ぬえの能楽通信blog

能楽師ぬえが能の情報を発信するブログです。開設16周年を迎えさせて頂きました!今後ともよろしくお願い申し上げます~

第8回狩野川薪能(その3~お稽古始め)

2007-03-12 00:13:02 | 能楽

一昨日の3月10日、いよいよ伊豆の国市で、夏の『狩野川薪能』のためのお稽古が本格的に始まりました。ついに始まったねえ! 楽しいお稽古の日々が!

今回はお稽古始めということで、最初に子ども創作能『江間の小四郎』の台本を配り、その読み込みから始めました。う~ん、やっぱり最初からは声が出ないか。。とくに役のある子はよほど大きな声を出さないと、野外の薪能では声は通りません。ま、薪能の当日には毎度、問題なく声が出るようにはなっているので、今から心配する必要もないのかも知れませんが。

面白いことには、最初っから大きな声が出る子もいるんですよね~。そして声を出す様子から ぬえは子どもたちの観察もしています。ははあ、この子は恥ずかしがり屋だな。ふむ、この子は磨けば自信を持ってできる子か。あれ?声は大きいけれど、この子は はしゃいでしまって稽古が難しいかな? おやおや、この子は勝ち気。ケンカが起きなきゃいいけど。。 こういう観察をした子どもたちが、稽古が進んで行く中で、だんだんと変わっていく。。成長していくところを見るのもこの薪能の大きな楽しみです。

さて今年の「子ども創作能」は、去年のバージョンよりも少しだけ内容を改訂していて、詞章はほとんど ぬえが作ることになりました。ただしワキ方の領分になる箇所は、ワキ方のY氏の作になります。この方はとっても文才があって、良い詞章ができました。

まあ、ニューバージョンではあるけれども、去年の薪能に出演した子もいるし、お稽古は去年よりもラクになるかな? と考えていたのですが。。甘かった。登場人物を増やしたこと、今年はなぜか10名以上の「新人」が参加していること。そのうえ薪能の出し物は「子ども創作能」だけではなく、中学生には仕舞を勤めてもらい、さらに ぬえがシテを勤める玄人の能の子方もこの子たちから選抜していて、その稽古もしなければなりません。この日はやっぱり目の回る忙しさの稽古となりました。

去年の薪能の主役である6年生の子は、4月からは中学生。この子たちには「子ども創作能」では地謡のお手伝いをしてもらい、そのほかに能の古典の曲に挑戦してもらうことにしていて、今年も仕舞を舞ってもらいます。上演時間の制約もあって、4人ひと組で一番の仕舞を舞うことにしたのですが、曲目を決めたのはこの稽古の前日。ちょっと面白い趣向がひらめいて、仕舞『東方朔』を教える事にしました。子どもが舞う仕舞としてはちょっと渋い曲目選択ですが、稽古を始めてみたら、やはり思った通り 子どもが舞うからこそ出来る趣向が、この曲だからこそ実現可能。これはちょっとお客さまには面白く思って頂けるかもしれません。

そして玄人能『一角仙人』の子方のお稽古。この能の子方は龍神二人で、これは過去にこの薪能でも例がないほど難しいお役でしょう。ぬえの方もまだ型を決めかねていて(この曲、龍神との戦いの場面の型はほとんど決められていません。一応の型、というのはあるのですが、それはとっても簡単に書かれていて、型付けにも「工夫あるべし」なんて書かれています。能はがんじがらめに型が決められているように思われがちで、現にそのような曲も少なくないのですが、このように演者が創作する?事を許す例は多いのです)、今回は基本的な切り組みの型の稽古だけに終始しました。

ところで、今日はこの薪能の創始者・大倉正之助氏もご多忙のところ参加してくださって、子どもたちにお話しをしてくださいました(タイトル画像参照)。さらに笛方のT氏も東京の舞台から直行してくれて、薪能では子どもたちによる囃子(つまり大鼓と笛)の発表もできる事に。この日は囃子の体験から、演奏希望者を募って、本格的な稽古にまで進むことができました。いや、この囃子の稽古がまた。ぬえにはビックリするような上達ぶりで驚きました。(これについてはまた次回)