「山形赤根ほうれん草」
【産地】村山地区>山形市、天童市、上山市
【特徴】山形地方の在来種で、種をまいても無事に収穫できるのは約半分という貴重なほうれんそう。根や葉の付け根が赤い。耐寒性があり雪折れにも強くしなやか。一株あたり200~300gの大株となる。
【食味】軟らかく、あくが少なく甘みが強いのが特徴。お浸し、和え物、汁物、炒め物など幅広く使える
【来歴】山形市風間の農家が昭和2~3年頃、栽培した中から葉柄基部や根部の赤味の濃い株を選抜。日本在来種(角種)の秋播き品種。
【時期】露地:10月中旬~1月下旬、ハウス:11月上旬~3月上旬
*https://tradveggie.or.jp/%e6%97%a5%e6%9c%ac%e3%81%ae%e4%bc%9d%e7%b5%b1%e9%87%8e%e8%8f%9c%e2%80%9506-%e5%b1%b1%e5%bd%a2/#i-10 より
山形赤根ほうれんそう
緑黄色野菜の代表格「ほうれんそう」。今では一年中食べることができますが、本来の旬の時期をご存知ですか?山形県村山地域には、秋から冬に旬を迎える伝統野菜(在来作物)の「山形赤根ほうれんそう」があります。
風間の赤根っこ
「山形赤根ほうれんそう」は、葉にギザギザの切れ込みがある日本在来種で、軟らかくてアクが少なく、旬を迎える秋から冬にかけて、非常に甘くなるのが特徴です。雪をかぶっても茎葉がしなやかで折れにくく、普通のほうれんそうより大株、太根に成長します。元々、山形市内で作られてきましたが、現在は、山形市周辺の東南村山地域を中心に、栽培が拡がりつつあります。
茎から赤い根の部分が特に甘い のが特徴。
山形市風間の栽培農家、柴田吉昭さんの畑を訪ねました。柴田さんは、祖父・吉男さんの代から、赤根ほうれんそうの栽培を続ける農家の三代目。代々、自家採種を行い、種を伝えてきました。
「親父(吉美さん)の話によると、昭和40年代には、山形のほうれんそうと言えば、赤根ほうれんそうだった。当時は『風間の赤根っこ』と呼ばれていて、市場でもそのうまさが評判だった」と言います。それほど当たり前だった赤根ほうれんそうですが、病気に弱いこともあり、他の農家は次第に西洋種のほうれんそう栽培に変わっていきました。それでも柴田家で作り続けてきたのは、「喜んでもらえるから」と柴田さんは言います。
待っていてくれる人がいる張り合いと誇り
赤根ほうれんそうの収穫時期は、11月から2月いっぱい頃まで。味の特徴であるほうれんそうの甘みは、雪をかぶった方がさらに増しますが、露地栽培では雪が積もれば雪を掘り起こしての作業。加えて、通常のほうれんそうより大きく、根も長い赤根ほうれんそうは、根にからみつくようについた土を洗い流さなければならず、収穫に手間もかかります。そんなに苦労してまでも作る理由は、父と同じ思いで「食べた人から美味しいと言われること。そして、待っていてくれる人がいること」だと柴田さんは言います。それがあるから、寒い雪の中、ゴム手袋一つでもくもくと地味な仕事でも続けていけると。
雪をかぶって糖度が増す。雪を丁寧にかきわけて収穫していく。
徐々に有名になり、テレビの収録やさまざまな取材を受けることも増えました。取材では、「ずっと栽培を続けていきますか?」と聞かれることも多いそうですが、柴田さんは「買って食べてくれるお客さんがいてこそ続けられるもの。喜んでもらえるものを届けるためには、赤根ほうれんそうの本来の味が出せるよう、大株、太根のほうれんそう作りを続けなければ」と、いつも答えるのだそうです。父・吉美さんは、病気に弱いという作り難さを克服し、大株に育てるための技術改良を続けてきたそうです。柴田さんも、株間の取り方など、他の栽培農家への技術指導を行っています。
赤根ほうれんそうの一番おいしい食べ方を尋ねると、やはりシンプルに「おひたし」だそうです。スーパーでは小ぶりのほうれんそうが主流になっており、赤根ほうれんそうの本当の価値が伝わらない状況もあるそうで、「良さを伝え、お客さんに手に取ってもらうには、対面販売、人と人との会話が大事。販売する際の、茹で方のちょっとしたアドバイスだけでも、赤根ほうれんそうの本当の美味しさをわかっていただける」と話していました。
