「駿河竹千筋細工」
Description / 特徴・産地
駿河竹千筋細工とは?
駿河竹千筋細工(するがたけせんすじざいく)は、静岡県静岡市周辺で作られている竹工品です。静岡の安倍川の上流域には古くから良質の竹が自生しており、古くから竹細工が作られていました。
駿河竹千筋細工の特徴は、細い丸ひごを1本1本組み上げて作っていることです。「千筋(せんすじ)」とは、幅3尺(約90センチ)の畳に1000本並べられるくらい細い竹ひごを意味しており、直径わずか0.8mmほどの丸ひごを使用します。駿河竹千筋細工は竹に小さな穴を開け、その穴に独特の技法でしなやかに曲げて作った極細の丸ひごを差し込んで、自由な形に組み上げていきます。竹ひご作りから組み立てまでの全工程をほぼ一人の職人の手で行います。それに対し、九州や北陸地方など日本全国に竹細工の産地では、地方の竹細工の多くは平ひごを編んで作り上げます。
でき上がった竹細工は竹の持つ色、艶や風合いを生かし、丸ひごの繊細な曲線が生み出す優美なしなやかさが魅力です。
History / 歴史
駿河竹千筋細工 - 歴史
安倍川とその支流の藁科川の流域は、古くから良質の竹の産地でした。登呂遺跡からは竹製の籠(かご)やザルが出土しており、弥生時代後期には、すでに生活用具として竹製品が使われていたことがうかがえます。
1607年(慶長12年)に徳川家康が駿府を居城にすると、多くの職人たちが移り住み、駿河国は「職人の町」として発展して「駿河竹細工」も名を知られるようになりました。江戸時代初期には、籠枕(かごまくら)が参勤交代で宿場に立ち寄る諸大名の間で人気となったと言います。
寛永年間(1624~1644年)には、江戸で流行した高価な籐編み笠(とうあみがさ)の代わりに竹ひごの編み笠を作ったり、鷹狩の餌を入れる籠や鈴虫籠(すずむしかご)が作られるようになったという記録が古い文献に残っています。
丸ひごを使用した駿河竹千筋細工は、1840(天保11)年、駿河に立ち寄った岡崎藩士・菅沼一我(すがぬまいちが)が、脇本陣(わきほんじん)の息子であった清水猪兵衛に竹細工の技術を教えたのが始まりと言われています。その後、清水猪兵衛は研究を重ねて、今日のような繊細な駿河竹千筋細工が作られるようになりました。
*https://kogeijapan.com/locale/ja_JP/surugatakesensujizaiku/ より
繊細な竹千筋細工に宿る和の心
登呂遺跡からも竹製のざるが見つかっているように、静岡では古くから竹細工が盛んに行われてきた。駿河竹千筋細工として精巧な技術が用いられるようになったのは1840年ごろからという。いさぎよい直線としなやかな曲線、その竹の妙技に心打たれる。
竹に親しんできた静岡の歴史
静岡駅に下り立つと、北口ロータリーの植え込みに孟宗竹が数十本、空に向かって伸びているのが目に入る。竹文化が根づいた土地なのだとあらためて感じられる。そして、思い出すのは「竹取物語」。かぐや姫の伝説をもつ町は日本中に多くあるらしいが、静岡県でも富士市にかぐや姫と竹取の翁が暮らしたと伝えられる場所がある。「野山にまじりて竹を取りつつ、よろづの事に使ひけり。」この物語の冒頭の一節のとおり、竹は生活用具の多くに利用されてきたのだ。竹の弾力性を活かし、ひごを巧みに組み合わせた竹千筋細工は、伝統的な技術を使いながらも、つねに現代性を取り入れて時代に合ったものに進化している。
問屋仕事からオリジナル作品へ
「竹工房はなぶさ」の黒田英一さんは、この道に入り50年を超える。もともと物を作ることが好きで、子ども時代は模型の飛行機や船に興味があったという。祖父と叔父が竹細工職人。小学校5年のときに漆職人だった父が亡くなり、16才で叔父に弟子入りした。6年ほどで独立したが、最初は問屋からの注文仕事をこなす日々だった。「当時の職人は自分の仕事を人に見せたがらなかったですね。それから世の中が変わり、しだいに研修などを行うようになったんです。職人が互いに技術を見せ合い、いろいろなものが作れるようになりました。」
柔軟さとしたたかさ
「千筋」とは、畳の幅3尺(約90センチ)に1000本並ぶほどの細いひごという意味らしい。他産地では平ひごを編んで使うが、駿河竹千筋細工は丸ひごを使い、輪に穴をあけてひごを差し込む。「竹を割ったような性格」というが、竹が縦方向に割れていく様は、やはり潔い。先端部分に切り込みを入れてしならせると、どんどん切り裂かれてひごになる。それを微妙に大きさの違う数種類の穴をあけた鉄板に通して丸くする。熱を加えて曲げるとしなやかな流線を描くが、柔らかさの中にもどこか頑固さ、したたかさが感じられ、完成された花器や虫かごや行灯には、そうした竹の魅力が存分に活かされている。
街を歩き、アイディアを吸収する
住宅インテリアとしての需要が高まるにつれ、デザインも多様化しているようだ。「籐を加えて作ったり、木を台にしたり、あるいは四季を通して使えるように色を加えたりしていますね。」たしかに、生地のままの竹細工は涼しげで夏によく合うが、茶や黒の色を塗るとまた趣が変わり、落ち着いた印象を与える。「自由に作れるところに、やりがいを感じます。」と黒田さんは話す。アイデアはいろいろなところに転がっている。ある時、デパートの前の敷石が波打ったような模様になっているのを見て、「これは面白いかな」と思い、波型のフロアスタンドを作った。「女の人をイメージして作ったのかと言われますけどね。」
つねに上を向いて努力する
「自分の作品が思うように作れなかった最初のころは、楽しむよりは生活のため。ひとつでも多く作ろうと思いながらの仕事でしたが、こういう時代になって良かったと思いますよ。」と語る黒田さん。「展示会などで、たくさんの種類の中から自分の作品を目の前で買っていただけると、本当にうれしい。」新しいものに取り組むのが何より楽しそうだ。発表する場があれば、それに向けて意欲がわく。毎年新作展が開かれるので、つねに「今度は何を作ろうか」と考える。
若い世代への期待も大きい。「若いからこそ、思い切ってチャレンジしてほしいですね。なかなかうまくいかなくても、そこからひとつひとつ階段を上がっていけばいいんですから。」
職人プロフィール
黒田英一 (くろだえいいち)
1931年静岡市生まれ。
竹細工一筋50年。「自分で納得できる作品が、お客さんにも認めてもらえたときには最高の喜びがある。」
こぼれ話
インテリアとしての虫かご
虫かごといえば今ではプラスチック製がほとんどですが、竹千筋細工の虫かごを見ると、あまりの繊細さに驚くばかりです。虫を入れるのにこんな立派なものを、という考えが一瞬浮かびましたが、そういえば、昔は「虫の音」を聞くのが秋の風流だったんですよね。
なるほど、それならおしゃれな虫かごもぴったりです。駿河の竹細工で使われる丸ひごは、鳥かごや虫かごを作ったときに羽や触覚を痛めないという役割も果たしたそうです。
ところで、こんなに素敵な虫かごですから、インテリアとしても幅広く使えそうです。電球を入れて小さな間接照明として使ったり、観葉植物の小さな鉢を入れてみたり。いろいろ工夫してみてはいかがでしょう。
*https://kougeihin.jp/craft/0614/ より
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