私も執筆者として参加した、最近出た本の紹介をさせていただきます。宇沢弘文・細田裕子編『地球温暖化と経済発展 -持続可能な成長を考える-』(東京大学出版会)という本です。最近、時事問題などをブログに書いている余裕がなくなっており、更新するたびに手前ミソな話題になってしまっており、申し訳ございません。
宇沢先生の編集した最新本です。私は第2章の「アジアの森から考える温暖化対策」を執筆しております。この本は温暖化対策推進論者の方々にも、地球温暖化懐疑論者の方々にもぜひ読んでいただきたく存じます。
懐疑論者の方々にもぜひ読んで欲しいというのは、本書は地球温暖化対策がまったなしの状況にあるという強い危機感に立脚していますが、排出権取引制度には反対の立場だからです。その意味で、半分は懐疑論者の方々にも納得していただける話題なのではないかと思います。
懐疑論者の方々は、「排出権取引制度とは、新しい金融商品をつくって投機活動を繰り広げようというEUの金融業界の新戦略なのではないか。→ 彼らが温暖化危機をあおるのは排出権取引で儲けようという私的欲望に基づいているのではないか。→ 故に彼らがあおる温暖化危機そのものが虚構なのではないか」というロジックで、温暖化現象そのものまで否定してしまっています。しかし最初の二点に関しては半分は当たっていると私も思いますが、最後の三点目はとんでもない論理の飛躍です。
編者の宇沢先生は、京都議定書が採択された当時から排出権取引制度に反対の論陣を貼っていました。宇沢先生の基本構想は京都議定書以前から、国際的な基準で炭素税を徴収し、その税収を大気安定化国際基金がプールし、各国が実施する植林活動への補助金として拠出するというものです。その際、先進国と途上国の公平性が保たれるよう、一人当たりGDPに比例させて炭素税には格差をつけます。先進国と途上国のあいだの公正が保たれる比例的炭素税の考えです。これが社会的にもっとも公正な温暖化対策といえるでしょう。
宇沢先生は、比例的炭素税と国際基金からの育林補助金制度の導入で、地球大気の安定化と国際的な森林面積の長期的な均衡を達成するという動学モデルを構築しています。この動学モデルについての詳細は、Uzawa, H(2003), Economic Theory and Global Warimig, Cambridge University Press. にある内容です。本書においても、そのエッセンスがわかりやすく解説されています。
その上で、宇沢先生は排出権取引制度の激しい批判を展開します。例えば以下のようです。
***<引用開始>***
京都会議で提起された温暖化対策のうち、もっとも喧伝され、また現実に実施されているのは排出権取引市場である。しかし、この制度ほど京都会議の基本的な考え方の反社会性、非倫理性を表すものはないといってよい。
二酸化炭素は、植物の生育に不可欠な役割を果たし、すべての生命の営みの過程で大気中に放出され、また人間のすべての営みに重要なかかわりをもつ。たまたま、自らへの割当が必要とする量より多かったとき、それを排出権と称して、市場で売って儲けようとすること自体、倫理的な面からも、また社会正義の観点からも疑義なしとはしない。
***宇沢弘文「比例的炭素税と大気安定化国際基金」宇沢・細田編、前掲書、295頁***
このように、懐疑論者の方々にとっても共感できる要素が多いかと思います。その上で懐疑論者の方々におかれましては、全てにシニカルになるのではなく、正しい温暖化対策のあり方を考えていって欲しいと願います。
さて、本書の構成は下記のようになっています。
***********
プロローグ(宇沢弘文)
序 章 地球温暖化と異常気象の発生(細田裕子)
第I部 地球温暖化と森林の再生
第1章 森林にしのびよる地球温暖化の影響(守田敏也)
第2章 アジアの森から考える温暖化対策(関良基)
第3章 地球温暖化とベトナムの森林政策(緒方俊雄)
第II部 地球温暖化の経済理論
第4章 地球温暖化と持続可能な経済発展(宇沢弘文)
第5章 持続可能な発展と環境クズネッツ曲線(内山勝久)
第6章 地球環境と持続可能性―強い持続可能性と弱い持続可能性(大沼あゆみ)
第III部 温暖化対策の効力と展望
第7章 気候変動は抑制可能か――道筋と選択(赤木昭夫)
第8章 排出権取引制度の射程――2010年代に向けての機能と限界(岡敏弘)
