電波利権 (新潮新書)池田 信夫新潮社このアイテムの詳細を見る |
電波による無線通信ってのは、自分も含め素人にはなかなか理解しにくい世界である。
「電波」と聞いて、一般的には放送(テレビ・ラジオ)や船舶無線・アマチュア無線等々古典的な無線通信を連想するけど、携帯電話がこれだけ普及した現在では大半の日本人が日々電波による無線通信を行なっていることになる。
同じ周波数帯で、複数の異なる無線通信がぶつかり合うと、お互い干渉しあって通信できなくなってしまう。
そこで、伝統的に、政府が周波数帯や地域ごとに電波の用途を割り当て、放送や通信の事業者に「免許」を与える、という制度が各国で作られ運用されている。
周波数帯というものは有限なので、既に割り当てが決まっている帯域には新たに参入ができない。
従って、既に免許を割り当てられている事業者には「既得権益」が生まれ、免許を与える政府(かつての郵政省、現在は総務省)には「利権」が生まれる。
そのあたりの利権構造をわかりやすく解説したのが本書。
著者の池田信夫氏はNHK出身なので、NHK・民放が既得権益に居座って参入障壁を設けることにやっきになっている現状については、裏事情も含めて詳しく書かれており、非常に面白い。
例えば、日本では、県単位にいくつもの小さな地方局が存在し、東京のキー局をトップに系列化・ネットワーク化されているが、地方局は一部ローカル番組も存在するものの実際に流しているのはキー局が制作した全国ネットの番組が大半。
衛星などを使えば全国放送することも技術的にはもちろん可能で、こんなに多くの地方局が存在する意義は薄く、非効率この上ない。
何故そんな体制が存続できるのかといえば、そこに政治の力学が働いているからだという。
地方局が乱立した背後には、田中角栄の力が存在し、現在に至っても地方選出の政治家と深く結びついているからこそ地方局は存続しえている、と解説される。
他にも、ハイビジョン、BSデジタル、そして地上デジタルに至る、視聴者には非常にわかりにくいテレビの規格変遷に働いている政治力学や、島桂次・海老沢勝二と二代に亘る長期政権化のNHKでどのような権力闘争が行なわれていたか、既存の放送局が抱くインターネット放送に対する警戒感と妨害策など、興味深い話題が満載。
どうしてこんなに面白いかというと、こういう話が一般に報道されることは無いから。
そして、どうして報道されないかといえば、本書において著者も指摘しているが、当然のことながらテレビ局が自ら自分たちの「汚点」を世間に知らしめるような真似をするはずがないからである。
大手新聞社と民放が系列化された日本においては、新聞においても事情は同じ。
一読の価値がある本です。