代替案のための弁証法的空間  Dialectical Space for Alternatives

批判するだけでは未来は見えてこない。代替案を提示し、討論と実践を通して未来社会のあるべき姿を探りたい。

南沙諸島問題でフィリピンに肩入れする根拠はない

2015年10月17日 | 東アジア共同体
 ケント・ギルバート氏がブログで防衛省作成の「南シナ海における中国の活動」という資料を紹介されている。以下のサイト。
 
http://ameblo.jp/workingkent/entry-12040803097.html

 ギルバート氏は、この資料を紹介しつつ、「中華人民共和国(PRC)の横暴と脅威」を主張している。
 しかし、この資料をふつうに見て思ったことは「ベトナムもフィリピンも中国もやっていることはお互いさまだね」ということであった。
 「日中を敵対させるのがアメリカの国益」という米国の戦略的利害に沿って、日本人のあいだに中国に対する敵意を煽り立てたいのかも知れないが、この資料を見る限り日本の防衛省はもっと冷静な分析をしている。防衛省の元の資料から以下の二つのスライドを抽出させていただいた。

防衛省の元資料「南シナ海における中国の活動」
http://www.mod.go.jp/j/approach/surround/pdf/ch_d-act_20150529.pdf
 
 下の図は、南沙諸島の中で、中国が占拠して埋め立てている島々を紹介したものである。赤い四角が中国が占拠して埋め立てなどをしている岩礁であり、南沙諸島に7か所ある。それに対してベトナムが占拠しているのが黄色い丸で22か所、フィリピンが占拠しているのが水色の三角で8か所、マレーシアが緑色のひし形で5か所、台湾が星印で1か所ある。中国が大量に占拠しているわけではなく、もっとも多くの島や岩礁を占拠しているのはベトナムであり、次にはフィリピンである。



 
 下の図は、ベトナム、フィリピン、マレーシア、台湾による滑走路等の建設状況である。ベトナム、フィリピンなどは80年代から90年代にそれぞれ各島に滑走路等を建設していた。ちゃんとした島の形をなしている陸地は、すでにベトナム、フィリピン、マレーシア、台湾が占拠していた。これらの行為も、係争中の島々を各国がそれぞれの思惑で勝手に占拠したのだから問題がある。中国は遅れてやってきて島とはいえないような岩礁の類を占拠し、埋め立てているわけだ。いずれもベトナムやフィリピンから見れば、占拠する意味もない満潮時には沈むような暗唱、ないし岩礁程度だから空いていたということなのだ。

 下図によれば、ベトナムも近年、ウエストロンドン礁埋をめ立ての実績がある。日本において、ベトナムの岩礁埋め立てに対する非難の声は寡聞にして聞いたことがない。フィリピンもティトゥ島に滑走路建設の計画があるが、これも非難の声がないのは同様である。
 




 私はもともとフィリピンの熱帯林の保全に関する研究していて、フィリピンに留学もしていたので、基本的にフィリピンびいきである。しかし、こと南沙諸島問題に関しては、フィリピンの肩を持つ気には一切なれない。

 南沙をめぐって係争国と地域の中で、フィリピンによる領有権の主張がもっとも根拠がないからだ。そもそも1946年にはじめて国際社会から承認される独立国になったフィリピンが南沙の主権を主張するのには歴史的にも法的にも無理がある。

 独立前のフィリピンの宗主国であった米国が南沙の領有権を主張していたというのであれば話しは別だが、米国は、南沙諸島は明確に、以前の宗主国であったスペインから引き継いだ「フィリピン領」の外にある島々と認識していた。
 フィリピンによる南沙諸島の領有権主張がいかに根拠がないかに関しては、以下のブログが詳細に論じている。すばらしい記事なので参照されたい。
 
 http://d.hatena.ne.jp/scopedog/20150609/1433860640

 ちなみに、フィリピンはマレーシアのサバ州を自領と主張してきたが、これも荒唐無稽な主張である。ナショナリズムが過熱するといかに危ういか、フィリピンの事例から、日本も他山の石とすべきであろう。
 しかるに、日本はフィリピンとの同盟関係もないにも関わらず、まるで同盟関係にでもあるかの如く、この問題でフィリピンに一方的に肩入れしているのである。危ういことこの上ない。

 中国の行為が無道だ無法だと言って、一方的にフィリピンの肩を持つような主張をしている人々やマスコミは、南沙諸島がフィリピン領だと根拠をもって主張できるのだろうか? この問題では、フィリピンとベトナムも対立してる。フィリピンの肩を持てば中国のみならずベトナムも敵に回す。

 中国の横暴によってフィリピンが犠牲になっているかのように煽る世論は、「日本において反中国感情を煽りたい」という米国のCSISやヘリテージ財団など米国軍産複合体に意志から導かれているのであろう。愛国者と思いながら、外国によいようにコントロールされているというのは滑稽この上ない。

 日本はフィリピンともベトナムとも中国とも同盟関係にない。本来であればこの紛争に関して、中立の立場で紛争調停にこそ乗り出すべきだろう。南沙に関しては、各国が一通りの島と岩礁を占拠したのであるから、関係各国がここでいったん打ち止めして、頭を冷やして交渉すべきであろう。これ以上現状をいじらないという前提で、海底資源は共同開発するという線が妥当ではあろう。
 こんなちっぽけな島々をめぐって戦争になることほどバカバカしいことはない。交渉と対話で解決できないのだったら、人間の頭脳は何のためにあるのだと言わざるを得ない。
 
 


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1 コメント

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南シナ海問題が不安です。 (りくにす)
2016-07-16 23:49:06
お久しぶりです。
安倍氏は「法の支配」とか言ってますが、実際には法の支配があってなきがごとき大国どうしの主張がぶつかる場で中国を一方的に非とする裁定が出たことに不安があります。裁定の形をとった挑発でないことを祈るばかりです。
また、この件で中国が負けたことを喜んでいると日本も足元をすくわれるだろうという意見もあります。

1.一般的な意見。中国が作った人工島を島と認めないならば、沖ノ鳥島も「島」でないことになり領土と主張できない
2.これを主張する人を見たことがないのですが、中国は歴史的根拠の薄い領域を「固有の領土」と主張しているように見えるが、日本における尖閣諸島はどうなのか。
私は、尖閣は琉球併合についてきたおまけと考えております。中国に向かって琉球国は日本である、と主張するのは通りにくいと認識しています。
3.外国ではこういう意見が大きく報じられているらしいけど、日本ではあまり論じられることがない、そうです。
宋 文洲さんのツイート
‏@sohbunshu

日本はどこまで馬鹿か
米国は自分が加入しない国際海洋法条約の仲裁を裏で操作し、日本を含むすべての島を岩にする。そうすれば米国の航海が「自由」になる。

航海が自由になるだけですむのでしょうか。
ニュースは一方的に報道するだけで、沖ノ鳥島に波及する可能性も言いません。
背後に緊張状態を作り出して当事国に武器を買わせようというものがいるに違いないと邪推できますが、やっぱり不安です。
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