第9章 環境保全型社会の構築と環境税(日引聡)
第10章 地球温暖化問題と技術革新――政府と市場の役割(有村俊秀)
第11章 比例的炭素税と大気安定化国際基金――京都会議を超えて(宇沢弘文)
エピローグ(宇沢弘文・細田裕子)
*************
私の書いた第2章でも、森林保全を排出権取引の対象とするという、万事市場任せの制度を批判しています。その上で、国が財政資金を投入して計画的に森林を再生するという社会主義的活動を一定評価しつつ、なおかつその官僚主義的側面を批判して、オルタナティブを目指すという論理構成になっています。以下、私の書いた部分を少し紹介させていただきます。
***<引用開始>****
目下、「ポスト京都」の枠組み構築作業の中で論じられているのは、天然林の土地利用転換を食い止めるという保全行為に対して排出権クレジットを認めるという新しい制度の構築である。これは、森林保全による炭酸ガス削減効果を排出権取引の対象とし、市場メカニズムに組み込もうという発想である。森林保全に排出権クレジットが認められれば、各国政府は保全か農地開発のどちらが得かを費用対効果で判断して選択することになる。どちらが選択されるのかは、その時点での当該農産物と排出権の相対価格如何ということになる。
(中略)
森林保全に排出権クレジットを認めるという制度は、森林の価値を経済価値に従属させて損得勘定を各国に迫ることである。基本的には市場メカニズムに依拠して問題の解決を促そうという試みである。上記の社会主義諸国がそれと違うのは、森林面積の増大を、それ自体として社会的に価値のあるものと意味づけて追求している点であり、森林の価値を経済価値に従属させてはいない点にある。
しかしながら、表面的には良好なパフォーマンスを示している社会主義諸国における森林再生プロジェクトも、その内容を現場で調査していくと大きな問題があることが浮かび上がる。
(中略)
本章では、筆者がこれまで調査対象としてきたアジア諸国の造林事業に焦点を当てて、資本主義国と社会主義国のこれまでの取り組みの何処に問題があるのかを検証し、市場の失敗と官僚の失敗を乗り越えて、社会的共通資本としての森林を再生していくために、どのような政策の改善が必要なのか提起していく。
***関良基「アジアの森から考える温暖化対策」、宇沢・細田編、前掲書、81頁***
宇沢先生の編集した最新本です。私は第2章の「アジアの森から考える温暖化対策」を執筆しております。この本は温暖化対策推進論者の方々にも、地球温暖化懐疑論者の方々にもぜひ読んでいただきたく存じます。
懐疑論者の方々にもぜひ読んで欲しいというのは、本書は地球温暖化対策がまったなしの状況にあるという強い危機感に立脚していますが、排出権取引制度には反対の立場だからです。その意味で、半分は懐疑論者の方々にも納得していただける話題なのではないかと思います。
懐疑論者の方々は、「排出権取引制度とは、新しい金融商品をつくって投機活動を繰り広げようというEUの金融業界の新戦略なのではないか。→ 彼らが温暖化危機をあおるのは排出権取引で儲けようという私的欲望に基づいているのではないか。→ 故に彼らがあおる温暖化危機そのものが虚構なのではないか」というロジックで、温暖化現象そのものまで否定してしまっています。しかし最初の二点に関しては半分は当たっていると私も思いますが、最後の三点目はとんでもない論理の飛躍です。
編者の宇沢先生は、京都議定書が採択された当時から排出権取引制度に反対の論陣を貼っていました。宇沢先生の基本構想は京都議定書以前から、国際的な基準で炭素税を徴収し、その税収を大気安定化国際基金がプールし、各国が実施する植林活動への補助金として拠出するというものです。その際、先進国と途上国の公平性が保たれるよう、一人当たりGDPに比例させて炭素税には格差をつけます。先進国と途上国のあいだの公正が保たれる比例的炭素税の考えです。これが社会的にもっとも公正な温暖化対策といえるでしょう。
宇沢先生は、比例的炭素税と国際基金からの育林補助金制度の導入で、地球大気の安定化と国際的な森林面積の長期的な均衡を達成するという動学モデルを構築しています。この動学モデルについての詳細は、Uzawa, H(2003), Economic Theory and Global Warimig, Cambridge University Press. にある内容です。本書においても、そのエッセンスがわかりやすく解説されています。
