ぬえの能楽通信blog

能楽師ぬえが能の情報を発信するブログです。開設16周年を迎えさせて頂きました!今後ともよろしくお願い申し上げます~

梅若研能会1月例会 終わりました

2006-01-11 00:50:16 | 能楽
昨日、師家の初会 梅若研能会1月例会が催されました。

『翁』~『賀茂』(御田・素働)まで終えて地謡が楽屋に帰ってきたところで時計を見たところ、所要は2時間50分でした。お囃子方は、さらに休みなく『福の神』を勤められたので、全体では3時間15分ぐらいでしょうか。。翁付きでここまで小書が付けられていた事を考えると、むしろ上演時間は少し短めにすんだ、と言えるかもしれません。。いずれにせよ、出演者も、そしてお客様にとっても、体力の限界に挑戦するような演式だった事には変わりありませんが。。みなさまお疲れさまでした~ m(__)m

お笛や太鼓、そして地謡のみなさんも、あれだけ長く座る事も大変なのですが、千歳と天女のお役を勤めさせて頂いた ぬえは賀茂が終わった時には彼らとは反対に「やっと座れる。。」と思いました。

なんせ、開演の一時間前にはすでに千歳の装束を着け終わり(なんと開場時刻より前!--『翁』は開演の前に楽屋で出演者一同 神酒を頂く儀式があるためです)、千歳を終えて装束を脱いでから五分後には天女の装束を着け始めました。。と言うことは。。考えてみれば装束を着ていた時間は上演所要時間より1時間長く、3時間50分間という事になります。。実際に舞台に出ていた時間は千歳で30分間、天女も同じく30分間の、あわせて1時間にしか過ぎないのですが。。

そして、その間 ぬえは楽屋でほとんど立ちっぱなしでした。もとより楽屋ではシテ以外は床几に腰掛ける事は許されないのですが、最近は装束を着けたままで正座をすると装束が傷むので、着付けが出来上がったあとは楽屋で立っている事が多いのです。今回のように待ち時間が極端に長い時には、例外的に床几に掛けさせて頂ける場合もあるのですが、その時間を除いても3時間は楽屋で立っていたでしょう。(。_・)

かんじんの千歳と天女の出来ですが、自分としては「まあまあ」というところでしょうか。天女で一カ所、一瞬バランスを崩しかけて「おっと。。」と思った所がありましたが、それ以外は大過なく勤める事ができました。(あいかわらず力みすぎてしまうところは。。課題ですが)

それにしても、千歳はともかく、『賀茂』の後ツレの天女を勤めて思ったのですが、やはり「後ツレ」というのは演りにくいお役ですね。以前にも『女郎花』のツレをさせて頂いた時に思ったのですが、前場には登場しないで楽屋で待機していて、後だけに舞台に出ると、何というか非常に居心地が悪いのです。それは当然で、前場でシテとともにワキや地謡、そして囃子方の全員で作り上げてきた場にはまったく関与していないで、後場の、いわば能のクライマックスにいきなり登場するのですから。これはそれまでどれだけ稽古を積み重ねてきたか、とは別の問題で、出演者のみなさんがせっかく作り上げてきたその場に土足で踏み込むような、勤めながら「これで良いのだろうか。。迷惑をかけていないかな。。?」と思ってしまうのです。

『賀茂』の天女は、その点この能の中ではかなり独立した役なので、「天女之舞」を瑕疵なく勤めることが出来れば、少なくとも形の上ではツレとしての役目は成立させる事ができるので、『女郎花』などのようにシテの情念のようなものを直接受け止める役と比べればまだ気が楽ではありました。それでもやはり『賀茂』の前場で出演者一同で作り上げてきた、その雰囲気の中に幕を揚げて出ていくのは勇気が要りますし、それまでの間に楽屋でいかに集中しておくか、が重要なのだと痛感しました。

ともあれめでたい初会を無事に勤め果せた事をいまは感謝しています。
ご来場頂いたお客様には改めて御礼申し上げます m(__)m

新年NHK放送の『春日龍神』

2006-01-08 15:26:46 | 能楽
去る1月3日にNHKにて師匠・梅若万三郎による『春日龍神』龍女之舞が放映されました。割と珍しい小書だと思うので、概要を記しておきます。

