第60回 2014年6月3日 「スパッと切れる!の秘密~新潟 三条の刃物~」リサーチャー: 南沢奈央
番組内容
今回は新潟県三条市の刃物。今話題なのが、予約で10か月待ちという「パン切り包丁」。柔らかい食パンも、パリパリのフランスパンも面白いように切れる!海外でも三条の刃物は大活躍。イギリス王室御用達の歴史ある店では「ある刃物」が人気に。またガーデニングに欠かせない「はさみ」には、意外な部分に緻密なワザが…。イッピンリサーチャーは女優の南沢奈央。作業現場を訪れ、鋭い切れ味を生む職人の驚異のワザに密着!
*https://www.nhk.or.jp/archives/chronicle/detail/?crnid=A201406031930001301000 より
1.パン切り包丁(庖丁工房タダフサ)
新潟県三条市は、江戸時代の1600年中頃に鍛冶専業職人が誕生し、「鍛冶の町」として栄えてきました。
この地に昭和23(1948)年、初代・曽根寅三郎が裸一貫で「タダフサ」の前身である「曽根製作所」を創業しました。
創業以来、一貫してお客様に「本当に良いもの」を提供すべく、あらゆるニーズに応えて、漁業用刃物などプロが使うものから一般家庭用まで様々な包丁を全ての工程を職人の手作業で造り続けてきました。
「タダフサ」は、平成24(2012)年に、一般の消費者向けに7本に絞った包丁で、新ブランド「庖丁工房タダフサ」を誕生させました。
ロゴマークは鍛冶職人が使う火箸を用いたものです。
合言葉は「基本の3本、次の1本」。
「三徳包丁」 「ペティナイフ」「パン切り包丁」の「基本の3本」を揃え、料理の腕が上がったら揃えていきたい4種類の包丁「牛刀」「出刃」「小出刃」「刺身」から「次の1本」という、分かりやすい7本シリーズになっています。
7本の中でも特筆すべきは、切れ味抜群の「パン切り庖丁」です。
先端だけに波刃のある独特のデザインをしています。
先端部の波刃できっかけを作ることで、パンを潰さずにスーッと切ることが出来ます。
職人の手仕事により薄く繊細に刃先を研ぎ上げているため、パンの切り口が滑らかで、パンくずがほとんど出ません。
柔らかいパンは潰さずにすんなりと、皮が硬いパンも従来の波刃のパン切りと違い、研ぎ直しも出来ます。
サンドウィッチのカットにも便利です。
「庖丁工房タダフサ」の庖丁は、老舗の技をそのままに、和洋に捉われない現代の暮らしにもしっくり馴染む佇まいをしています。
刃には、3層構造の材料を使用。
錆にくい上、よく切れる「SLD鋼」をステンレスで挟んでいます。
鋼とステンレスの長所を併せもった、よく切れる鋼です。
包丁の柄には「抗菌炭化木」が使用されています。
これは「タダフサ」の特許で、栗の木を炉の中で燻製状態にし、炭の一歩手前の状態にしたもので、木が炭化しているため、微生物の栄養分となる水分や栄養がほとんどないため、腐りにくく衛生的です。
右利き用、左利き用が用意されています。
庖丁工房タダフサ 新潟県三条市東本成寺27−16
2.SUWADAつめ切りクラシック(諏訪田製作所)
三条の「爪切り」は、英・ロンドンなどでも注目されています。
英ロンドンにある世界で一番古い理髪店でもネイルケアに使われています。
「諏訪田製作所」(すわだせいさくしょ)は、大正15(1926)年に、関東大震災後の住宅復興需要に合わせ大工職人の為のニッパーの前身「喰切」(くいきり)の鍛冶屋として創業しました。
以来、刃物の中でも「喰切型」(くいきりがた)、つまり両側の刃がピッタリと合わさって切る道具に特化し、素材の吟味から鍛造、部品加工、研磨、合刃(あいば)に至るまで、全ての製造工程は熟練した職人達の手によって行われています。
