しととんの音のほがらや 寝し耳を鍵盤にする雨垂れの指 薬王華蔵
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しとしとしと、とんとんとん。雨垂れの音。聞いているといつのまにか朗らかにさせられる。寝に掛かる耳が鍵盤になっているからだ。ピアニストの雨垂れの、指が10本で軽やかに弾いている。
もしかしたら自然の音楽は人間を朗らかにするために、根気強く鳴り続けているのではないか。そうだとしたら? そんなことはあるまい? 思わずセルフ・デイベイトになる。
そうだとしたらわれわれは戦争をしてはならない。人を殺してはならない。憎んではならない。威嚇してはならない。恨んではならない。そうなのではないか。しかしもしもそういう危険思想に巻き付かれるようなことになったら? その時にこそ雨垂れの音を聞くべきではないか。
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31文字の短歌の周囲をぐるぐるぐるぐる回って、そんなことをさぶろうは思った。雨垂れは善意のピアニストである。少なくともさぶろうにとっては。これを結論にしてこのブログを閉じよう。