誰も国境を知らない―揺れ動いた「日本のかたち」をたどる旅西牟田 靖情報センター出版局このアイテムの詳細を見る |
極上に面白い。
ノンフィクションライターである著者が、日本という国の境界線に浮かぶ島々を訪れた旅行記です。
国境の島といっても、いくつかのカテゴリーに分けることができます。
1.隣国との間で領有権を争っている島々
北方領土、竹島、尖閣諸島
2.現在では間違いなく日本の領土であるが、島の歴史においてその位置づけが左右されてきた島々
対馬、小笠原諸島、与那国島
3.日本の領土であるが、普通の日本人が訪れるのは極めて難しい島々
沖ノ鳥島、硫黄島
※硫黄島には2.の要素もあります。
取り立てて特筆するような事件が発生するわけでも、ドラマチックな出来事が起こるわけでもなく、苦労してコストをかけて実際に島を訪れた著者が、島の様子を肌に感じ、島に暮らす人、かつて暮らす人から聞いた話を綴っただけの内容ではあります。
だけど、それが抜群に面白い。
特に興味深かったのは、上記2.のカテゴリーにある島々。
小笠原に初めて入植したのが西洋人で、その子孫が今でも暮らしているという話は寡聞にして知らなかったし、韓国や台湾が日本の統治下にあった頃には栄えていた対馬や与那国島が、戦後国境が引かれたことで「辺境」となったことの影響を受けていく様子も感慨をおぼえずにいられません。
そして、北方領土や竹島。
自分など、国境紛争については、国際法に照らして…とか、どうしても理屈で考えてしまいがちですが、そんな理屈など「実効支配」という既成事実の前ではまったくの無力であることを痛感させられました。
国家、国境という極めて人為的な概念が、地理的・物理的な距離を凌駕していく不条理。
その不条理さにこそ、逆説的に人間の営みの偉大さを感じさせられるような気もしました。