「堺打刃物」
Description / 特徴・産地
堺打刃物とは?
堺打刃物(さかいうちはもの)は、大阪府堺市や大阪市を中心とした地域で作られている刃物です。丈夫さと切れ味を両立するために、地金(軟らかい鉄)と刃金(鋼:はがね)の2種類の異なる材料を合わせて作られます。
堺打刃物の特徴は熟練の職人による優れた「鍛造(かじ)」と「研ぎ」の技術による研ぎすまされた刃先の「切れ味」です。近年の包丁は、鉄板をくり抜いて刃の部分を削るものが増えていますが、堺打刃物は、二つの鉄を打ちながら包丁などの形に仕上げるもので、伝統技術により鍛えられた刃物は硬度が高く、抜群の切れ味が長く続きます。
また、刃物の製造工程は鍛冶、研ぎ(とぎ)、柄付け(えつけ)という3つに大きく分けることができますが、堺打刃物では高い品質を保つためにそれぞれ専門の職人が分業して作る特徴があります。用途に応じたさまざまな形の刃物があるため、板前から高い人気を博しています。
History / 歴史
堺市周辺には古墳時代に築造されたと考えられる日本最大の前方後円墳の仁徳天皇陵など、数多くの古墳があります。当時は古墳を造るための鋤(くわ)や鍬(すき)などの工具がたくさん製造され、大規模な土木工事が行われました。その後も職人たちは堺に集落をつくって住みつき、工具や刀を作る技術を発展させたと考えられています。
1543年(天文12年)、ポルトガル人が日本に鉄砲やたばこを伝えた時代に、金属加工の高い技術をもつ職人が住む堺では、鉄砲が生産されはじめ、戦国時代には鉄砲の主要生産地として重要な役割を担いました。
江戸時代に入ると鉄砲の需要は減りましたが、喫煙が流行したことで、たばこの葉を刻む「たばこ包丁」が必要となりました。堺の職人が造るたばこ包丁は、切れ味のよくて輸入品よりも優れていると評判で、徳川幕府は「堺極(さかいきわめ)」という印を入れて幕府の専売品としたことから、全国へ名声が広がりました。
たばこの生産が機械化されてたばこ包丁の需要は減ってきましたが、職人たちは伝統的な技術を生かして、料理用の包丁などを製作するようになり、プロの料理人から高い支持を得ています。
*https://kogeijapan.com/locale/ja_JP/sakaiuchihamono/ より
火と鋼の芸術に板前の腕がなる
刃物研ぎの伝統工芸士森本一郎さんの作業場をたずねた。扉を開けると漂う鉄粉とニカワの匂いが、かつての下町の路地裏を思い出させる。カランコロンと下駄をならしてその人は現れた。
高速回転の研ぎ器をあやつる
「桐の高下駄は足元が暖かく感じるんです。仕事上、砥石には水が付き物。床が常に濡れているから、この高さもちょうどいいんです。」森本さんの仕事場には荒研ぎ用、本研ぎ用など5台の研ぎ器が並ぶ。直径90センチ以上の大きな電動研ぎ器が大きな音を立てて回転する。その砥石を抱え込むようにして刃物を研ぐ。工程が進むとともに、さらに甲高い金属音が追加された。砥ぎ機の下には摩擦による熱を取るために水が張られている。森本さんの履く高下駄の意味がよく分かる。金属と、天井の高さと床の水により、足元が冷えてくるのだ。石油ストーブの上に置かれたドラム缶にお湯が張られていた。森本さんは錆止め液で濡れて冷たくなった手をそのお湯でさっと洗い次の工程に進んだ。研ぎ機にはランダムな傷が付けられている。「この傷がないと摩擦が強くなり刃物が吸い付けられてしまって危ないんです。この傷を付けるための鉈も鍛冶屋さんと相談してあつらえてるんです。」ランダムに付けられているように見える傷も、経験がなければ付けられない難しいものだったのだ。
板前と刃物職人の想いをこめた包丁
人間の顔が一人づつ違うように、手作りの包丁はひとつひとつすべて違う。板前さん用のさしみ包丁となると、1日に20本ほどしか研ぎあげることが出来ないという。西洋料理にはたくさんの種類のナイフを使う。しかし、日本料理のための、和包丁は西洋包丁に比べると種類が少ない。日本人は器用なので1本の包丁で色々な細工が出来るからだ。その分、板前さんからの多くの要望は細やかで、かつ微妙なものである。自分の思いのままに仕上げたいという板前としての思い入れと、その思いに応えたいという双方の心が、1本の芸術的な技をもつ包丁を生み出す。
仕上げの段階では冷たい水に直接手を入れて、砥石で研ぐ。「この程度の冷たさなんてたいしたことないよ。ぼくらの若い頃は表面に氷が張っていたんだから。」シャク、シャク、シャク・・・包丁は独特の音をあげながら、輝きだしていく。刃物研ぎの最後の段階だ。森本さんは真剣な表情になった。白熱灯の明かりがゆれる中、包丁はさらに輝きを増した。
刃物は凶器ではない
「近頃、刃物を使った物騒な事件が起こり、残念なことです。でも刃物自体は、危ない物ではないんです。ただ、使い方を間違うと大変な凶器になるんです。だから単一的に包丁=危険とされてしまうのは悲しい気がします」一昔前、学校では危ない物は子供から遠ざけようと、カッターさえ持たせなかったのだ。でもやっと近頃、刃物の危険性と利便性を学んだ上で、使ってみようという方針に変わってきたという。「地場産業の社会見学で、この工房にも、小学生が訪れるようになりました。私は、出来るだけ体験してもらってるんです。もって生まれた“感”という物もあるけれど人間は若ければ若いほど新しい事を修得する力があります。だから理屈ではなく体で感じ取ってもらえれば、ここに来てくれた値打ちがあります。そして堺の歴史にふれ、体験することで伝統産業に興味を持ってもらいたいんです。そうすることで後継者がどんどん生まれてくれたら嬉しいですからね。」
1本の包丁には何人もの職人の魂が入っている
「火造り」「研ぎ」などの工程ごとに専門の職人が携わり、独自のこだわりに満ちた刃物づくり。これを単なる切る道具として片づけるには、奥深い魅力がありすぎると思った。「近頃少し、台所に立つようになりました。包丁を実際に使ってみると、板場さんからの包丁に対する要望がよくわかるからです。魚を3枚におろしてみたり、野菜をきれいに切ってみたり・・・料理と言っても、もちろん包丁を使ってみるため。だから味の保証はありません。」そう言って少し照れくさそうに笑った。
*https://kougeihin.jp/craft/0710/ より
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