自転車泥棒 | |
呉 明益、天野健太郎 | |
文藝春秋 |
Kindle版にて読了。
主旋律は、タイトルにもある自転車を巡る家族の歴史の物語。
主人公の、古い自転車に対する愛、熱意は、そのまま著者のものとして強く伝わってくる。
そして、主人公が自転車を探す過程で知り合う人々の記憶や言葉を通じて、台湾に住む人たちが過ごした20世紀の民族史・民俗史が立ち上がってくる。
貧しくも逞しかった台湾、日本に統治され太平洋戦争に巻き込まれた台湾、そして、日本を追うように経済成長して豊かになった台湾。
そして、現住民、自然、動物。
中でも、蝶の翅を加工した工芸品の挿話や、戦争に利用されたり犠牲となった象たちの数奇な運命は非常に印象深い。
ここで描かれる百年史には悲哀や辛苦がたくさん詰まっている。
だが、読後感は優しく、幸福感さえ味合うことができる。
不思議な小説である。