そもそも論者の放言

ミもフタもない世間話とメモランダム

「プーチニズム 報道されないロシアの現実」 アンナ・ポリトコフスカヤ

2007-05-16 20:55:55 | Books
プーチニズム 報道されないロシアの現実
アンナ・ポリトコフスカヤ
NHK出版

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VIVAさんのブログで紹介されていて、ぜひ読んでみたいと思っていた一冊。
高いので、図書館で借りてきました。

アメリカや、中国・韓国・北朝鮮に関する報道は日々盛んに行なわれ、人々の関心も高いのに比べ、日本ではあまり詳しく知られていない現在のロシア。
チェチェン共和国がどこにあるのか説明できる日本人なんてまずいないだろう。
ペレストロイカからソ連邦崩壊、冷戦終結を経て、今やサミットの構成国ともなり、すっかり西側の一員のフツーの国であるかのように思われているからだろうか。

一方で、去年は北海道の漁船がロシアの国境警備隊に銃撃されて船員が殺された事件があったり、英国での元KGBスパイ怪死が世界的な話題になったり、ヨーロッパでも極東でもゴリ押しの”資源外交”が目に余ったり、4月のプーチン大統領年次教書演説では欧州通常戦略条約の履行締結を宣言したり、今日のニュースによれば軍事政権下のミャンマーに原子炉供与することで合意したり(露、ミャンマーに原子炉供与(産経新聞) - goo ニュース)と、「この国、やっぱりちょっとオカシイかも?」と思わせる何かが漂っているのもまた事実。

そんな恐ろしげな国、ロシアの”報道されない現実”を、反プーチン派の急先鋒である女流ジャーナリスト、アンナ・ポリトコフスカヤが書きしたためた力作ルポルタージュ。

書かれている内容は、衝撃、の一言。
とても近代国家とは思えない腐敗のオンパレード。
政治家・軍・警察・官僚、そして司法までもがグルになり、権力がすべて物を言う社会の実態がこれでもかと暴かれる。
この国で不幸にならずに生きていくためには権力におもねる以外に方法が無い。
それを潔しとしない人間は、権力によって社会的に葬り去られる。
何より恐ろしいのは司法までもが権力側に牛耳られているということ。
無実の人間が罪を着せられ、極悪非道の人物が司法により守られる。
正義の欠片も存在しない。
チェチェン人に対する理由無き差別も酷い。
それこそナチスドイツのユダヤ人迫害や、関東大震災時の朝鮮人狩りなどを連想させられる。
著者によれば、今のロシアは、スターリン時代、共産党独裁時代の旧ソ連に先祖がえりしたかのようだという。

もちろん、この本に書かれていることが、現在の彼の国における真実を、本当に客観的に示しているのかどうかは、わからない。
が、何より重いのは、この本を著したアンナ・ポリトコフスカヤ自身が、昨年10月モスクワの自宅エレベーターで何者かに射殺されたという事実。
その真相はいまだに明らかになっていないようだが、こういった内容の本を著した(もちろんロシア国内では発禁)ことと無関係ではあるまい。

このような暗黒の側面をもっている大国と、海を隔ててわずかな距離に隣接し、過去百五十年ほどの間に幾度も戦火を交え、現在でも国境問題を抱えているという認識を、日本人として持っていなければならないと改めて感じた。
中国、北朝鮮だけではない。
コメント (4)
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