「紀州箪笥」
Description / 特徴・産地
紀州箪笥とは?
紀州箪笥(きしゅうたんす)は、和歌山県和歌山市周辺で作られている木工品です。現在の和歌山県にあたる紀州で製作技術が確立したことから、「紀州箪笥」と呼ばれています。装飾性と耐久性を兼ね備えた高級箪笥として、高い評価を受けている収納家具です。
紀州箪笥の特徴は、収納家具の素材として適した桐を使い、古くから伝わる繊細な工法で組み立てられていることです。桐は軽くて柔らかく、淡い黄色の色調や木目が美しいので、和室にも洋室にも上品になじみ、エレガントで安らぎに満ちた雰囲気をもたらします。また、収縮率が小さいので、狂いが少なく、長い期間愛用することができます。湿気が多い時には水分を吸収し、乾燥している時には水分を放出する性質があり、さらには熱の伝導率も小さいため、湿度や温度の変化に敏感な衣類を収納するためにふさわしい素材です。
History / 歴史
紀州箪笥の起源は、はっきりとはわかっていませんが、紀州徳川家の歴史が記された「南紀徳川史」には、江戸時代後期、1846年(弘化3年)の落雷で和歌山城の天守閣などが炎上し、数多くの道具類が燃えたとあります。その後、1850年(嘉年3年)に天守閣が再建されたとき、焼失した長持(ながもち)などの家具類が作り直されたという記録が残っていることから、当時この地ではすでに収納家具の製作技術があったと考えられています。
また、和歌山県各地の町家で、箪笥づくりに関する19世紀中頃の記録が見つかっており、武家以外でも箪笥が婚礼調度品として用いられていたことが明らかになっています。さらに、金具などの特徴から江戸時代に製作されたと思われる箪笥が複数の商家で発見されていることからも、江戸時代末期には現在の和歌山市周辺で箪笥の製作技術が確立していたと推測することが可能です。
明治時代に交通網が整備されると、地元に加えて大阪圏での需要にも応じることができるようになったため、生産量は急速に増えていきました。
*https://kogeijapan.com/locale/ja_JP/kishutansu/ より
陽の目を見た伝統工芸へのこだわり、紀州桐箪笥職人の意地
今ではすっかり最高級品箪笥として定着した紀州箪笥ではあるが、ここまでに至る困難を乗り越えてきたのは、現在、紀州桐箪笥協同組合理事長をされている上中喜代司さんをはじめ、10名の有志の方の努力の結果である。
伝統工芸品認定までの道のり
機械化への遅れと洋家具の台頭によって昔ながらの桐箪笥の生産は伸び悩んできた。昭和30年頃は、約80社あったメーカーが昭和59年当時は20社に激減した。紀州和歌山の土地柄か、はたまた危機意識が乏しかったのか、のんびりと箪笥作りを行っていた。そんなときこのままでは「アカン」と立ちあがったのが上中さんである。「産地の名前を残すんだ。手作りブランドを確立するんだ。」という決意で伝統的工芸品認定の申請準備にとりかかった。ところが、誰もが箪笥は和歌山市産であることを知っていても、歴史的に証明するものが見つからない。当然あると思っていた証拠がないのである。諦めかけていたとき和歌山県粉河町・曾和家(33代庄屋の家系)から、天保15年(1844)、嘉永6年(1853)、安永3年(1856)の婚礼仕度にかかわる古文書が見つかった。そこにはっきりと「箪笥一本和歌山で買う」と記載されていた。「これが決め手になりました」と上中さんは嬉しそうに話される。ようやく準備から3年を経て紀州漆器に続いて伝統的工芸品の認定を受ける事となった。当時の和歌山県知事「仮谷志良」さんから「ようやった。和歌山の伝統工芸品を2倍にしてくれた。」と言われたことを今でも良く覚えているという。
本物の良さを認めてもらう
しかしながら認定を受けただけでは売れなかった。自らデパートの展示会で実演をして全国各地を飛び回った。こうした地道な活動が徐々に「本物の紀州の桐箪笥」をマーケットに認識させるに至ったのである。1999年には和歌山市多目的ホールの柿落としに実演として参加したところ、「両陛下から声をかけられ胸がジーンと来た」と喜びを語る上中さん。また「勉強熱心な百貨店の販売員の方にはずいぶん助けられた」と業界内の協力もあったと語る。こうして紀州桐箪笥は一目置かれた存在になり、不況の中でも需要が落ちることなく今に至っている。上中さんの強力なリーダーシップがあってこそ、ここまで続いているといえる。
厳しかった親方に今でも感謝
上中さんは53年前、14歳のときに箪笥職人の見習いに入った。そのときについた親方が新宮出身の滝谷庄之助さんだ。厳しい親方の元での修行中こんなエピソードもあった。「私はくぎを打ち損ない、代わりのくぎを打ったのですが、前のくぎを抜くのを忘れました。その後親方がこの板を鉋で削ったのですが、私が忘れたくぎに引っかかり刃が折れてしまいました。すると寸断のまもなく投げられた鉋が、私の目の前を飛んでいったのです。」そんな厳しい親方のおかげで上中さんは、仕事の厳しさと本物を大事にする心を学んだという。その心はこれからも桐箪笥作りに生かされるに違いない。
職人プロフィール
上中喜代司
昭和8年生まれ。
14歳のとき弟子入りし箪笥作り歴53年の大ベテラン。紀州箪笥伝統工芸士会・会長、和歌山家具組合連合会・会長、その他役職歴任中。通産産業大臣賞、和歌山県知事賞、等多数受賞。
こぼれ話
紀州箪笥あれこれ情報
紀州箪笥に関係する情報をまとめてみました。
桐の特性
桐箪笥のことを語るには、まずは素材となる桐の特性から考えてみる必要があります。特性の一番目は「軽くて木目が美しい」、二番目は「収縮率が小さい」、三番目は「湿気の遮断性を持っている」そして四番目は「熱の伝導率が小さい」ということです。
桐箪笥の特徴
桐の特性すなわち桐箪笥の特徴になるわけですが、現実的な特徴をあげてみると次の3つが挙げられます。1.桐の柔らかな質感・色調・木目の美しさは、和洋いずれのお部屋にもマッチし、安らぎと優雅な雰囲気をかもし出します。2.外気に敏感で湿気の多いときには水分を吸い、乾燥時には水分を出す恒湿性をもっているので火災などの場合は水を吸って燃えにくく、「身を焼いて中身を救う」といわれています。3.桐箪笥は伸縮や狂いが少なく、軽くて持ち運びが便利、長年お使いになる収納家具としては最高です。
*https://kougeihin.jp/craft/0626/ より
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