シンパサイザー | |
ヴィエト・タン・ウェン | |
早川書房 |
正直、文体は読みやすくないし、状況描写も不親切で、登場人物の関係もわかりづらい。
読み始めはページを繰る手も鈍りがちで、最後まで読み切れるとは思えなかった。
ところが、場面が、サイゴン陥落から米国、フィリピン、再び米国、そしてインドシナへとダイナミックに移り、ハードボイルドを超えて、「常軌を逸した」としか表現できないような展開を見せるにつれて、小説の世界にグイグイと引き込まれていく。
主人公のアイデンティティも、周囲の人間との関係性も、ぐちゃぐちゃに破壊されていく。
それは、引き裂かれ、大国に翻弄され続けた祖国・ベトナムの姿そのもの。
フィリピンでの映画撮影は『地獄の黙示録』をモデルにしているようだが、小説から受ける印象は、向こう側からみた『ディア・ハンター』という感じ。