「アルド・チッコリーニ わが人生 ピアノ演奏の秘密」
全音から2008年に出版された本です。
翻訳はお弟子さんの海老彰子さん。
チッコリーニは小さい時から歌に魅了されていたそうです。
歌手の叔父が言っていた、「自分の音をまるで見えるもののように、聴いていなくちゃいけないよ」は後にシュワルツコップからもさんざん聞いたとか。
はじめてのピアノの先生からはいつもこう言われていたそうです。
「綺麗な音を出して頂戴!私に美しい音を下さい!とても表現力に富んだ麗しい音の調べがほしいの」
初級の生徒を育てる時に、教育者がまず気付かせなければならない第一のことは、音に対する感覚と述べています。
最初の練習の時から先生の第一の関心事は、生徒に音の美意識の感覚を養わせることにあるべきと。
読んでいて驚いたことがあります。
初めて弾く曲も、既に前から知っている曲も2年前から勉強を始めると。
旧知の曲でも以前とは感じ方が違うので、ゼロから勉強を始めるのだそうです。その間に年を取ったのだから、演奏は自分の年齢と共にしなければならないと。
私は運よくチッコリーニの最後の来日の演奏を聞くことが出来、あの演奏を思い出しながらこの本を読みました。
とても納得のいくお話。
歌に魅了されていたこと。
だからあのような演奏ができたのかと思いました。本当に歌を聴いているような様々な音のニュアンス、フレージング。
思い返すと、歌だけではなく台詞のようなところもありました。
本を読んでそうだったのかと。これをピアノという楽器で再現しようと演奏されていたのかと今頃知りました。
必ず暗譜で演奏する話も書かれています。
最後の来日コンサートも、もちろんそうでした。
お歳だし楽譜を見られると思っていたので、全曲暗譜で演奏されていたことに少し驚きながら聴いておりました。
準備に2年かけること、旧知の曲もゼロから勉強すること。
お年を召してから、弾き慣れた感じで演奏されない姿をyoutubeで見かけ、昔は全く好きではなかったチッコリーニが気になるようになり、来日コンサートへ出かけました。
本を読んで、あのお姿がくっきりと思い出されました。