そもそも論者の放言

ミもフタもない世間話とメモランダム

「或る「小倉日記」伝」 松本清張

2009-08-12 23:43:39 | Books
傑作短編集〈第1〉或る「小倉日記」伝 (1965年) (新潮文庫)
松本 清張
新潮社

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松本清張の初期の短編集。
推理小説ではありません。

12編収録されていますが、ストーリーには共通するところが多く、いくつかのタイプに分けることができます。
1つのタイプは、恵まれない境遇に生まれ育った主人公が、強烈な反骨心と執念で学芸の分野でのし上がっていく人生を描いたもの(実在の人物をモデルにしたものが多いらしい)。
もう1つは、しがない市井の人間が、ちょっとした人生の冒険に乗り出したところ、それが裏目に出て危機に陥っていく話。
(これらに分類できない編もありますが。)

いずれにしても、不遇な人々が一瞬夢を見ながら報われないような話ばかりで、読んでいて楽しい気分になったり、ワクワクしたりするような小説ではありません。
それを怜悧な筆致で紡いでいくもんだから、読んでいるこっちもだんだんサディスティックな気分になってきて、結構クセになるものがあります。
ラストの結び方が簡潔なところがまたいいんですよね。
余韻を持たせない潔い千切り方がなかなか切なくて心地いいです。
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年功序列の方便

2009-08-11 23:56:42 | Society
日米開戦についての城繁幸氏のブログで、前例主義と年功序列の関連性について触れられています。

日本海軍 400時間の証言(Joe's Labo)

年功序列主義の短所については仰る通りと思うのですが、それじゃあそんな年功序列を長年日本社会が選択してきたのは何故なんだろうかと、ふと考え込んでしまいました。

思うに、年功序列が受け入れられてきたのは、長幼の序を尊ぶ日本人の精神性に合っていたとか、そういうことではなく、単にそれが「便利だった」からなのではないか。
年次で序列が機械的に決まるのであれば、個人の能力を掘り下げて評価し判断する必要がない。
要は思考停止。
考えなくていい分、そのためのエネルギーを他に振り向けて高度成長を突っ走ることができた。
山岸俊男氏云うところの「安心社会」と共通した原理。

ところが社会がどんどん流動化し、個人の自律・自立が尊重されるようになってくると、そのような機械的な仕組みの弊害が目立つようになってくる。
そういう軋みが至る所で発現しているのが、今の日本社会なのかも、と。
コメント (2)
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堕ちた偶像

2009-08-09 17:09:44 | Society
酒井容疑者逮捕 足取り「言いたくない」(日刊スポーツ) - goo ニュース

のりピーがデビューしたのは確か自分が中学生くらいの頃。
当時から今に至るまで、あんまり好意をもったことがないので、個人的に特にショックとかいうことがないんですが。
しかし、こういうことがあると途端に家庭環境に関する与太話が噴出したりして、人の世の無常を感じずにはいられませんな。

CMなどのキャラクタに起用していた各社・各所では、かなりの迷惑を被っているようで。
以前仕事で、キャンペーンキャラクタの検討とかした経験があるんですが、生身の人間だとやっぱりこういうリスクがあるんですよね。
それで無難にアニメキャラクタになっちゃったりする。
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小沢一郎、久々のまともな発言

2009-08-09 15:34:45 | Politcs

日米FTA、マニフェスト修正に異議 小沢氏「何も矛盾しない」(産経新聞) - goo ニュース

 民主党の小沢一郎代表代行は8日、米国との自由貿易協定(FTA)をめぐる党衆院選マニフェスト(政権公約)の記述について、「農家には戸別所得補償制度の導入を提案しており、食料自給体制の確立と自由貿易は何も矛盾しない」と述べ、鳩山由紀夫代表が文言の修正を決めたことに異議を唱えた。

 民主党は7月27日にマニフェストを発表後、さまざまな項目を修正。鳩山氏も発言を次々に変えており、「ブレる」批判は今後ますます強まりそうだ。

 小沢氏は鹿児島県肝付町で記者団に「(自由化で)農産物の価格が下がっても所得補償制度で農家には生産費との差額が支払われる」と強調。農業団体の反発も「農協が一方的にわいわい言っているケースもある。ためにする議論でしかない」と切り捨てた。

久々に小沢氏からまともな発言を聞いた気がします。
記事は、鳩山代表の「ブレ」を問題にしたかのような書き方ですが、これも的外れで、問題なのはブレたかどうかではなくて政策として有効なものかどうかであるはず。

日本の農業を産業としていかに強くしていくかを政策の本質的目的と考えれば、いずれ立ち行かなくなることが目に見えている現状の保護的な農業行政を路線転換し、自由貿易の世界に足を踏み入れる一方で激変緩和のために農家に戸別保障するという方法論は筋が通っている(それが現実的なものなのかどうかは、自分にはわかりませんが)。
要は、農水省や農協のための農政ではなく、現場の農家のための農政であるべき、という話で、民主党にこれができれば自民党との違いを見せることができるんじゃないでしょうかね。

