売国者たちの末路副島 隆彦,植草 一秀祥伝社このアイテムの詳細を見る |
大まかに言って、この本が言いたいことは以下の3点。
A.日本はアメリカの属国である。アメリカが、日本の政治家・官僚・マスコミをコントロールして、自国の都合のいいように日本から収奪を行っている。
B.小泉・竹中の構造改革路線のお陰で、日本はおかしくなった。特に、竹中平蔵はアメリカの手先となって私利私欲を貪る大悪人である。
C.植草一秀は、小泉・竹中に逆らったために冤罪を被せられた悲劇のヒーローである。植草を貶めた日本の司法・警察・マスコミは許せない。
自分のような素人には、この人たちの言っていることが真実なのかそれとも単なる妄想なのか判断することは勿論できません。
が、直観的には、上のA.B.C.それぞれ単独でみればある意味事実なのかな、というか、そういう面もあるのかな、という気はします。
A.については、戦後日本が文化・経済・安全保障など様々な面でアメリカの「支配下」にあることは解りきった話だし、その状況でアメリカのインテリジェンスが自国の国益のために日本にいろいろと工作を仕掛けてたとしても不思議はない。
この本の中でも、相変わらず「年次改革要望書」の話が出てくるけど、あれって秘密議定書でも何でもなくってホームページで公開されてるものみたいだし、自分ごときでも2005年の郵政選挙の頃からその存在を知っていたくらいなもので、そんな鬼の首を獲ったように騒ぐものなのかな、という気がします。
B.についても、小泉・竹中路線を支持する人たちだって、別に竹中氏を聖人君子のように信奉してるわけでもなく、そりゃあれだけの地位に上っていく間には汚いことだってやってるだろうな、くらいの想像はつく。
C.については、これはもう当事者にしか真実は分からないわけだけど、一般論として国家による冤罪が生み出される危険性というのは否定できないものだし、その危険性に対する警戒心はすべての国民が常に持っておくべきものとは思う。
…と、個別にみていけば、それなりに納得のいく話が書いてないわけでもないんだけど、この本の場合、すべてを1つの因果関係で括って語ろうとしているところが、どうにも胡散臭さを感じてしまう所以なんです。
A.がすべての背景にあり、アメリカの手先になった竹中はいい思いをし(B.)、それに逆らった植草は辱めを受けた(C.)、と。
確かに、そういう構図で語れば解りやすいのは確かなんだけど、世の中そんなに単純なものなんですかね?
「アメリカ」って一言でいうけど、アメリカってそんなに一枚岩なんですかね?
どうもその辺が俄かには信じ難い。
しかも、この本の語り口って「私はそう思っている」とかって言い方ばかりで、客観的な根拠が示される訳でもないし、「このように説明すれば、すべて辻褄が合う」って論法なので、逆に言うとすべて説明がつくように都合よく事実を並べてるだけなんじゃないの?って疑念が出てくる。
明白な論拠を示さずに、「私のような事情通には全部わかっているのだよ」って威張ってるので、反論のしようがないし、何だかズルいなって気がします。
Amazonの書評とか見ると、頭から信じて絶賛している人も結構いるけど、よくそんな気になれるな、と。
つまるところ、単なる路線対立なのかな、と。
この人たちは、日本人のくせにアメリカの利益のために働くのは売国だと糾弾しているわけですが、一方で、これだけボーダーレス化した世の中、アメリカが潤えば日本もその恩恵に与かれるという考え方だってあるわけで、竹中氏なんかは後者の路線なんでしょう。
で、その路線対立があって、ちょっと前までは竹中氏側が優勢だったけど、ここにきて形勢がちょっと変わってきている。
どっちの路線が正しいのかは、結局、後世になってみないとわからんのかな、と。