そもそも論者の放言

ミもフタもない世間話とメモランダム

「チャイナ・アズ・ナンバーワン」 関 志雄

2010-05-06 23:53:18 | Books
GDP規模で日本を逆転し「世界第二の経済大国」たる中国経済。
が、一方で、一人あたりGDPでは日本の十分の一に過ぎず、現在の中国経済の状況は1960年代高度成長期後半の日本経済の状況に対応している面が多いとも言える。
今のペースの経済成長を続け、近い将来米国を抜いてGDP規模世界最大となることが確実と予想される中国経済の現状を、様々な角度からデータを用いて分析した一冊。
著者は、先日日経新聞で日本の英語教育改革を唱えていたことをこのブログで紹介しました。

中国は、後発性のメリットを生かすことによって超長期にわたる経済成長の継続を実現してきた。
その最大の要因は、農村における余剰労働力の存在であり、これを工業部門に移転させることにより、賃金を低水準に維持することによる比較優位を保ちながら低コストによる輸出主導型成長が可能となってきた。
ところがここにきて完全雇用が達成され、労働力余剰は労働力不足に転換する(ルイス転換点の到来)気配を見せ始めている。
…というのが本著の一番のキーポイントかと。

ポスト・ルイス転換点においては、旧来型の労働集約型産業だけでは経済成長を維持することはできず、生産性を高めるとともにサービス産業化やハイテク化、省エネ化を進めることが必須となる。
その過程で、政治や制度の民主化も進めざるを得なくなるだろうし、民主化が進めば平和的な中台統一が実現されることも夢ではない…といささか楽観的に思える将来像が語られています。

その他、印象に残った個所を以下メモ。

・貿易大国としての中国の台頭は、日本をはじめ、経済・産業面で中国と補完関係にある先進諸国にとっては脅威よりもメリットをもたらす。一方でASEANなどの新興工業国は、中国と競合関係にあるので厳しい競争を強いられることとなっている。また、同じ新興国でも一次産品の輸出が中心のインドは、中国とは補完関係にあるためお互いに脅威にはならない。

・どの国においても「自由な資本移動」「独立した金融政策」「固定相場制」という3つの目標を同時にたっせいすることができない、という「国際金融のトリレンマ説」が成立する。中国は、これまで固定相場制を維持しながら、資本移動を制限することで独立した金融政策を維持しようとしてきた。ちなにみ、EUは独立した金融政策を犠牲にして他の2目標を実現しており、日本などは固定相場制を放棄した他2目標を実現している。

・中国の改革開放の成功体験から、現在の日本が学ぶべきことは、改革を成功させるためには旧体制を破壊するよりも新体制を育成することの方が戦略的に有効だということだ。

チャイナ・アズ・ナンバーワン
関 志雄
東洋経済新報社
コメント
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