切り倒した桜の古木の枝を燃やした。4時から6時過ぎまで。燃え尽きた。一輪車で山積みにして10回運んだ。燃やす焼却炉まで。焼却炉は壊れて半分は崩れている。火の勢いは力強い。高温になる。生木が高温に耐えられずに、炭素を吐き出す。炭素は忽ち火を点ける。こういうわけでゴウゴウと音を立てて燃え、二時間掛かって、燃え尽きた。燃え尽きて、もう跡形も見えない。
今朝の老爺の散文 「濡れ縁に冬の日射し」
猫が 撫でられたい 撫でられたいと 鳴く にゃあにゃあにゃあと 甘えて来る 猫嫌いな 老爺が 頭を撫でる 背中を撫でる 腹を撫でる もっと撫でてくれ もっともっと撫でてくれと 鳴く ころころ転がって 鳴く 濡れ縁に 冬の日射しが届く
老爺も猫になれないか にゃあにゃあにゃあと鳴けば 大きな手が 湧いて降って来て 老爺の頭を 背中を 腹を 撫でてくれないか やさしく甘く切なく 撫でてくれないか
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しばらく 落ち着いていたい 腰の辺りに 鉛(なまり)千鈞の重りをつけて 重心を 腹の底に据えて 落ち着き払っていたい
というのにまあ 落ち着かない猫がにゃあにゃあ 外で鳴いている 透明硝子の その外の 濡れ縁に 上ってきて 体を硝子に擦り寄せて にゃあにゃあにゃあ 鳴く で ついつい こちらも 情にほだされる 「にゃあにゃあにゃあ どうした どうしたどうした」と 返してやる これじゃ いかに堅固なお城も陥落だ
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さぶろうというこの老爺の 身の丈は 178cm 長く生きているので 2cmほど摩滅して 磨り減っているかもしれない 体重 62kg +2 -2 増減する 禿げ頭 眉毛なし睫なし この物質物体で 人間を象(かたど)っている そこに こころというのが 宿っている そして采配する ああだこうだ そうだそうだ そうではないそうではない などと うるさい そのたんびに 物質物体の 肉体が右往左往する そういう羽目になる 落ち着かない 178cmが 水底の 水草のように戦いで 揺らぐ
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さぶろうは炬燵の中 当分は此処から出られまい お昼を過ぎてしまうかもしれない 師走晦日 12月29日 最後の土曜日 寒い寒い寒い 手の指の 指先が悴(かじか)む
夕方から餅米を洗う 明日は早朝より 餅搗き もちろん器械仕掛けだけど 餅になる前に 米俵型に ゴマ塩おにぎりを作る これがおいしい 一週間漬け込んだ白菜の塩漬けの 散切りを 載せて口に放り込む
1
初雪 初冠雪 初積雪 白銀雪 今朝の雪化粧 大根畑が雪に埋まっていた といっても深くはない 夜中に降ったのだろう 眩しくきらきら光る 朝日に解ける 寒風が吹き過ぎて行く 黄色くなったアスパラガスの叢林が 西から東へ倒れて靡く これだけ強く吹いていれば 外に出て野良仕事は不可能だろう 朝日が届かない北側の 瓦屋根はそのまま 白銀の雪化粧 化粧を落とさない 空は抜けるような青空
今朝の即興詩 「これがわたしのお母さんだあ」
わああい わああい わああい もう一度 あのときの よろこびの 声を出してみる それをぽつりと 百分の一にして 小さく出してみる わああい わああい わああい わたしが 初めて 目蓋を上げて お母さんになる人を 見たときの あのよろこびの 声の 耀きだ わああい わああい わああい わたしの お母さんだあ 美しいお母さんが お日様のように 明るくあたたかく 耀いていた
まもなくすると4時になる。午前4時になる。12月29日の。大晦日が近い。
息をしている。スウスウスウスウ。聴き取れないくらいの。ゆっくりしている。
わたしがしていることはそれくらいだ。後は皆自然滑車が多くの滑車に繋がって自然活動をしていてくれる。内と外と滑車の数は数知れない。
わたしがしていることは、息をしていることくらいで、済んでいる。するとわたしは死なないでいる。死んでもいいけれども、死なないでいる。生きている。
冬の夜。まもなくしたら夜の明ける頃になる。寒い。寒さを感じている。目覚めている。
鼻が息を吸い込み、吐き出す。その息は何処から来ているか。届けられている。途切れず届け続けられている。遠くから届け続けられている。そしてまたそこへ戻って行く。遠くへ戻って行く。
その接点にわたしがいる。遠くと交わるその接点にわたしがいる。