ぬえの能楽通信blog

能楽師ぬえが能の情報を発信するブログです。開設16周年を迎えさせて頂きました!今後ともよろしくお願い申し上げます~

研能会初会(その34)

2007-04-20 00:41:05 | 能楽
通例の「翁付脇能」の上演は次のような順番で上演されます。

「三番叟」が幕に入って、囃子方は床几を下りてクツログと、ここで大小鼓はいったん素袍の両肩を入れます。そして小鼓のうち脇鼓の二人が常の能の終わりのように道具と床几を持って立ち上がり、橋掛りを歩んで幕に入ります。この頃、シテ方の後見は面箱を持って切戸に引き、狂言方の後見も引きます。シテ方の後見が引いて地謡座にスペースができると、『翁』の間 囃子方の後ろに着座していた地謡は立ち上がり、常の能の地謡座に移動して着座します。「翁付脇能」となると、上演時間は2時間半前後になるので、ここで いったん立ち上がる事は地謡には非常に助かります。。と言っても笛方と太鼓方は『翁』~脇能~さらに脇狂言と、場合によっては3時間ずっと正座のままなのですから、脇狂言の上演前に退場するうえに、この場面で立ち上がる地謡は申し訳なく思わなくてはいけませんね。そして迅速に移動しましょう。(←自戒)

地謡が着座したところで、常の能の上演開始と同じ状態になりました。作物がある曲の場合は、ここで後見が作物を出します。

後見が切戸に引くと、再び小鼓だけが床几に掛かり、素袍の両肩を脱ぎます。さっき素袍を着直したばかりなのですが、『翁』と「脇能」は連続して上演はするものの、内容が連続しているわけではないから、ここでひと区切りをつけるのでしょう。『翁』で「翁帰り」のあと小鼓方はいったん鼓を膝に下ろしますが、床几には掛かったまま、素袍も方を脱いだままで、再び鼓を肩に構えると「三番叟」の「揉出し」を打ち始めます。この「翁帰り」と「揉出し」との間はごく短い時間なので、床几から下りるほどの余裕がない、という事もありますが、「三番叟」の「揉之段」と「鈴之段」との間の、「三番叟」が後見座で「黒式尉」の面を掛ける長い間でも、やはり小鼓方は床几から下りることはありません。『翁』の中で「翁」と「三番叟」が不可分な事をこの作法は示していて、『翁』と「脇能」との間の作法と好対照です。

さて小鼓方が床几に掛かると、いよいよ「翁付脇能」の最初の「習い事」である「礼脇」が始まります。「礼脇」は前回の記事でも触れたように「置鼓」の一種で、「翁付脇能」の冒頭、ワキの登場の場面に限って上演されるものです。ぬえが小鼓の師匠から頂いた手付けでは「礼脇置鼓」と表記されていました。

実際の上演方法は、少なくとも前半の囃子方(笛と小鼓のみ)の演奏はほかの「置鼓」とほとんど替わらず、まず笛方が「呂」、続いて「干カン」の手を吹き(おそらく「礼脇」のための専用の譜。笛の譜は ぬえも所持してはいますが、ほかの「置鼓」の譜と比較したことがないので。。機会をみて比較調査してみます。。)、それが終わると小鼓が置鼓特有の手を打ち、再び笛の独奏、またそれが終わると小鼓の独奏。この後は笛が吹く演奏の中に小鼓も加わって、二人の演奏が続き、笛が「ユリ」の手を吹くところでおワキは幕を上げて橋掛りに登場します。

拝見した限りでは、おワキは常の脇能の際の「真之次第」と同じ型をなさっておられるようですね。幕際の三之松に登場すると両袖を拡げてつま先立ち、かかとを下ろしてから右手で正面をサシ、その手を下ろして橋掛りを歩み行き、ワキツレもそれに続きます。もっともおワキは笛と小鼓の手を聞きながら、ほど良く舞台に入れるように橋掛りを歩まなければならないのですから、やはり「置鼓」での登場はおワキにとっても難しい役ですね。