ぬえの能楽通信blog

能楽師ぬえが能の情報を発信するブログです。開設16周年を迎えさせて頂きました!今後ともよろしくお願い申し上げます~

能の拍手について

2006-01-28 09:21:24 | 能楽
最近ミクシイでこのブログと同じ「ぬえの能楽通信」という名前でコミュニティを立ち上げました。

http://mixi.jp/view_community.pl?id=573607

すると能の拍手について質問の書き込みとメールを頂きました。なるほどー、やっぱりお客様としては悩まれる問題でしょうから、この場でもちょっとまとめてみよう、と思います。

能では普通は上演中ではなくて、曲目が終わったときに拍手が起こっていますね。細かく言えば、シテが橋掛りを歩んで幕に入るところ(三之松を越すあたり)で拍手をするのがなんとなく決まりのようになっています。

曲目や演出にもよりますが、多くの場合この時にはまだワキはようやく舞台から橋掛りに掛かった頃のはずなので、このワキが同じく三之松あたりに差し掛かった時に二度目の拍手がワキに向けて送られます。さらにワキが幕に引いて、作物があれば後見によってそれも引かれると(後見には拍手はしません)、囃子方と地謡が立ち上がって退場します。この時に三度目の拍手が起こるのですが、囃子方は橋掛りを通って幕へ引くのですが、地謡は座着いている位置のすぐそばの切戸口に引くので、この三度目の拍手は囃子方・地謡が立ち上がって歩み出す頃にすぐに拍手が起こるようです。

というわけで拍手が起きるとしたらこのタイミングですので、もしも演者に拍手を送りたいっ、と思われる方がありましたら、(ありがたや~)これをご参考にされて、ほかのお客様の動向を見ながら(←ここがポイント=詳しくは後述)拍手を頂ければありがたく存じまする。

ところが、曲目や演出によってはシテは曲の最後に、まだ地謡が謡っているうちに幕に退場してしまう場合があるのです。この時はさすがに上演中ですからシテへの拍手は出ずに、ワキと、囃子方・地謡への二度の拍手が起こります。またワキが先に引いてしまう曲もありますので、この場合もワキへの拍手はナシになります。

(余談ながら、時折 地方都市でのホール能などで、前シテの中入で拍手を頂いたりしますが。。これもまだ上演中なので、拍手は後シテの退場の際にお願いしたいです)


。。ところが、拍手がどうしても一回しかできない曲があるのです。(^^;)

これは『夜討曽我』で、この曲はシテ(曽我五郎)の仇討ちのお話しなのですが、それが成功したあとの、曲の最後の部分では、シテは警護の武士に捕縛されて連行されてしまうのです。地謡が謡っているうちにシテは縄を掛けられてビューーーン! と引っ立てられてしまうので、能が終わった時には舞台の上には誰もいないという。。(!)そこで、曲が終わるとあとは囃子方・地謡が粛々と退場するだけで、ここにだけ拍手が送られるのです。シテが捕縛される曲はほかにもあるけれど、舞台に誰も残っていない、という演出の曲はほかにないですね。

。。で、ここからが【重要】なのですが。

能の中にはとっても寂しく、静寂な雰囲気で終わる曲があるのです。こういう曲の場合は拍手は一切起きません。シテやワキだけでなく囃子方・地謡へも拍手は一切なし。これは決して約束事のように決められているのではありませんで、自然発生的に拍手が起きないのです。拍手が静謐な余韻をぶち壊しにしてしまうから、お客様ご自身でその雰囲気を大切にされておられるのでしょう。           (続く)