特に、手やすりで刃を磨きミクロン単位で研磨しながら調整を加える「合刃」(あいば)の技術は、他とは一線を画す切れ味を生み出しています。
創業者の小林祝三郎氏は、「喰切」(くいきり)の取っ手をカーブさせて握りやすくし、その間にバネをつけることによって「喰切」(くいきり)の連続使用が容易になり、高い評価を得ます。
ところがその後、量産型のニッパーに押されて売れ行きが徐々に低下。
そこで、昭和25(1950)年、それまで日本にはなかった、「爪切り」作りに着手しました。
この「爪切り」はすぐに評判になり、その後も改良が重ねられた結果、平成8(1996)年に「SUWADAつめ切り」が誕生しました。
現在では、20種類以上の「爪切り」を生産しています。
世界的にも有名な「諏訪田製作所」の「爪切り」の特徴は、何といってもニッパー型の形状にあります。
従来の折りたたみタイプの爪切りは「クリッパー型」というもので、使用する時の刃の開きが2~3㎜と短いため、巻き爪や変形の爪の場合、思うように切れないことが多くなってしまいます。
一方m「ニッパー型」は刃先が大きく開くため、切る部分へのアプローチの角度も自在。
また、爪の形に沿って緩やかにカーブした刃は厚い爪や巻き爪、変形した爪も切ることが可能です。
そのため一般家庭のみならず、世界中のプロのネイルアーティストや医療・介護関係者からも高く評価されています。
他にも、栗剥き用の刃物「栗くり坊主」、銀杏用刃物「銀杏坊主」などを製作しています。
諏訪田製作所 新潟県三条市高安寺1332番地
3.宗家秀久「万能剪定鋏」(「外山刃物」五代目・外山秀信さん)
長野県小谷村(おたりむら)の白馬コルチナリゾート内にある英国式庭園「白馬コルチナ・イングリッシュガーデン」では、英国人ガーデナーのマーク・チャップマンさんが手掛けた500種類以上の花が楽しむことが出来ます。
こちらでは毎日剪定作業が行われているのですが、そこで使用されているのが、三条の「剪定鋏」です。
鋏の切れ味が悪いと植物を傷め、病気の原因になってしまうため、スパッと切れる切れ味が重要だそうです。
白馬コルチナ・イングリッシュガーデン 北安曇郡小谷村千国乙12860-9
この「剪定鋏」を造ったのは、江戸時代の文久年間に創業した「越後木鋏」(きばさみ)の宗家「外山刃物」(とやまはもの)です。
初 代・龍 松(銘:龍松)、
二代目・富次郎(銘:珍龍)、
三代目・秀 吉(銘:龍山)、
四代目・秀 久(銘:秀久)が代々、
植木や華道用の鋏を専門に製造してきました。
金物の街三条で代々受け継がれてきた植木鋏メーカーです。
「木鋏」(きばさみ)とは、生け垣、庭木などの刈込みに用いる長い柄のついたハサミのことです。
「外山刃物」(とやまはもの)では、「火造り鍛造」や「裏研ぎ」などの刃物造りの伝統の技を守りながらも、NC精密研磨システムや産業ロボットによる製造ラインの開発など、新しい技術を取り入れています。
また「木鋏」だけでなく、近年は、植木、盆栽、生け花からガーデニングへと流行が変化していることから、「剪定鋏」などの園芸用の鋏も製造していて、現在、最もプロの園芸家に信頼される鋏メーカーの一つとして、特に「宗家秀久作」の刻印の鋏は愛用されています。
「本職用剪定鋏 YP200」や「秀久剪定鋏BB200」はグッドデザイン賞を受賞しています。
鋏は、刃の裏同士がくっついてしまうと動きが悪くなり、切れ味が鈍くなります。
そのため、裏側にくぼみを作るのがポイントだそうです。
社長の外山秀信さんが作った刃のくぼみを輪郭測定機で見たところ、その深さはわずか0.02mmでした。
外山刃物 新潟県三条市金子新田乙1700-15
*https://omotedana.hatenablog.com/entry/Ippin/Niigata/Sanjho/cutlery より