焼だった ぬえは秋に別の会で舞囃子で『熊坂』を舞いましたー。あーやっとスッキリしたー)が、その時は一度も まばたきをせずに勤める事ができました。クセを抜いたから、実際の上演時間は20分程度だと思うけれど、気力が充実していたのでしょうね。

「まばたき」ってのは本能の一部でしょうから、長い時間それを止める、なんて言うとなんだか難しい事のように聞こえるかもしれませんが、じつは集中さえできれば、案外簡単に止められるものなのです。少なくとも稽古や修行によって得られるものとはまったく関係がありませんね。その証拠に ぬえも「今日は一度もまばたきをしないで勤めてやる!」なんて意気込むと、これはムチャクチャな結果に終わります。(-。-;)

能は「動かない」事の方が、むしろ舞う事よりも難しい場合が多いし、繊細な型をする場合などは、呼吸にまで気をつけないといけない事もあるのです。「息をしている」という事がお客様に分かってしまうと、それだけで幻滅、という場合もあるので。。ですから面を掛けていても、そういう場面では まばたきはしません。ましてや『熊坂』の前シテなど直面のものは まばたきさえも「演技」になってしまう事があるのでかなり神経を使いますし、「千歳」に到ってはお客様のすぐ目の前で、しかも大切な『翁』のおシテが舞うそばに控えている間は、呼吸も低く低く抑えています。こんなに気を遣うからなのかなあ、シテ方には「直面の曲はキライ」と言う人も多いですね(「直面で舞うのは。。恥ずかしい」という理由で直面を嫌うシテ方も。んー、それはそれで気持ちはわかる。。)

同じ理由で、仕舞や舞囃子など直面で勤める「略式」の演式では まばたきは厳禁です。もっとも こういう場合は能とは違って 登場している間はほとんど立ち上がって舞っているので、後ろに廻る時などには まばたきをしてもお客様には分からないでしょう。まあ、仕舞程度の短時間で まばたきをするシテ方はいないと思いますけれど。。