ぬえの能楽通信blog

能楽師ぬえが能の情報を発信するブログです。開設16周年を迎えさせて頂きました!今後ともよろしくお願い申し上げます~

能の拍手について(その2)

2006-01-30 23:26:06 | 能楽
時折 見所(客席)にお見かけするのですが。。なぜか、「オレが拍手を一番にするのだ!」と身構えておられるお客さまがおられますね (^◇^;) これはこれで応援してくださっている気持ちのあらわれなのですからありがたい事ではありますが、とても余韻の深い能が終わったとき、会場に集まっておられるお客さま全員が、静寂な余韻にひたっておられるその瞬間。。 なんというか「この雰囲気を壊しちゃいけない。。」という空気が能楽堂中を支配しているその中で、二時間の能を舞い終えたシテが しずしずと幕に入るその時! それでも拍手をされる方が。。 (((((゜゜;)

ぬえは見所で能を拝見している時に、こういう拍手をしちゃいけない雰囲気の中で拍手をされた方があった場面に遭遇しましたが。。その瞬間見所じゅうが凍りつきました。。能楽堂全体に「。。ん。。む。。」とうめき声ともつかない、雰囲気を壊された事への怒りの声を呑み込むような音が。。ぬえはその時「殺気」を感じました。。いやホント(あと、静かな場面で携帯が鳴った事も。。この時は舌打ちの音がここかしこで。。)。くわばら くわばら。。

。。結局、拍手はした方がいいのか、しない方がいいのか?

上記のような静謐な雰囲気で終わる能では拍手はしない方が良いのですが、「能に拍手は要? 不要?」と一般的に能全体について言うのならば、これは結論が出ないでしょう。誰だったか、「拍手はやめようではないか」とサイトで呼び掛けている方もあったと思いますが、飛んだり跳ねたり、斬組があるような派手な曲では「面白かった!」と演者に声援を送る意味で拍手をしたくなる気持ちは当然の事でしょう。白状しますが ぬえ個人の気持ちとしては、ほかの能楽師に怒られちゃうかも知れないが。こういう荒々しい曲をこちらも気持ちよく全力で舞ったのに、退場する時に拍手が起きないと、ちょっと淋しいのです。。「あれ? 出来が悪かったかな。。」なんて心配になってきたり。。ね。

「静謐な雰囲気で終わる曲」にしたって、曲名をここで挙げる事はできません。と言うのも、ぬえ、同じ曲で拍手が出た場面も何度も目撃しているのです。。つまり演じられる曲目そのものが何であるか、という事以上に、それを演じる演者の力量によって、拍手もはばかられるほどの感動をお客様に与え得た場合だけ、拍手が自然に消滅する、それでいいのでしょう。

ですから「拍手の是非」が論争の焦点になるべきではなくて、演者に感謝とエールを送る意味で自然に拍手したくなる気持ちを抑える必要はないと ぬえは思いますし、静かな感動を与えられた時には、自分を含めたお客様の余韻を壊さないためにも、心の中で演者に拍手を送ればよいのではないでしょうか。

拍手についての決まりを固定して ぬえが押しつけてしまう事を最も恐れますが、もしもお能をはじめてご覧になる方がこの記事をお読みになっておられて、やはり「拍手のやり方」を知っておいて、ほかのお客さまとご一緒に演者を応援してくださりたい、と思われるのでしたら。。この記事の最初に書きましたように、三度の拍手が事実上標準的に行われていると思います。これに加わって演者を応援して頂ければ演者にとってもありがたい事だと思います。でももしもご覧になった能がたまたま静寂の中で終わったならば、周囲のお客様の動向を観察してみて、拍手が起きなければ心の中で拍手を送るにとどめて頂いて、ほかのお客さまが余韻を味わっておられるお気持ちを大切にして差し上げて頂ければ、と思います。

ご意見もある問題だと思いますので、とりあえず一般論として書き込んでみましたー