締め切り原稿に追われていたので、すっかりブログをサボってしまいました。申し訳ございません。ようやく一つ終わったので、ひさびさにブログの更新ができます。といっても3月末までにまだいくつも書かなきゃいけない原稿があり(しかもキラいな帝国語で)、ブログの更新頻度が落ちるかも知れませんがご了承ください。
昨日まで書いていたのは、「ポスト京都」の地球温暖化対策として、森林部門でどのような取り組みを行うべきかという政策論でした。
現在、地球大気に年間排出される炭酸ガスの20~25%は森林消失(森林から農地や放牧地などへの転換)が原因だと推計されています(IPCCの推計)。しかも森林からの炭酸ガス排出のほとんどが熱帯林の消失によるもので、さらに具体的にはインドネシアとブラジルという二つの国での急激な熱帯林消失のウエイトが非常に高いのです。もし全地球規模で森林減少が止まれば、炭酸ガスの年間排出量は一挙に20%以上の削減されることになるので、これはすごいことなのです。
それで国際的に、「化石燃料の消費量を削減するよりも先に、森林消失を早く止めろ!」という声が日増しに高くなっています。(もっとも私は、化石燃料消費の削減も森林保全も同じウェイトで取り組まねばならないと考えていますが…)
実際、英国政府が昨年の10月に発表した『気候変動の経済的側面に関する解析(スターン・レビュー)』という報告書によれば、熱帯林消失を食い止めることによる炭酸ガス排出削減のコストは1トン当たり1~2ドル程度であり、化石燃料の消費抑制による排出削減コストのじつに30分の1と評価されていました。
国際社会が強い意志で、財政的支援も含めて熱帯諸国をバックアップしていけば、森林を炭素の排出源から吸収源へと転換するのは、それほど困難な課題ではないわけです。
森林が減る国、増える国
表1はFAOの推計値で、アジア諸国の中で、森林消失による炭酸ガスの排出量が大きい国を上から並べてみたものです。インドネシアが最大で、年間平均190万ha程度の熱帯林が消失し、6億4000万トンの炭素が排出されています。次いでミャンマー、カンボジア、フィリピン・・・・と続きます。
表1 アジアで森林からの炭素排出量の大きい国々
(2000年から05年の年平均値)
―――――――――――――――――――――
国名 森林の炭素蓄積の増減量
(百万トン/年)
―――――――――――――――――――――
インドネシア -641
ミャンマー -44
カンボジア -28
フィリピン -21
―――――――――――――――――――――
出所)FAO(2006), Global Forest Resources Assessment 2005. より作表。
一方、アジア各国(西アジアと中央アジアを除く)の中で、森林蓄積量の増加により森林が炭素吸収源として機能している国々を探すと6カ国あり、表2のようになります。多い順に中国、日本、ベトナム、韓国、インド、ブータンです。
森林面積自体が増えているのは、中国、ベトナム、インド、ブータンの4カ国のみで、日本と韓国は森林面積としては定常かやや微減というところなのですが、日本では50年代から70年代、韓国は70年代と80年代に活発に行った造林事業の結果、まだ若い樹木が旺盛に成長しているため、森林による炭素吸収量は高くなっています。(それで日本政府は、京都議定書で決まった6%の削減義務のうち、3.9%は森林による炭酸ガス吸収でまかなえるとしているわけです)。
さて、アジアで森林が炭素の吸収源になっている、表2の6ヶ国を合計すると、年間1億6200万トンの吸収量になります。しかしながら、インドネシア一国で年間6億4100万トンの炭素が森林消失によって排出されているので、吸収6ヶ国を合計しても、インドネシア一国の排出量に遠く及ばない数字です。
それで、昨年の11月にナイロビで開かれた京都議定書の第2回締約国会議でも、これ以上の森林消失を食い止めるための国際的な枠組みを構築しようということが声高に叫ばれたそうです。
表2 アジアで森林が炭素吸収源になっている国々
(2000年から05年までの平均値)
―――――――――――――――――――――――――――――
国名 森林による炭素蓄積の増減 年間森林増加面積
(百万トン/年) (1000ha)
―――――――――――――――――――――――――――――
中国 86 4058
日本 41 -2
ベトナム 19 241
韓国 10 -7
インド 4 29
ブータン 2 11
―――――――――――――――――――――――――――――
出所)FAO(2006), Global Forest Resources Assessment 2005. より作表。
森林を炭酸ガスの排出源から吸収源へと転換するために必要なこと
一般に、森林を炭素の排出源から吸収源へと転換し、さらに化石燃料の削減にも寄与させるためには、以下の5点の対策が必要となるでしょう。
①天然林の土地利用転換(農地・放牧地などへの転用)を可能な限り抑制する。
