代替案のための弁証法的空間  Dialectical Space for Alternatives

批判するだけでは未来は見えてこない。代替案を提示し、討論と実践を通して未来社会のあるべき姿を探りたい。

「幕府」軍や西郷軍の戦死者を合祀すればすむ問題なのか?

2016年10月07日 | 長州史観から日本を取り戻す
 亀井静香氏ら超党派の国会議員が、靖国(長州)神社に「幕府」軍や会津軍や西南戦争の西郷軍なども合祀せよという要望書を手渡す予定という。週刊ポストの以下の記事参照。

http://www.news-postseven.com/archives/20161004_453226.html

 亀井議員らの要望書には以下のようにあるという。

〈白虎隊や新選組、西郷南州(西郷隆盛)、江藤新平などの賊軍と称された方々も近代日本のために志をもっていたことは、勝者、敗者の別なく認められるべきで、これらの諸霊が靖国神社に祀られていないことは誠に残念極まりないことです〉


 現在の靖国神社の宮司は、徳川慶喜の曾孫の徳川康久氏で、以前から「明治維新の過ち」という靖国=長州史観の根幹を揺るがす発言をして話題になっていた。徳川康久氏も亀井氏の提案に大いに乗り気らしい。それにしても長州神社のトップが、いつの間にか徳川家になっているというのは驚きである。

 宮司の徳川康久氏は上記サイトによれば本年6月には以下のようにも語っているという。

「文明開花という言葉があるが、明治維新前は文明がない遅れた国だったという認識は間違いだったということを言っている。江戸時代はハイテクで、エコでもあった」

 この発言には拍手を送りたい。「文明開化」という言説を歴史教育で用いるのは止めるべきだと私も思う。すばらしい歴史観の持主が長州神社のトップに座ったものだ。
 この際、徳川宮司には、根本的に靖国=長州史観の見なおしを行なってほしい。

 以前からブログで論じてきたが、靖国=長州神社が問題なのは、A級戦犯の合祀問題などにあるのではない。もっと根源的な点にある。

 長州神社には、京都御所を襲撃して天皇を拉致せんとした久坂玄瑞や国司信濃などは祀られているが、それらのテロリストたちを取り締まり、孝明天皇を護ろうとした新選組や会津などの死者たちは祀られていない。天皇のために死んでいった人間たちを祀るための施設という名目に照らして、根本的におかしいのだ。

 あの「神社」は、孝明天皇を攻撃した側の長州の南朝主義者たちが創建したものであり、日本古来の神道とは無縁な施設である。長州神社は、本質的に長州のテロと戦争を称えるための施設である。明治以降は、「天皇」を名目としつつ、長州レジームのための戦死を全国民に強要する装置として機能した。

 無念の最期を遂げられた孝明天皇は、京都御所に武力攻撃を仕掛けるという日本史上唯一無二の「大逆」行為に及んだテロリストたちを祀った長州神社を許すとは思えない。
 新選組や会津の戦死者たちも、長州のテロリストたちと一緒に祀られてうれしいと思うだろうか?

 私事であるが、私の母方の祖父もむりやり徴兵されて満州に送られ、ソ連軍の捕虜となってシベリアに抑留され、寒さと飢えの中で餓死している。長州神社に祀られているらしいが、分祀してほしいと心より願う。死者の魂は誰からも束縛されるべきではない、自由な存在だ。ましてやテロリストたちと一緒にされたくはない。

 長州神社は、いちど合祀された「英霊」の魂は、液体のように混ざり合って融合しており、特定の個の「魂」は分祀できないと主張する。

 日本の伝統的宗教観念では、死しても人間の魂は、独立した個性を保っている。しかるに、長州神社にあっては、「個」は他者の魂と一緒になって、液体のように融合されると主張する。まるでアニメの新世紀エヴァンゲリオンの「人類補完計画」のようである。気持ち悪いことこの上ない。

 人間たちの魂がスープのように溶け合って融合するなどという思想は、「幕末」長州で「招魂祭」なる儀式が発生するまで、日本には存在しなかった。多くの日本人には受け入れ難い。
 
 もちろん中には、「靖国に入りたい」と願って戦死していった人々もいたであろう。しかし、私の祖父のように、敗戦まぎわに家族から引き離されて補充兵として無理やり戦地に送られ、前線に放置され、餓死に追い込まれた人々は、嬉々として長州神社に入りたいなどとは願わなかったはずである。それらの人々の魂は長州神社で融合などしないから、長州神社側は、安心して希望者を分祀すべきであろう。

 戦死者(=その六割は実際には餓死者)の魂を閉じ込めて虜にし、新たな「戦死」を強要するための「装置」。それが長州神社である。そのような目的のために、祖父のような餓死者の「魂」を利用されるのは、耐えられない。

 「幕府」軍や新選組や会津軍や西郷軍を合祀すればすむ問題とは思えない。いやがる人々までムリに合祀してはならない。少なくとも、近藤勇や土方歳三は長州神社への合祀をイヤがるのではなかろうか。

