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「先読み!景気循環入門」 嶋中雄二

2010-05-11 22:20:14 | Books
景気循環というと、個人的にはややマユツバものというイメージがありました。
確かに景気は上がったり下がったりする事実は分かるけど、それが物理現象のような正確な規則性をもって美しい波を描くとは俄かに信じ難く、経済って不確定要素に影響されたり、構造的な要因で前提条件が変われば景気の波の周期や幅も変わると考える方が自然なんじゃないかと。

この本を読んでそのイメージは少し改まりました。

景気循環といっても「いざなぎ景気」みたいな比較的短期の波を指すだけではなく、周期が長いものから短いものまで複数の循環サイクルを考慮する必要がある。
 コンドラチェフ・サイクル:50~60年周期の長期波動(社会資本投資サイクル)
 クズネッツ・サイクル:20年周期の長期循環(建設投資サイクル)
 ジュグラー・サイクル:10年周囲の中期循環(設備投資サイクル)
 キッチン・サイクル:3~4年周期の短期循環(在庫投資サイクル)

これらの長短のサイクルを組み合わせて考えると、歴史上様々な現象を説明することができる。
また、狭義の経済現象だけでなく、たとえばコンドラチェフ・サイクルの長期波動を2回分まとまた百年サイクルで、国際政治の覇権サイクル(ポルトガルの時代→オランダの時代→英国の時代×2→米国の時代)が説明できたりもする。

何が循環をもたらしているか、についても多くの説が紹介されています。
在庫や設備投資のサイクルや過剰投資説・過少消費説などの経済学的な説以外にも、太陽黒点説やエルニーニョなどの自然現象に基づくとする説、技術革新や景気心理によるとする説など多様なものがあります。
おそらくすべての説にそれぞれ正当性があり、またどの説によっても単独では循環を説明することができないというのが正しいのでしょう。
多数の複合要因に基づき結果として規則正しいサイクルが現れるのだとしたら、確かに物理現象・自然現象に近いものがあるのかもしれません。
そして、それをすべて解析できたとしたら、未来が読めるようになるかも。
だけど正確に未来が読めるようになったら、それによって現在の経済行動が影響を受けたりして…と考えていくとゲーム理論っぽくなっちゃいますな。

本著は、自分が愛読している日経新聞朝刊の「経済教室」と同じ面にあるコラム「ゼミナール」に、昨年(2009年)はじめに連載されたものをまとめて本にしたものです。
あの面はホントに中身が濃いです。
というか日経も、あの面以外そんなに熟読する価値のあるところないかも…。

先読み! 景気循環入門
嶋中 雄二,三菱UFJ証券景気循環研究所
日本経済新聞出版社
コメント
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