代替案のための弁証法的空間  Dialectical Space for Alternatives

批判するだけでは未来は見えてこない。代替案を提示し、討論と実践を通して未来社会のあるべき姿を探りたい。

米国からの牛肉輸入再開圧力にどう対処するか?

2005年03月16日 | 政治経済(日本)
 強まる米国産牛肉の輸入再開圧力に対してどのように対処すればよいのか、私見を述べたいと思います。私は基本的に、主権国家が民意に立脚して定めた食品安全基準(この問題の場合、牛の全頭検査)が、外国からの圧力で緩和されたり撤廃されたりすることがあってはならないと思います。(日本の場合、民意を反映していない法令も多いのですが、幸いなことに牛の全頭検査に関しては民意を反映しています)。

 米国の主張は、要は、日本の食品安全基準を米国の水準に合わせて引き下げるべきだということです。
 米国人の皆さん。あなた方の感覚からすれば、「全頭検査」など金がかかるだけで「非科学的」に見えるのかも知れません。しかし私たちの価値観は、食品に関して無頓着なあなた方のそれとは違うのです。食に関するあなた方の価値観を押し付け、私たちの選んだルールを無理やりに変更させることがあるとすれば、あなた方が大変に尊んでいるらしい「民主主義」という価値観を自ら踏みにじるものであることに留意していただきたく存じます。

WTOはどのような裁定を下すのか?

 日本政府は、まずはWTOの場で堂々と争うべきでしょう。しかしながら、おそらくWTOの場で日本は負けることになるでしょう。残念ながらWTOという組織は、食品安全基準という一国の主権や生命の安全に関わる問題よりも、貿易取引の増大をより優先的に考える組織だからです。

 これに関しては先例があります。かつてEUと米国はホルモン牛肉の危険性の問題で長く争いました。EUは成長ホルモンを投与した牛肉の生産と販売を域内で禁止したので、当然のことながらホルモン牛肉の輸入も禁止となりました。それで米国とカナダ産のホルモン牛肉はEUへ輸出できなくなったのです。
 米国とカナダはGATT(後にはWTO)に訴えて争いました。そして1998年にWTOの紛争解決機関は、EUがホルモン牛肉を禁止する科学的な証拠が不十分だとして、米国とカナダに軍配を上げたのです。
 しかしEUは偉かった。WTOの裁定を受けても、牛肉の安全基準を米国並に落とすような愚かな行為はしなかったのです。そこで米国とカナダは、EUの農産物に対して報復関税をかけるという貿易制裁を課しました。それでもなおかつ、EUは牛肉の安全基準を下げず、逆にホルモン牛肉の危険性を訴え続けています。世界中の心ある人々は、EUのそうした態度を立派だと思って尊敬しています。

 日本は、EUの態度を見習うべきだと思います。WTOの場で科学的な論争を行い、WTOの偏向裁定により負けたとしても、堂々と米国からの経済制裁(おそらくは日本の工業製品に対する報復関税)を受け入れるべきなのです。その選択ができれば、私たちは将来にわたって独立と民主主義を維持できるでしょう。日本がそうした態度をとれば、世界からも賞賛されるだろうと思います。ここで米国の圧力に屈しては、いよいよ日本は正真正銘の植民地となってしまうでしょう。

米国からの経済制裁は日本の利益

 さらに米国から報復関税措置を受けることは、じつは日本の利益になると思います。多くの日本企業は米国から貿易黒字を稼ごうとしてミクロレベルの利益を追い求め、それがマクロのレベルで見るとじつは自らの首を絞めているからです。
 米国は現在では年間5000億ドルという天文学的な貿易赤字を計上し、経済は破綻寸前です。米国が膨大な貿易赤字をタレ流し続けることは、世界経済に過剰流動性を供給し、世界の至るところでバブルの発生とその崩壊という負の連鎖を生み出している根本原因だといってよいでしょう。

 日本に関していえば、対米貿易黒字というまさにその事実が、プラザ合意から、日米構造協議、さらに米国からの「年次改革要望書」の受け入れへと続き、つまるところ経済主権の放棄に至りました。いくら日本が対米貿易黒字を稼いでも、稼いだドルは全て米国債の購入などの形で米国に再投資され、日本マネーの対米流出に歯止めがかからないという状況ですから、私たちは何の恩恵も受けておりません。
 対米貿易黒字の結果として、日本は米国からの「構造改革」要求を受けることになり、そして米国からの要求を受け入れれば受け入れるほど、私たちの生活の安定はガタガタになっていったというわけです。すべては対米貿易黒字を死守しようとする日本政府の判断の誤りに根本的な問題があるのだと思います。

 もはや自由貿易体制そのものが、巨大な不均衡を生み出して破綻しているといってよいでしょう。巨大貿易赤字国(米国)や巨大貿易黒字国(日本や中国)の存在は、世界経済に安定と繁栄を生み出さないのです(自由貿易の問題は別途詳しく論じたいです)。

 日本は、牛肉問題を口実に米国から経済制裁を受けることができれば、それはむしろ絶好の機会です。それを一つの契機として、米国への輸出依存度を減少させるべきです。 日本が米国とともに沈没しない唯一の方法は、対米輸出依存度を減らし、アジア市場に目を向けるとともに、内需を拡大することしかありません。
 それができれば日本の農業と環境も守ることができます。米国の非人間的・反自然的農業と競争しようなどということは、自殺行為であり、即刻やめるべきだと思います(この問題も別途詳しく論じたいです)。

 日本は、対米貿易黒字の放棄と引き換えに、経済主権を回復すべきなのです。それは一時的には打撃もあるかも知れませんが、長期的な安定と繁栄にいたるための必要不可欠な選択肢です。

 以上、私が考える原則論を述べました。しかしながら、もちろん小泉内閣は食品安全に関する主権を放棄して、米国への屈従を選択することは目に見えております。
 いまだに40%の支持率があるらしいのですが、私は不思議で仕方ありません。40%の皆さんは、それでもあの傀儡政権を支持するのですか?
 

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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
はじめまして (i-demo)
2005-03-17 23:39:00
トラックバック、コメントありがとうございました。

すごくいいページですね。感動しました。特に、経済制裁は日本の利益、というところはいいですね。

 以前から、アメリカに「いいのか、日本製品買わなくて?米国民が不自由するだけだぞ」と言ってやれよ、などと弱腰の日本の政治家は批判されていましたが、今は弱腰どころではない感じですね。

 これからもよろしくお願いします。

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さっそくありがとうございました ()
2005-03-18 01:26:48
 昨日、i-demoさんのすばらしいページを見てコメントさせていただいたのですが、さっそくこちらにも訪れて下さいましてありがとうございました。

 昨日の日経新聞によれば、昨年の米国の貿易赤字は5000億ドルからさらに増大して遂に6000億ドルを突破したそうです。もう完全に終わってますね。ドル暴落から世界恐慌へという「Xデー」はいよいよ秒読み段階でしょうか。

 そうなったら、竹島どころの騒ぎじゃないですよね。「Xデー」に至る前に一刻も早く、日本は東アジア共同体の構築へと外交政策をシフトさせ、ソフトランディングの道を模索すべきだと思います。
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