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「猛スピードで母は」 長嶋 有

2007-09-29 23:33:32 | Books
猛スピードで母は (文春文庫)
長嶋 有
文藝春秋

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文学界新人賞受賞作「サイドカーに犬」と芥川賞受賞の「猛スピードで母は」の2編を収録。

2編いずれもヒロインの造形が素晴らしい。
「サイドカー…」では父の愛人・洋子さん、そして「猛スピード…」の母。
タイプは違うけど、どちらもダンディで、クール。

2編とも、一人称の主人公である小学生の目線で描かれているところも共通してます。
「サイドカー…」は明らかな回想形式であり、「猛スピード…」の方は現在進行形ではあるけど、思春期迎えるちょっと前の小学校高学年の年ごろになり、少しずつ「大人の世界」というか世の中のヒダヒダというか人間の業みたいなものを吸収していく年代の在りようをノスタルジックに感じさせてくれます。
「サイドカー…」の薫にしても「猛スピード…」の慎にしても、懸命に「空気を読み」ながら、それまで見えていた世界が刻々とその姿を変えていく様に追いついていこうとしていく心理、月並みな言葉で表現すれば「心の成長」が、たいへん繊細な筆致で表現されていて。

情景描写もなかなかよくって、なんだか染み入ります。
長嶋有は1972年生まれで自分と同い年であり、2つの小説の時代設定もおそらく自分が小学生だった1980年代前半を想定していると思われ(「パックマン」「ガンプラ」「百恵ちゃんの家」「クイズダービー」「ワーゲンを見ると幸福になるというジンクス」など)、その点でさらにノスタルジーをくすぐられた、というのもあるだろうけど、どちらもとっても素敵な小説で、とても気に入りました。

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