前シテはツレを伴って登場します。前ツレはシテと同装の神主の姿で、ただし直面であるところがシテと異なります。これは地謡の文章に「我は時風・秀行ぞとてかき消すように失せにけり」とあるところから工夫されたのでしょう(時風・秀行は春日明神が鹿島から移る際に供奉した人物)。今回は放送時間の都合でシテとツレが登場してすぐの謡のうちサシと下歌を省略しましたが、本来は省略はなくすべて二人で謡います。

上歌の終わりにシテは正中・ツレは角に行って、それからワキとの問答になるのは脇能を意識した演出ですね。この小書の時は「笠置の解脱上人をば次郎と頼み」の一句をツレが謡います。

ツレは初同の地謡「三笠の山の草木も」と地謡の前に行き、すぐに後見が両肩を下ろし、シテは地謡の終わりに正中に座して、そこで肩を下ろします。これも脇能に特徴的な演出で、箒を持って境内を清める労働をする姿から、神職本来の姿、というか実は本性は超人間である事を暗示します。

中入では地謡のうちにシテは橋掛り二之松のあたりに行き、ツレは常座にて「我は時風・秀行ぞとて」とワキへツメ、「かき消すように」とシテは幕へ走り込み、ツレは来序を踏んで静かに中入します。数年前に研能会で上演された時には中入の来序はナシで、間狂言の社人が立ちシャベリをしましたが、今回は放送のため狂言はナシでした。お囃子方に聞いたところ、来序を演奏する時には本来間狂言はナシで、すぐにツレの登場音楽である出端につなげるそうで、シテは早装束となるそうです。このへんは色々なやり方があるようですね。

後は出端の囃子で龍女が二人登場します。この役もこの小書の時だけに登場する役なのですが、普通は龍女は一人だけが登場するのです。ところが師家の古い形付に「二人の龍女が出る」という書き付けがあって、今回はそのやり方で演じてみる事になりました。(数年前の研能会での上演でもそのやり方で演じられました)。そのようにこの機会に師家に伝わる古い演出を復活させてみたのですから、あるいは二人の龍女が登場するのは師匠のお家だけかもしれませんね。

ツレの舞は、一人が舞台で舞い、もう一人ははじめ橋掛りで舞っていたのが途中で舞台に入ってあとは舞台で二人で舞います。この舞は本来「天女之舞」であるところを、今回は師匠の工夫によって「早舞」に替えました。ツレが早舞を舞う、というのはあり得ないのですが、これは師家に古い名物面の「龍女」があって、またその同じ面の古い時代の写しも所蔵されているので、今回のツレはその二つの同じ面を使ったためです。あの「龍女」に「天女之舞」はいかにも似合わないですからね。この「龍女」の面は師匠が『海士』で時折使っておられる面で、シテ用の、それもかなり特徴的な面をツレに使わせているところが、今回は非常に贅沢な演出なのです。

ツレ龍女は出端で登場して、すぐに早舞を舞い、それが終わると地謡が「龍女が立ち舞う波乱の袖」と、本来の地謡の順序を違えて謡います。それから「浮かみ出づれば」の後に幕際に出た後シテが「八大龍王」と謡い、静かな早笛が奏されるとシテはいったん幕に下がり、あらためて登場します。シテが一之松に止まると地謡は「時に大地、震動するは」の部分を謡い、「仏の会座に出来して御法を聴聞する」とシテとツレの三人が膝を屈して正面に拝する型があり、「これも同じく座列せり」のあと地謡が続けて「八大龍王」と謡い、舞働はナシに、すぐにシテ「八大龍王は」地謡「八つの冠を傾け」とキリになります。キリは静かで、「龍女は南方に飛び去り行けば」とツレ二人が幕に入ると急に地謡の位が進み、最後はシテは常座でトメます。

今回は ぬえは地謡で参加していましたが、前ツレと後ツレ・二人目の龍女の装束を着けさせて頂けましたー。

PR/梅若研能会 2月例会

2006-01-07 13:25:43 | 能楽
【梅若研能会 2月例会】   平成18年2月11日(祝・土)午後1時
               於・観世能楽堂(東京・渋谷)