山形赤根ほうれんそうを味わってほしい
山形市の北部に隣接する天童市でも、山形赤根ほうれんそうの栽培に取り組むグループ「天童市野菜研究会」があります。研究会員の金平芳己さんは、柴田さんの父・吉美さんから赤根ほうれんそうの作り方を教わった一人で、以来38年間、三代目の吉昭さんとも交流が続いています。
天童市野菜研究会では、山形赤根ほうれんそうを「王将ブランド」として生産、販売しており、天童温泉の一部の旅館でも提供されています。金平さんは、「遠くから天童に訪れた観光客に食べてもらいたい、食べればおいしさが伝わるから。最近の若い人は加工ほうれんそうを食べることが多いから、本当のうまさ、ほうれんそうの味を知らないんだよね。だからこそ食べてほしい」と言います。天童市でも、病気に強く、収量も多い西洋種から改良されたほうれんそうが栽培の主流になり、赤根ほうれんそうを作る生産者が減った時代もありましたが、ここ数年は、地産地消が見直されたり、昔食べたほうれんそうの味を再び食べたいという声や、山形県の取組み等もあり、再び脚光を浴びてきたといいます。そのことで、金平さん自身も大変ながらも栽培していくファイトがわいてくるのだそうです。
雪があたる12月、1月が一番甘くおいしい時期。あまりにも雪が多く積もるとハウス栽培になるので、雪の下から収穫できる露地ものの赤根ほうれんそうは、本当に短い期間しか味わうことができないのだそうです。
創作料理コンテスト最優秀賞「あかね姫」
天童市野菜研究会と食の宝庫やまがたフェスタ実行委員会(事務局:山形県村山総合支庁農業技術普及課)が主催し、山形赤根ほうれんそうの生産拡大と首都圏への販売拡大を目的に、平成21年に天童市内の温泉旅館で「山形県赤根ほうれんそう創作料理コンテスト」が開催されました。70名近い出品者の中から、見事、最優秀賞に選ばれたのが、星野洋子さん(天童市蔵増)考案の「あかね姫」です。星野さんは、日頃から仲間とともに、赤根ほうれんそうの栽培に取り組んでいます。
「あかね姫」を思いついたきっかけを伺うと「根っこの赤いのを活かせないかと、ほうれんそうをじっくり見ました。赤いところをひっくり返して、中に入れたらいいかなぁ」と思ったそうです。茹でたほうれんそうの株元に、サラダ感覚でマッシュポテト、チーズ、ハムを入れてのりで巻き、マッシュポテトにも葉と根の部分を刻んで入れてあります。ネーミングは、ちょうど山形の新しいお米「つや姫」のデビューの年だったので、それにあやかり「あかね姫」と命名したとのことです。見た目、ネーミングもぴったりはまり、会場の反応もすごく良かったといいます。
今回の取材では、星野さんのお仲間の方々が、コンテストで優秀賞になった「カブ巻きのキムチ漬」や天ぷら、パスタをつくってくださいました。どれも山形赤根ほうれんそうの特徴を活かして調理されていて、見た目も美しい料理です。
山形の冬の伝統野菜「山形赤根ほうれんそう」。金平さんにも一番おいしい食べ方を伺うと、返ってきた答えは柴田さんと同じ「おひたし」でした。オーソドックスな食べ方あり、創作料理の食べ方あり。伝統野菜のいろいろな食べ方は、どんどん広がりそうですね。山形赤根ほうれんそうを味わう第一歩、まずは「おひたし」で野菜の持つ甘みを、じっくりと感じてみてはいかがでしょうか。
取材協力
天童市野菜研究会 TEL.023-653-0052(事務局:JAてんどう野菜集荷場)
村山総合支庁産業経済企画課 TEL.023-621-8432
*https://www.pref.yamagata.jp/020026/kensei/joho/koho/mailmag/vegetable/murayama2.html より
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