偽装離婚
二人で作ったあの貸家は取られてしまいますよ。」
家付きの女と、無一文の男、×一同志が結婚して30年以上経ちます。
男は車で40分ぐらいのところに鉄工場を作って工員二人を使って居ます。
結婚したてに、女の家ではなく、二人の家を持とうと苦労して、一軒買いました。
住宅ローンの適用は苦労したものです。名義は半々です。
しかし実際には二人は女の家に住み、この家は貸家として利用して来ました。ローンも完済後、
特に収入源に貢献してくれます。
特に今頃は夫の事業が芳しくなく、入金は殆ど有りません。生活はこの家賃と、女が片手間に遣っている
洋服リフォームの手間賃が主体です。
元来女は洋裁をして居ました。それで十分、食べて来られました。
今でもリフォームを足掛かりにその自信が有ります。
男が何も出来ない為、このところは、会社の帳面をつけて居ます。
女はこの会社は長く無い事を掴んでいました。
「もう手形の決済も出来ないでしょう。不渡りになります。
其の前に私たち離婚しましょう。勿論偽装離婚です。倒産の片付けが済むまで別居して居て、
騒ぎが治まったら、又二人で暮らせばいいでしょう。」
男は会社の空き部屋に移転、本当に別居です。離婚手続きをしました。
財産分与で貸家の名義は全て女のものです。
男はやがて不渡り。どうしようも無く破産です。
彼が不動産を持って居る事を知って居る債権者も居りました。
しかし、離婚して物件は女に渡っていると聞いて黙りました。
一番金額の多い、仕入先でした。
破産後も男は賃借の工場に住んで、若干操業し生活費だけは稼いでいました。
破産騒しも収まり、さて女房のところに帰ろうと思いましたが、此処で女は待ったを掛けたのです。
「私たち、もう別れて居ます。このまま本当に別れましょう。
全ての手続きは済んで居ますから、お互いに今の生活を続ければよいでしょう。」
女は既に仕事場を借りてリフォームに勤しんで居ます。
この辺には、リフォームが無かったため、結構繁盛して居ます。
働き詰め、一人で工場に住み込んで、心労も重なったでしょう。男はある晩、救急車で運ばれました。
膵臓癌、男の病名でした。
入院です。身元引受人が必要です。身寄りの無い男の口方出る名前は彼女だけです。
男には未だ正式に分かれたという意識も有りません。
世間もまた、二人が離婚したなど都思って居る人は皆無でした。
彼女も身元引受人にならざるを得ませんでした。
時に出かけて身の周りの世話も必要です。
このままでは当初の計画通りの偽装離婚になりそうです。
「偽装離婚だったでしょう。本当の離婚だったら、奥さんがこんなに面倒を見る事は無いと思います。
ああ家については完全に世間を誤魔化しましたね。
半分は彼のものだったから、破産がすんだとは云え、それに該当する金額は私ら仕入先に戻して
くれないかな。」
あの仕入先です。トンでも無い言いがかりをつけてきたのです。
「ご主人のためにこちらも破産寸前です。云いたくは有りませんが、何とか助けて貰わないと。」
しつっこいです。
最後には次の言い方に変りました。
「一その事、ご主人分を私と奥さんで半分づつにしましょうか。
あの物件は約3000万の価値ですから、4分の1の700万を、奥さん、私に下さい。
そうすれば今後私と同じようなことを言う人が現れても私は杭留めてあげます。
同意得られない時は、私は詐害行為取消しの訴訟を起します。」
そんな難しい訴訟の名前など知りません。
裁判になると、主人は偽装離婚と白状するでしょう、
女は、結局、其のお金を相手に渡したのです。
それから間もなく男は他界しました。
もう何を云っても元に戻りません。
女は簡単な葬儀を出したました。
何の為の偽装離婚か解かりませんでした。
この話は偽装離婚の失敗ですが、倒産のために離婚する夫婦が増えて居ます。
シニアに多いです。もう再起は難しい。其れならば女一人で生きたほうが良いという考えです。
別れると決まった後は、全てにおいて女が得をして居ます。
其れまで汗水を流して働いてきた男が、ぽんと捨てられてやがて何処かに消え去っていく。
そんな姿を見ているとたまらない気持ちになります。
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