 能  箙(えびら)
     シテ(里人/梶原景季) 古室知也

     ワキ(旅僧) 梅村昌巧/間狂言(里人) 若松 隆
     笛 寺井宏明/小鼓 坂田正博/大鼓 大倉栄太郎
     後見 ぬえ/地謡 梅若万佐晴

 能  西行桜(さいぎょうざくら)
     シテ(老桜の精) 梅若万三郎

     ワキ(西行) 殿田謙吉/間狂言(能力) 山本則孝
     笛 一噌庸二/小鼓 幸清次郎/大鼓 亀井実/太鼓 金春國和
     後見 中村裕/地謡 梅若晋矢

   ~~~休憩 15分~~~

 狂言 柑 子(こうじ)
     シテ(太郎冠者) 山本 則直
     アド(主)    山本泰太郎


 能  鵜 飼(うかい)
     シテ(尉・鬼神) ぬえ

     ワキ(旅僧) 村瀬純/間狂言(里人) 山本泰太郎
     笛 成田寛人/小鼓 幸信吾/大鼓 安福光雄/太鼓 小寺真佐人
     後見 梅若万佐晴/地謡 梅若万三郎


  《入場料》指定席6,000円 自由席4,700円 学生2,200円 学生団体1,500円
  《お申込》ぬえ宛メールにて QYJ13065@nifty.com


PR/梅若研能会 1月例会

2006-01-07 12:38:10 | 能楽
【梅若研能会 1月例会】   平成18年1月9日(祝・月)午後1時
               於・観世能楽堂(東京・渋谷)

 翁(おきな)
    シテ 梅若万三郎

    千歳 ぬえ/三番叟 野村萬斎/面箱 深田博治
    笛  一噌幸弘/小鼓 幸清次郎・幸正昭・森澤勇司/大鼓 亀井広忠

 能  賀 茂(かも) 素働・御田
     シテ(里女/別雷神) 梅若万三郎

     前ツレ(里女) 梅若泰志/後ツレ(天女) ぬえ
     ワキ(神主)  森 常好/間狂言(神主) 野村萬斎
     笛 一噌幸弘/小鼓 幸清次郎/大鼓 亀井広忠/太鼓 助川 治
     後見 中村裕/地謡 梅若紀長

 狂言 福の神(ふくのかみ)
     シテ(福の神) 野村万作
     アド(参詣人) 野村万之介/石田幸雄

   ~~~休憩 20分~~~

   仕舞  屋 島   梅若久紀
       杜 若キリ 梅若紀長
       葵 上   梅若靖記
       雲林院クセ 梅若善高

 能  菊慈童(きくじどう) 遊舞之楽
     シテ(慈童) 梅若万佐晴

     ワキ(勅使) 舘田 善博
     笛 藤田朝太郎/小鼓 幸正昭/大鼓 亀井実/太鼓 徳田宗久
     後見 梅若靖記/地謡 梅若善高


  《入場料》指定席6,000円 自由席4,700円 学生2,200円 学生団体1,500円
  《お申込》ぬえ宛メールにて ※※※本公演のチケットは完売致しました※※※

新年の事ども

2006-01-07 12:14:03 | 能楽
ともあれ、新年の初仕事は有意義に終える事ができました。考えてみれば千歳のお役は16年ぶりに勤めさせて
頂き、久しぶりに、普段の能を勤める以上の緊張感を味
わいました。

帰京した翌日には師家で謡初めがあり、門下一同あらためて師匠と新年のご挨拶を交わして、これをもって能楽師の新たな年明けとなりました。

ぬえは、丹波篠山での「翁」に引き続き、東京での師匠家の月例会「梅若研能会」にて再び「千歳」と「賀茂」のツレ天女のお役を勤めさせて頂きます。今回は師匠・
梅若万三郎がシテで、「翁」と脇能の「賀茂」が(そしてそれに続いて脇狂言の
「福の神」も)休憩なしに連続上演される「翁付き」の演出。。というか古式に則った
最も正式な格式での上演となります。ぬえも大役を頂いたこのお舞台に向けて、
正月中も稽古を続けてきました。明後日のお舞台に向けて、いま緊張もし、また
楽しみにもしております。

