米中戦争前夜――新旧大国を衝突させる歴史の法則と回避のシナリオ | |
グレアム・アリソン | |
ダイヤモンド社 |
著者は、ハーバード大学ケネディスクール初代院長で、レーガン〜オバマ政権の歴代国防長官の顧問を務めた国際政治のエキスパート。
古代ギリシャで、スパルタに挑んだアテネの脅威が、スパルタをペロポネソス戦争に踏み切らせた。
そのことから、著者は、新興国の台頭が覇権国を脅かして生じた構造的ストレスが、新旧大国の衝突に至る事象を、歴史家トゥキディデスの名に因んで「トゥキュディデスの罠」と呼ぶ。
ドイツ対イギリス(第一次大戦)や日本対アメリカ(第二次大戦)など、過去500年の新旧大国の衝突16ケースをひもときながら、現代における米中戦争の可能性と回避の方策を論じる。
トゥキディデスは、対立構図を戦争に発展させる大きな要因は三つ、「国益」「不安」「名誉」だと言う。
それにしても、本書内で論じられる、100年前のアメリカと今の中国の類似性には驚かされる。
セオドア・ルーズベルトなんて、世界史の教科書で名前を知っている程度の人物だったが、米西戦争、モンロー主義の徹底、パナマ運河、アラスカ国境問題などでの傍若無人ぶりは習近平顔負けだ。
16のケースには日本がらみのものも含まれているが、16のうち戦争突入を避けることができたのは4ケースしかないと言う。
読んでいて、戦争に至るか否かには、地理的な近さが重要ファクターなのでは、という気がした。
イギリスとドイツの対立が第一次世界大戦に至った例など、近接しているが故に、直接的な攻撃を受ける脅威を現実的に感じられたからこそなのではないだろうか。
著者は、小競り合いから全面戦争に至るリアリティあるシナリオを展開するなど、米中対決の可能性が低くないことを示しているが、米中が地理的に離れていることをどう考えるべきか。
米国が太平洋覇権の維持コストとリスクを考慮して少しずつ覇権を諦めていけば、最悪の核戦争は避けられるのではという気もする。
もちろん、そうなった時に一番困るのは日本なのだが…