②天然林からの木材伐採量を、年間成長量に見合う持続可能な水準に抑制する。
③荒廃地や生産性の低い農地においては、新規造林・再造林を推進する。
④天然材供給の減少分は、造林地からの人工材供給で代替する。
⑤化石燃料の消費を抑制するため、造林地から供給される人工材のエネルギー利用を促進する。
しかしながらこれらは、森林を排出源から吸収源に転換するという観点でのみ展開した机上の空論です。現実には、WTO体制下の自由貿易システム、国の法律や土地制度、政府の財政状況、林産物の市場状況、森林に依存して暮らす地域住民の文化的・経済的諸条件など、さまざまな制約条件の中で実施えねばなりませんので、一筋縄ではいきません。
以前もこのブログで論じましたが、純然たる市場原理に任せておけば上記の5点は決して実現されません。自由放任の自由貿易体制に任せておけば、企業は人工造林に投資するよりもさらなる天然林伐採への投資を選択するでしょうし、伐採が終わった後の森林の農地転用もさらに進行していくでしょう。
目下、「ポスト京都」の枠組み構築作業の中で論じられているのは、天然林の土地利用転換を食い止めるという保全行為に対して排出権クレジットを認めるという新しい制度の構築です。
これは、森林保全による炭酸ガス削減効果に価格を付与して排出権取引の対象とし、市場メカニズムに組み込もうという発想です。熱帯の国々が熱帯林を保全すれば、若干のお金が手に入るという仕組みです。森林保全に排出権クレジットが認められれば、各国政府は保全か開発のどちらが得かを費用対効果で判断して選択することになります。
この制度が実現すれば、森林開発の外部不経済効果が考慮されないまま、市場原理に任せて土地利用転換が行われている多くの国々の状況が、改善されることは確かでしょう。しかし、どれほど効果があるのかは現段階では未知数です。
関税政策の有効性
森林保全に経済インセンティブを与えるという取り組みはぜひとも必要です。しかし、それと並行して実施すべき、もう一歩踏み込んだ政策としては、関税政策が考えられます。これを実施すると、自由貿易体制下では造林が進まない条件不利地域にも造林のインセンティブを与えることができるからです。現在のWTO体制では認められていないことなのですが…。
中国を例にして説明しましょう。中国は、WTO加盟にあわせて木材貿易を自由化したことによって、ロシアから無関税で安価な丸太が大量に流入するようになり、中国は世界最大の木材輸入国になりました。中国の木材輸入はロシアやインドネシアの天然林の違法伐採活動を誘発していると国際的に強く懸念されています。
現在の中国政府は巨額の財政投入による造林事業を実施し、表1で見たように国内的には驚くべき速度で森林蓄積を増大させています。中国に関しては、将来的には木材自給率を高め、ロシアやインドネシアからの違法伐採材の流入を抑えることが求められるのです。
しかしながら中国の国産人工材は、ロシアやインドネシアから流入する安価な天然材に比べてコスト高であり、自由貿易を放置すれば木材自給率の向上は不可能になります。中国国内で造林を実施した農家は、木を植えても儲からないと思えば、造林地を放棄して再開墾してしまうかも知れません。
自由な木材貿易は、自然条件面で競争力の劣る条件不利国において、安価な天然材の輸入依存体質を生み出し、国内での造林活動の進展を阻害するのです。
温暖化対策として熱帯での森林減少を抑え、条件不利地域でも造林を進めるためには、炭素排出源である天然材や、森林消失に寄与するプランテーション作物にはペナルティとして関税をかけてしまうという政策は効果的なのです。他方で、そうした税収は国際的な温暖化対策基金にプールして、熱帯林の保全行為に対する財政的支援金として使えば、人工造林の進展と熱帯林消失の抑制を同時に進めることができるというわけです。
もっとも基本的に日本のマスコミ各紙は、まるで言論統制下にある国のように「自由貿易万歳論」で一色に染まっていますので、こうした主張が紙面に載ることは、今のところはありません・・・・。やれやれ。
昨日まで書いていたのは、「ポスト京都」の地球温暖化対策として、森林部門でどのような取り組みを行うべきかという政策論でした。
現在、地球大気に年間排出される炭酸ガスの20~25%は森林消失(森林から農地や放牧地などへの転換)が原因だと推計されています(IPCCの推計)。しかも森林からの炭酸ガス排出のほとんどが熱帯林の消失によるもので、さらに具体的にはインドネシアとブラジルという二つの国での急激な熱帯林消失のウエイトが非常に高いのです。もし全地球規模で森林減少が止まれば、炭酸ガスの年間排出量は一挙に20%以上の削減されることになるので、これはすごいことなのです。
それで国際的に、「化石燃料の消費量を削減するよりも先に、森林消失を早く止めろ!」という声が日増しに高くなっています。(もっとも私は、化石燃料消費の削減も森林保全も同じウェイトで取り組まねばならないと考えていますが…)