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社会の流動性

2009-08-07 23:54:01 | Society
親の収入高いほど子供は高学力、でも…(読売新聞) - goo ニュース

高収入だから教育に金をかけることができるので学力が上がる、という因果関係は勿論あるんでしょうが、子供を高学力に育てることができるような親だから高収入を得られるポジションにいる、とも考えられるような。
いずれにしても、親の収入と子供の学力に正の相関関係があるのは全く不思議ではないと思います。

現在、松本清張の初期の短編集(「或る『小倉日記』伝」)を読んでますが、学問への志は高いにも関わらず家庭環境に恵まれなかったために不遇の人生を送る人物の話ばっかり出てきます。
今になって「格差社会」云々と語られますが、今も昔も事情は変わらんのかなという気もしてきます。

問題なのは、そういった収入・学力の格差が世代を越えて固定化することであり、恵まれない境遇に育ってもチャンスを掴む希望がどれだけ描ける世の中なのかに懸っているのでしょう。
努力した者が座れるだけの椅子を十分に用意しておくには、精進を忘れて既得権益に居座る輩を廃する必要がある。
社会の流動性をどれだけ高められるか。
まあ、いい大学に入れば将来が約束されるといった世の中ではもはやないのだから、その点ではそんなに悪い時代ではないのかもしれません。
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オーバーホールの日

2009-08-06 23:40:23 | Diary
今日は休みを取って人間ドックへ。
ドックは5年連続5回目。
過去にはレントゲン再検査などといったこともありましたが、即日結果が出た範囲では、体重が若干増えた(前年から1.5kg増)のと、尿酸、コレステロール、中性脂肪が基準値をちょっと超えてしまったことくらい。
まあ運動不足だからその程度は仕方ないか、と。
胃カメラもだいぶ慣れてきましたが、胃に空気入れられた時の不快感はやっぱりたまらんなあ。

昼には終了して帰宅。
せっかく時間があるので、夕方整体に行くことに。
ここのところ肩こりがひどく、それが全身の疲労感につながっている感じ。
治療してもらうと、やっぱり首・肩・背中・腰・脚と、バリバリに張っていてかなり悪い状態だとのこと。
痛いくらいにほぐしてもらって、ちょっと肩が軽くなり、背筋も伸びた気はしますが、定期的に治療せにゃあかんかな・・・
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晒し者裁判員

2009-08-04 23:45:15 | Society
遺族証人に女性裁判員「4番さん」が初質問(読売新聞) - goo ニュース

最近は、普通のニュース番組もワイドショー染みてきたので視る気が起らず、テレビでニュースをほとんど視なくなったので状況を知らんのですが、ネットニュースでのこの扱いからすると、テレビではさぞかし大騒ぎしてるんでしょうね(ドラッグ騒動でかき消されてるかもしれんけど)。

夏休みでニュースも少ない時期だけに、マスコミもいいネタだとありがたがって群がってるんだろうけど、昨日は選任に漏れた候補者が会見、今日は「初質問」と、ほとんど実況中継状態。
こんな衆人環視で一挙手一投足を晒し者にすることに何の意味があるのか。
完全にエンターテイメント化してる。
そして、すぐに飽きられて話題にもならなくなるのだろう。
騒ぎ方が間違っているよなぁ…
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「誰も国境を知らない」 西牟田靖

2009-08-01 00:08:38 | Books
誰も国境を知らない―揺れ動いた「日本のかたち」をたどる旅
西牟田 靖
情報センター出版局

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極上に面白い。

ノンフィクションライターである著者が、日本という国の境界線に浮かぶ島々を訪れた旅行記です。
国境の島といっても、いくつかのカテゴリーに分けることができます。

1.隣国との間で領有権を争っている島々
 北方領土、竹島、尖閣諸島

2.現在では間違いなく日本の領土であるが、島の歴史においてその位置づけが左右されてきた島々
 対馬、小笠原諸島、与那国島

3.日本の領土であるが、普通の日本人が訪れるのは極めて難しい島々
 沖ノ鳥島、硫黄島
 ※硫黄島には2.の要素もあります。

取り立てて特筆するような事件が発生するわけでも、ドラマチックな出来事が起こるわけでもなく、苦労してコストをかけて実際に島を訪れた著者が、島の様子を肌に感じ、島に暮らす人、かつて暮らす人から聞いた話を綴っただけの内容ではあります。
だけど、それが抜群に面白い。

特に興味深かったのは、上記2.のカテゴリーにある島々。
小笠原に初めて入植したのが西洋人で、その子孫が今でも暮らしているという話は寡聞にして知らなかったし、韓国や台湾が日本の統治下にあった頃には栄えていた対馬や与那国島が、戦後国境が引かれたことで「辺境」となったことの影響を受けていく様子も感慨をおぼえずにいられません。

そして、北方領土や竹島。
自分など、国境紛争については、国際法に照らして…とか、どうしても理屈で考えてしまいがちですが、そんな理屈など「実効支配」という既成事実の前ではまったくの無力であることを痛感させられました。

国家、国境という極めて人為的な概念が、地理的・物理的な距離を凌駕していく不条理。
その不条理さにこそ、逆説的に人間の営みの偉大さを感じさせられるような気もしました。
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