「故郷に錦を飾る」などと言いますが、そんなド派手なことをしなくたっていいと思います。何にも持たずに帰って来ていいのだと思います。そのままふらりでいいと僕は思います。
わたしたちが最後に帰って行くところも故郷です。「ふるさと」という表現がやわらかそうですね。ふるさとは誰でも受け入れてくれます。
功成り名遂げての帰還を否定しているのではありません。それができる人はそうしたらいいのです。そうできなくとも、それもそれでいいのです。否定されるものではありません。
わたしたちは仏の国に帰って行きます。ここがふるさとだからです。此処を出発したのです。出発して、それから思い思いに旅に出たのです。旅が終われば、またもとのふるさとの仏の国に戻ります。
どんな旅であってもいいのです。果たすべき目的なんかなくったっていいのです。ふらりふらり、ぶらりぶらりでもいいのです。
楽しい旅であってはいけない、重大でなければならない、崇高でなければならない、最善を尽くさねばならない、意義深くなければならない、自他共に称賛できるようでなければならない、などと仏さまが注文を出されるはずはないのです。
僕はそう思います。
ハグロトンボが竹の棹のとっぺん先に止まっています。池の水面を見ています。風が吹いてくると羽がふううっと浮いたようになります。それを眺めていると、いままで書いてきたような気持ちになりました。