実際、英国政府が昨年の10月に発表した『気候変動の経済的側面に関する解析(スターン・レビュー)』という報告書によれば、熱帯林消失を食い止めることによる炭酸ガス排出削減のコストは1トン当たり1~2ドル程度であり、化石燃料の消費抑制による排出削減コストのじつに30分の1と評価されていました。
国際社会が強い意志で、財政的支援も含めて熱帯諸国をバックアップしていけば、森林を炭素の排出源から吸収源へと転換するのは、それほど困難な課題ではないわけです。
森林が減る国、増える国
表1はFAOの推計値で、アジア諸国の中で、森林消失による炭酸ガスの排出量が大きい国を上から並べてみたものです。インドネシアが最大で、年間平均190万ha程度の熱帯林が消失し、6億4000万トンの炭素が排出されています。次いでミャンマー、カンボジア、フィリピン・・・・と続きます。
表1 アジアで森林からの炭素排出量の大きい国々
(2000年から05年の年平均値)
―――――――――――――――――――――
国名 森林の炭素蓄積の増減量
(百万トン/年)
―――――――――――――――――――――
インドネシア -641
ミャンマー -44
カンボジア -28
フィリピン -21
―――――――――――――――――――――
出所)FAO(2006), Global Forest Resources Assessment 2005. より作表。
一方、アジア各国(西アジアと中央アジアを除く)の中で、森林蓄積量の増加により森林が炭素吸収源として機能している国々を探すと6カ国あり、表2のようになります。多い順に中国、日本、ベトナム、韓国、インド、ブータンです。
森林面積自体が増えているのは、中国、ベトナム、インド、ブータンの4カ国のみで、日本と韓国は森林面積としては定常かやや微減というところなのですが、日本では50年代から70年代、韓国は70年代と80年代に活発に行った造林事業の結果、まだ若い樹木が旺盛に成長しているため、森林による炭素吸収量は高くなっています。(それで日本政府は、京都議定書で決まった6%の削減義務のうち、3.9%は森林による炭酸ガス吸収でまかなえるとしているわけです)。
さて、アジアで森林が炭素の吸収源になっている、表2の6ヶ国を合計すると、年間1億6200万トンの吸収量になります。しかしながら、インドネシア一国で年間6億4100万トンの炭素が森林消失によって排出されているので、吸収6ヶ国を合計しても、インドネシア一国の排出量に遠く及ばない数字です。
それで、昨年の11月にナイロビで開かれた京都議定書の第2回締約国会議でも、これ以上の森林消失を食い止めるための国際的な枠組みを構築しようということが声高に叫ばれたそうです。
表2 アジアで森林が炭素吸収源になっている国々
(2000年から05年までの平均値)
―――――――――――――――――――――――――――――
国名 森林による炭素蓄積の増減 年間森林増加面積
(百万トン/年) (1000ha)
―――――――――――――――――――――――――――――
中国 86 4058
日本 41 -2
ベトナム 19 241
韓国 10 -7
インド 4 29
ブータン 2 11
―――――――――――――――――――――――――――――
出所)FAO(2006), Global Forest Resources Assessment 2005. より作表。
森林を炭酸ガスの排出源から吸収源へと転換するために必要なこと
一般に、森林を炭素の排出源から吸収源へと転換し、さらに化石燃料の削減にも寄与させるためには、以下の5点の対策が必要となるでしょう。
①天然林の土地利用転換(農地・放牧地などへの転用)を可能な限り抑制する。
②天然林からの木材伐採量を、年間成長量に見合う持続可能な水準に抑制する。
③荒廃地や生産性の低い農地においては、新規造林・再造林を推進する。
④天然材供給の減少分は、造林地からの人工材供給で代替する。
⑤化石燃料の消費を抑制するため、造林地から供給される人工材のエネルギー利用を促進する。
しかしながらこれらは、森林を排出源から吸収源に転換するという観点でのみ展開した机上の空論です。現実には、WTO体制下の自由貿易システム、国の法律や土地制度、政府の財政状況、林産物の市場状況、森林に依存して暮らす地域住民の文化的・経済的諸条件など、さまざまな制約条件の中で実施えねばなりませんので、一筋縄ではいきません。
以前もこのブログで論じましたが、純然たる市場原理に任せておけば上記の5点は決して実現されません。自由放任の自由貿易体制に任せておけば、企業は人工造林に投資するよりもさらなる天然林伐採への投資を選択するでしょうし、伐採が終わった後の森林の農地転用もさらに進行していくでしょう。
目下、「ポスト京都」の枠組み構築作業の中で論じられているのは、天然林の土地利用転換を食い止めるという保全行為に対して排出権クレジットを認めるという新しい制度の構築です。