 元寇の戦没者慰霊施設である鎌倉の円覚寺は、日本軍と元軍の双方の戦死者を祀っているが、位牌はそれぞれあり、死者の個性を尊重している。魂が融合するなどという思想はない。

 第二次大戦の戦没者・戦死者にかんしては、千鳥ヶ淵で、戦死者・戦没者の個々の魂を尊重しつつ慰霊すべきであろう。



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8 コメント

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記事のご紹介をしたいと思います。 (りくにす)
2016-10-13 09:02:31
おひさしぶりです。
靖国神社には私も思うところがるのでここにコメントしないで自分の記事として書こうと思います。
つきましては関先生の記事をご紹介したいと思うのでお許しいただきたいと思います。
よろしくお願いします。
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もちろんOKです ()
2016-10-13 21:40:31
 この間多忙で新しい記事をかけずに申し訳ございませんでした。私のブログの記事の引用はもちろん自由ですので、紹介してくださるとありがたいです。

 もうじき赤松小三郎についての本を出す予定です。
 宇加地新八の憲法構想も紹介し、謝辞に「りくにす」さんのハンドルネームも入れておきました。薩長公英陰謀論者さんやrenqingさんも謝辞でハンドルネームを言及させていただきました。
 よろしいでしょうか?
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関さん、御意のままに。後悔しきりながら光栄に存じます。 (薩長公英陰謀論者)
2016-10-15 18:16:58

 赤松小三郎についての論考をまもなく世に問われるとか、まことにありがたいことです。じつに意義深いことであると思います。当方に謝辞を、とは、そのゆえんがにわかには思いあたりませんが、関さんの御意にて、思いがけぬ光栄と恐縮いたしております。

 同時に、ただ一時のものと、もののはずみでの即製ペンネームが、ただ無粋で魁異なもので閉口ものであり、しかも、もっとも重要な「寄生地主」が抜けていて、手おくれの後悔をしております。

 赤松小三郎が公儀に根本的な政治改革の画期的な提案をおこなっていたとのこと。パークスが代表する英国の現地勢力の意図を背景にした西郷隆盛の手のものによって彼が京都の路上で非業の死を遂げることになった原因はこれであろうと、この6月の御記事から想像しておりました。クロムウェルの革命を王政復古と名誉革命によって狡猾に換骨奪胎、葬り去った英国グローバル経済支配層お得意の反革命戦略的アプローチ、見えない間接侵略支配のプロセスの中のいたましいシーンだと思います。

 国内史においては、明治維新後に帝国議会議員の大半を占めたという寄生地主に焦点をあてることを含めた経済史の観点から幕末維新を位置づけること、「世界」史においては、19世紀後半、英国の経済覇権が新興国、アメリカと(1870年にプロシャが統一する)ドイツに激しく追い上げられて1873年の世界(欧米)恐慌に至り、以降大企業支配の工業製品海外市場獲得競争が激烈になって第一次世界大戦になだれ込むという動きの中での「アジア史」の部分的局面として見ること、この二つのアプローチによって、現在に至る長州スキームの維新史観、靖国史観のカルト性を一蹴することができるのではないかと考えています。

 ありがとうございます。米国大統領選挙の第二回討論会の様子を10月14日の御記事のおかげで、じっくり拝見しました。関さんがおっしゃるとおりだと思いました。しかし、ヒラリー候補の画像をずっと見ていてなぜか違和感が湧くことに驚きました。もし、その場でトランプ候補が「あなたはヒラリー・クリントンさんではありませんよね」と言ったとしたら猛攻撃にあって忽ち政治的禁治産者として葬られるでしょう。
 そして選挙後まもなく、そのヒラリーさんも始末され、ヒラリー側の副大統領が世界戦争の引き金を引くのではないか、と想像してしまいます。

 「壮大なる」ペテンの世界ですね。21世紀になって、コイズミからノダ、そして、いま現在は新潟県知事選の想定外の展開に焦ってペテンで打開しようとするであろうアベ・スガに至る、日本国内のものを含めて、
 「まるごとペテン」には慣れたように思っておりましたが、まだ先が・・・。核戦争によって人間が滅びるまで?

 この投稿をこのままここで終えたくはありませんけれど。
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ありがとうございました ()
2016-10-17 11:11:15
 拙著ですが、出版社の近刊書としてアナウンスされましたので、よほどの巧妙な謀略によって阻まれない限り、出版されることになりました。以下です。
 http://www.sakuhinsha.com/nextrelease.html

 本の「あとがき」で皆様のハンドルネームとともに御礼の言葉を述べさせていただきました。あとがきに「薩長公英陰謀論」と書くのは、たしかに「一部の読者はこれで引くかも」とも思われましたが、薩長公英さんの指摘されたこと(西郷の転換の陰にアーネスト・サトウの陰)、の妥当性で読者は判断してくれるものと思います。

 ヒラリーも確かに健康状態から考えて、あまり長く大統領職が務まりそうもないですね。


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Facebookで紹介させていただきました (たんさいぼう影の会長)
2016-10-17 18:44:52
お久しぶりです。
自分のFacebookで、このトピックを、やや批判的に紹介させていただきました。
https://www.facebook.com/taisuke.ohtsuka/posts/1094600383993344?pnref=story
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よい出版社と、とてもよいタイトルで、上梓されるのを心待ちにしております。 (薩長公英陰謀論者)
2016-10-18 11:24:04