また ぬえは今年、大曲「朝長」を勤めさせて頂く事となりました。こちらもすでに
稽古を始め、これからだんだんと準備を重ねていくところです。

【ぬえ 今年の上演予定】<上半期>

1月 9日(祝)研能会(観世能楽堂) 「翁」シテ梅若万三郎 (ぬえ=千歳)
                   「賀茂」素働・御田 同上 (ぬえ=天女)
2月11日(祝)研能会(観世能楽堂) 「鵜飼」
6月 3日(土)橘香会(国立能楽堂) 「朝長」
7月 8日(土)狩野川薪能(伊豆の国市・狩野川河川敷特設会場)
                   「船弁慶」前後之替

丹波篠山 「翁」神事(その3)

2006-01-07 11:30:58 | 能楽
この「翁」神事は春日神社に初詣にお出でになる方は無料でご覧になることができます。
周囲に喧噪や新年のご挨拶を交わされる声を聞きながら
上演する能も、また趣があって ぬえは大好きな催しです。

しかしながら、この「翁」神事で特筆すべきは、上演中にお客様から「おひねり」が
飛ぶ(!!)事なのです。千歳の舞が済み、翁が立ち上がって「およそ先年の鶴は
萬歳楽を謡ふたり。。」と謡い出すと、紙に包まれたコインがポン、ポンと舞台に
飛びます。

これ、別に演者や関係者が仕組んだ演出ではなくて、お客様の中から自然発生した風習(?)なのです。おそらく神社に詣でてお賽銭を投げたついでに、翁の姿にも「あ、こっちも神さんかいな」と言ってどなたかが投げられたのでしょう。舞台を取り
巻く雰囲気といい、「おひねり」といい、他で得られない体験が、ここでは自然に行
われて受け入れられているところに、神と共存していた古い時代の能の力を見る
ような思いです。

丹波篠山 「翁」神事(その2)

2006-01-07 11:23:07 | 能楽
今回 ぬえは師匠より千歳のお役を頂戴し、無事に勤める事ができました。

それにしても元朝の零時半の開演で、ともかく寒いのです。今年は各地で記録的な寒波が襲来しているそうですが、
吐く息も凍るような寒さの中での上演は、演者にとっても、かなり厳しい条件です。よくお笛の指がかじかまないなー。。と毎年思っていますが。。

丹波篠山 「翁」神事(その1)

2006-01-07 11:05:51 | 能楽
新年の最初の能として、兵庫県・篠山市で行われる丹波
篠山・翁神事に出演して参りました。

丹波地方は ぬえの師匠・観世流 梅若万三郎家が室町時代に活躍していた本拠地で、師家では毎年、年始に
ご先祖へのご挨拶をし、今年一年の舞台の無事と繁栄を願う意味で当地で「翁」を奉納しています。

<番組> 丹波篠山「翁」神事 平成18年元旦 午前零時半
               於・篠山市 春日神社能楽殿

翁 シテ 梅若万三郎  千歳 ぬえ

   笛 赤井啓三 小鼓 大倉源次郎/荒木健作/上田敦史
   後見 梅若泰志 地謡 梅若紀長/古室知也/青木健一


上演されるお舞台は、篠山の町の春日神社に建つ古い能舞台です。文久元年(1861)=幕末に建てられたお舞台はとても趣がある上に、細工も精緻でとても
立派なお舞台です。

ブログ開設のごあいさつ

2006-01-07 10:44:54 | 能楽
あけましておめでとうございます

新年を迎えて、はじめてぬえのブログを開設してみました。末永くかわいがって
頂ければありがたく存じますー

このブログでは、能楽師としてふだん思っていること、舞台や稽古の報告、抱負
などを広く発信していこうと考えています。。なんだか ありがちな内容での発進
ではありますが、できるだけ能について深く考察していくブログにしたいと思い、
手探りながら模索していきたいと思っています。

よろしくお願い申し上げます~ m(__)m