これは、森林保全による炭酸ガス削減効果に価格を付与して排出権取引の対象とし、市場メカニズムに組み込もうという発想です。熱帯の国々が熱帯林を保全すれば、若干のお金が手に入るという仕組みです。森林保全に排出権クレジットが認められれば、各国政府は保全か開発のどちらが得かを費用対効果で判断して選択することになります。
この制度が実現すれば、森林開発の外部不経済効果が考慮されないまま、市場原理に任せて土地利用転換が行われている多くの国々の状況が、改善されることは確かでしょう。しかし、どれほど効果があるのかは現段階では未知数です。
関税政策の有効性
森林保全に経済インセンティブを与えるという取り組みはぜひとも必要です。しかし、それと並行して実施すべき、もう一歩踏み込んだ政策としては、関税政策が考えられます。これを実施すると、自由貿易体制下では造林が進まない条件不利地域にも造林のインセンティブを与えることができるからです。現在のWTO体制では認められていないことなのですが…。
中国を例にして説明しましょう。中国は、WTO加盟にあわせて木材貿易を自由化したことによって、ロシアから無関税で安価な丸太が大量に流入するようになり、中国は世界最大の木材輸入国になりました。中国の木材輸入はロシアやインドネシアの天然林の違法伐採活動を誘発していると国際的に強く懸念されています。
現在の中国政府は巨額の財政投入による造林事業を実施し、表1で見たように国内的には驚くべき速度で森林蓄積を増大させています。中国に関しては、将来的には木材自給率を高め、ロシアやインドネシアからの違法伐採材の流入を抑えることが求められるのです。
しかしながら中国の国産人工材は、ロシアやインドネシアから流入する安価な天然材に比べてコスト高であり、自由貿易を放置すれば木材自給率の向上は不可能になります。中国国内で造林を実施した農家は、木を植えても儲からないと思えば、造林地を放棄して再開墾してしまうかも知れません。
自由な木材貿易は、自然条件面で競争力の劣る条件不利国において、安価な天然材の輸入依存体質を生み出し、国内での造林活動の進展を阻害するのです。
温暖化対策として熱帯での森林減少を抑え、条件不利地域でも造林を進めるためには、炭素排出源である天然材や、森林消失に寄与するプランテーション作物にはペナルティとして関税をかけてしまうという政策は効果的なのです。他方で、そうした税収は国際的な温暖化対策基金にプールして、熱帯林の保全行為に対する財政的支援金として使えば、人工造林の進展と熱帯林消失の抑制を同時に進めることができるというわけです。
もっとも基本的に日本のマスコミ各紙は、まるで言論統制下にある国のように「自由貿易万歳論」で一色に染まっていますので、こうした主張が紙面に載ることは、今のところはありません・・・・。やれやれ。
>自然林に代わりパーム椰子やサトウキビを同じ面積
>で栽培したときの二酸化炭素吸収量の差というのは
>どうなんでしょうか?
今にわかに数字が出てこないので調べておきます。パーム油はある程度、幹に炭素を固定していますが、それでも天然の熱帯林の炭素蓄積量に比べれば数分の1しか蓄積できないと思います。
熱帯林をサトウキビ畑に転換した場合、もう絶望的に温暖化に貢献するだけです。その熱帯林から転換したバイオエタノールが環境にやさしいゼロ・エミッションの如く言われるとしたら、これはとんでもないことだと思います。最悪の炭酸ガス排出行為ですから。
やはり減反して余っている日本の農地でバイオ・エタノールを生産したいですね。いつかこのブログでも書いたのですが、エタノール採取用の稲の品種を作付けするのがいちばん良いと思います。↓ ここで書きました。
http://blog.goo.ne.jp/reforestation/e/e128ab7bf929a483ea72b0c0421245b6
それから浅川問題のTBもありがとうございました。村井県政の脱「脱ダム宣言」、そして浅川問題について何か書かなきゃ、書かなきゃと思いながら、忙しくてかけずにおりました。近日中に何か書くようにいたします。
私のブログをブックマークして下さってありがとうございました。こちらも「みやっちブログ」をブックマークさせていただきます。
森林消失の問題は、ホントに真剣に考えなければならないことだと思っています。
しかし、日本国内の大手企業はパーム油からのディーゼル燃料大量生産を目的に森林消失に関与している有様で、いくらバイオ燃料だから排出量にカウントされないといっても二酸化炭素を吸収できなくした分をカウントすれば、パーム椰子の成長により吸収される二酸化炭素との兼ね合いからして決して温暖化防止の目的には適っていないと考えています。
加えて、バイオエタノールの需要増から自然林を伐採してサトウキビ畑を増やすというのでは本末転倒のような気がしています。
自然林に代わりパーム椰子やサトウキビを同じ面積で栽培したときの二酸化炭素吸収量の差というのはどうなんでしょうか?