代替案のための弁証法的空間  Dialectical Space for Alternatives

批判するだけでは未来は見えてこない。代替案を提示し、討論と実践を通して未来社会のあるべき姿を探りたい。

FAOの貿易と森林特集

2005年05月19日 | 世界の森林問題
 FAO(国連食糧農業機関)の林業局に『Unasylva』という機関誌があるのですが、その最新号で「貿易と持続可能な森林管理」という特集を組んでいます。その号に「Is free trade compatible with sustainable forest management?」というタイトルで、林産物貿易の自由化を批判した私の共著論文の内容が紹介されています(論文のサマリーなので1ページの短い紹介記事です)。以下のFAOのHPからダウンロードできます。
 この特集号には、いろいろな記事が寄稿されていますが、ほとんどは「林産物貿易の自由化という現実を前提として受け入れた上で、いかにして持続可能性を確保するのか」という問題意識で書かれています。
 「自由化は森林の持続可能性を脅かす」と、自由化そのものの弊害をはっきり書いているのは、私達の記事の他は、M. Richards氏の「Forest policies: how do they affect forest governance?」だけのようです。もっとも、Richards氏は、「林産物貿易の自由化のインパクトは軽微であるが、農産物貿易の自由化の方が、森林の農地転用などの形態で、森林に大きなプレッシャーを与える」という主張です。
 私達はといえば、林産物貿易の関税引き下げそれ自体が、木材輸入国の条件不利地域における人工林経営を困難にする一方で、輸出国における収奪的な天然林伐採を加速しているという結論を導いています。つまり、林産物の関税引き下げそのものを批判しているのは、この特集号の中で私達の記事だけでした。
 「持続可能性を確保するために積極的な関税政策を認めるべき」という主張は国際機関の中では、いまでもタブー視されています。もっとも、FAOの機関誌に私達の論文の内容が紹介されたことだけでも、少しは潮流が変化している証拠かも知れません。

 それに関連した話題です。EUが、WTOによる林産物貿易自由化が持続可能性に与えた影響のアセスメントを行い、そのレポートの草案が公表されました。このサイトからダウンロードできます。このEUのレポートの「Executive Summary」のページでも、私達の論文が引用されています。しかし、私は「持続可能性を確保するため、関税政策を採用することの有効性」を実証したつもりだったのですが、何故かEUレポートでは、「非関税方式」の貿易規制の必要性を論じた個所で私達の論文が引用されています。つまりEUの主張に合致するように、都合よく解釈されて引用されているわけです。まあ、もちろん論文というものは著者の手から離れ、勝手に一人歩きするものなのですが・・・・。
 それにしても、このEUのレポートでも「持続可能性の確保のための関税政策の採用」という主張はされていません。もう十分に低い水準の関税率をこれ以上下げたところで、森林に大きな影響はないだろうという評価です。一方でEUは、違法伐採材を国際市場から締め出すためには貿易規制を含めた断固たる措置をすべきだといった主張をしています。「貿易規制」という措置に比べると、「関税引き上げ」の方が、よほど穏便な政策に思えるのですが、現実には前者が堂々と議論されているのに、後者の方がタブー視されているわけです。
 そもそも戦後のGATT体制は、関税政策を加盟国の権利として認めた上で、非関税障壁をなくしていこうというのが趣旨でした。現在、非関税の貿易規制は議論されているのに、関税の方がタブーになっているというのはおかしな話しです。

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