 関さん、陰謀論という露悪的なひねりを不用意に入れてしまったために、思わぬところでご心配と大きなご迷惑をおかけすることになり誠に申しわけありません。
 関さんの足を引っぱる、取り返しのつかぬことをいたしまして、お詫びの申し上げようがありません。
 適切にカバーいただいたことでダメージ・インパクトが減じられることを祈っています。
 次回から投稿名をあらためることにいたします。

 しかし、非常によい出版社と、そこから思いのおおきく馳せるのを感じる非常によいタイトルであると思います。拝見してしばし感じ入りました。

 じつは、1年少し前に、公議政体論(代議政体論)に拠る薩摩藩内の武力倒幕反対派の存在を高く評価することを目的とした「武力倒幕方針をめぐる薩摩藩内反対派の動向」という論文があることを知りました。
 今からちょうど10年前に出た論文集の締めにあった、高橋裕文氏という当時茨城県立高校の先生であった、お若くはない方のご労作です(家近良樹編『もうひとつの明治維新』有志舎、2006年、所収)。

 高橋裕文氏は、家老の小松帯刀までが、大久保・西郷による謀略的な武力倒幕方針から公議政体論に転じたことを指摘し、ここから窺うことができる当時の公議政体論の影響力の強さが「明治維新」とその後の歴史の展開に強い影響をあたえたことを指摘しています。
 むろん高橋裕文氏は土佐の後藤象二郎を視線の中心に入れており、赤松小三郎が薩摩藩内における公議政体論の形成に重要な役割を果たしていたことには気がついていません。
 無理のないこととは思いますが、もう一歩のところですのに。

 と、いうことで、関さんの新著は、明治維新に関するもののなかでまちがいなく異色、かつ出色であり、やがて必ずや、「幕末維新」研究史における画期的な転換点として認識されてゆくであろうと確信します。

 さて、田中宇氏が10月16日付けの記事で、EU離脱投票の前にBBCなどが「英国で離脱派が勝ったら、米国ではトランプが勝つだろう」と報じていたことをリマインドしています。
 そして、トランプはマスコミの針小棒大的な中傷報道を受け支持率が下がったと(歪曲的に)喧伝されているが、米国民の多くは歪曲にはげむマスゴミにうんざりしており、中傷報道の効果は低い。投票に関してよっぽどの選挙不正が行われない限り、トランプが大統領になるだろう、・・・と断言しています。

 新潟県知事選の「奇跡的な大逆転」(言われていることに反して、得票差がじつははるかにもっと大きく開いていたのであろうと勝手に想像しています)を見ますと、トランプ候補に関する田中氏の予測は、いかにもさもありなんとは思っています。

 関さんのひきつづくご健闘とご活躍を祈っております。
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ご紹介ありがとうございます ()
2016-10-19 12:45:51
たんさいぼう影の会長さま

 大変にご無沙汰しております。
 私はfacebookをやらないので、そちらの世界での議論に加われないのが残念ですが、弁証法的議論のタネにしていただければ望外の喜びです。
 今後ともなにとぞよろしくお願い申し上げます。
 
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ご教示ありがとうございます ()
2016-10-19 13:09:39
薩長公英陰謀論者さま

 高橋裕文氏の論文の紹介ありがとうございました。読ませていただきます。後藤象二郎本人も、その実像よりも過小評価されている人物だと思います。龍馬を高めるために、後藤を小さく評価しようというバイアスがあったように思えます。拙著でも、後藤は高く評価しています。

 高橋氏の論文、これから読んでみたいと思います。もっと前に読んでいれば引用できたかもしれない論文でしたが、ちょっと間に合わないですね。


>明治維新に関するもののなかでまちがいなく異色、かつ出色

 いえいえ、私は歴史学者でないので、なんら言及されることなく終わるでしょう。
 素人から批判されると、専門家は素直に受け入れられないものです。新古典派経済学者を批判して、新古典派が猛反発するのと同様に・・・。

 もっとも、本そのものが、歴史学に影響を与えようという趣旨ではなく、自民党の改憲案が日本の伝統に依拠したものではないこと、安倍政権の言説(現行憲法はGHQに押し付けられたなど)が誤りであることなどを立証するために書いたものです。

 本の半分は安倍史観批判になっています。そちら方面で賛同者が出てくれればそれでよい、という内容です。

 トランプにかんしては、さすがに今からの逆転はムリなように思えます。メディアに煽られないアメリカ人は着実に増えていますが、さすがに今回はまだ勝つまでには至らないように思えます。

 新潟県知事選すばらしい結果でした。新・奥羽越列藩同盟が形成されつつあるようにも思えます。しかも薩摩がその列に加わっているのもすばらしいです。奥羽越に薩摩がついて長州を包囲するという、逆・明治維新も夢ではないのでは・・・・・と。
 関東圏も早く長州支配から脱する必要があります。
 
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