イベリコ豚を買いに | |
野地 秩嘉 | |
小学館 |
ひょんなことからイベリコ豚に関心を持った著者は、スペインまで実物のイベリコ豚を取材に行きたいと考えるが、何と言っても世界最高級のブランド豚、コネも無いままに物見遊山に訪れる訳にもいかず、「イベリコ豚を輸入したい」とオファーし、ビジネスルートでアクセスすることにする…
巻頭グラビアページの写真だけでも一見の価値あり。
自然の野山の中で悠然と放牧されるイベリコ豚の群れ。
薄墨色の肌、引き締まった体躯、その姿には崇高さを感じてしまう。
日本でイベリコ豚がその名を知られるようになったのは、2005年の秋頃からだとか。
実は自分、まさにその2005年の秋に結婚一周年のディナーでイベリコ豚に初めて出会っている。
が、彼らがどんな素性の豚なのか、恥ずかしながらナッツを食べて育った豚という基本的な情報すら今の今までちゃんと認識したことはなかった。
それもそのはず、日本のよくないところで、イベリコ豚への正確な理解も無く「スペインの最高級黒豚」だとか誤解を招くような安売りがされてしまい、イベリコ豚へのイメージは本来のものとはほど遠いものになってしまっていると言う。
ちなみに、スペインでの認証基準では、イベリア種の純血、またはデュロック種との交雑でイベリア種の血が50%以上であるものしか「イベリコ豚」を名乗ってはいけないのだとか。
また、ナッツを食べて育つのは純イベリア種のなかでベジョータと呼ばれるごく一部の最高級豚のみで、それ以外セボと呼ばれるイベリコ豚はナッツを食べずに育てられるとのこと。
本の中で紹介されるスペイン土着の食文化(野菜を食べない、だとか)や、スペイン人と日本人の肉食に対する文化の深さの違い(魚食についてのそれと丁度真逆になる)についての考察なども非常に興味深い。
思いつきでイベリコ豚の輸入ビジネスに手を染めようとしたビジネス音痴の著者が、なんとも魅力的なスペインのイベリコ豚生産者や、食肉業に携わる日本人の協力者たち(精肉事業者、流通事業者、レストランシェフ・経営者)と交わるうちに、ビジネスの本質に触れて新鮮な気づきを繰り返していく様も、なんだか素朴な感じでよい。
マルティグラ・ハム、一度注文してみたくなっちゃうな(高いけど)。