その上で、宇沢先生は排出権取引制度の激しい批判を展開します。例えば以下のようです。
***<引用開始>***
京都会議で提起された温暖化対策のうち、もっとも喧伝され、また現実に実施されているのは排出権取引市場である。しかし、この制度ほど京都会議の基本的な考え方の反社会性、非倫理性を表すものはないといってよい。
二酸化炭素は、植物の生育に不可欠な役割を果たし、すべての生命の営みの過程で大気中に放出され、また人間のすべての営みに重要なかかわりをもつ。たまたま、自らへの割当が必要とする量より多かったとき、それを排出権と称して、市場で売って儲けようとすること自体、倫理的な面からも、また社会正義の観点からも疑義なしとはしない。
***宇沢弘文「比例的炭素税と大気安定化国際基金」宇沢・細田編、前掲書、295頁***
このように、懐疑論者の方々にとっても共感できる要素が多いかと思います。その上で懐疑論者の方々におかれましては、全てにシニカルになるのではなく、正しい温暖化対策のあり方を考えていって欲しいと願います。
さて、本書の構成は下記のようになっています。
***********
プロローグ(宇沢弘文)
序 章 地球温暖化と異常気象の発生(細田裕子)
第I部 地球温暖化と森林の再生
第1章 森林にしのびよる地球温暖化の影響(守田敏也)
第2章 アジアの森から考える温暖化対策(関良基)
第3章 地球温暖化とベトナムの森林政策(緒方俊雄)
第II部 地球温暖化の経済理論
第4章 地球温暖化と持続可能な経済発展(宇沢弘文)
第5章 持続可能な発展と環境クズネッツ曲線(内山勝久)
第6章 地球環境と持続可能性―強い持続可能性と弱い持続可能性(大沼あゆみ)
第III部 温暖化対策の効力と展望
第7章 気候変動は抑制可能か――道筋と選択(赤木昭夫)
第8章 排出権取引制度の射程――2010年代に向けての機能と限界(岡敏弘)
第9章 環境保全型社会の構築と環境税(日引聡)
第10章 地球温暖化問題と技術革新――政府と市場の役割(有村俊秀)
第11章 比例的炭素税と大気安定化国際基金――京都会議を超えて(宇沢弘文)
エピローグ(宇沢弘文・細田裕子)
*************
私の書いた第2章でも、森林保全を排出権取引の対象とするという、万事市場任せの制度を批判しています。その上で、国が財政資金を投入して計画的に森林を再生するという社会主義的活動を一定評価しつつ、なおかつその官僚主義的側面を批判して、オルタナティブを目指すという論理構成になっています。以下、私の書いた部分を少し紹介させていただきます。
***<引用開始>****
目下、「ポスト京都」の枠組み構築作業の中で論じられているのは、天然林の土地利用転換を食い止めるという保全行為に対して排出権クレジットを認めるという新しい制度の構築である。これは、森林保全による炭酸ガス削減効果を排出権取引の対象とし、市場メカニズムに組み込もうという発想である。森林保全に排出権クレジットが認められれば、各国政府は保全か農地開発のどちらが得かを費用対効果で判断して選択することになる。どちらが選択されるのかは、その時点での当該農産物と排出権の相対価格如何ということになる。
(中略)
森林保全に排出権クレジットを認めるという制度は、森林の価値を経済価値に従属させて損得勘定を各国に迫ることである。基本的には市場メカニズムに依拠して問題の解決を促そうという試みである。上記の社会主義諸国がそれと違うのは、森林面積の増大を、それ自体として社会的に価値のあるものと意味づけて追求している点であり、森林の価値を経済価値に従属させてはいない点にある。
しかしながら、表面的には良好なパフォーマンスを示している社会主義諸国における森林再生プロジェクトも、その内容を現場で調査していくと大きな問題があることが浮かび上がる。
(中略)
本章では、筆者がこれまで調査対象としてきたアジア諸国の造林事業に焦点を当てて、資本主義国と社会主義国のこれまでの取り組みの何処に問題があるのかを検証し、市場の失敗と官僚の失敗を乗り越えて、社会的共通資本としての森林を再生していくために、どのような政策の改善が必要なのか提起していく。
***関良基「アジアの森から考える温暖化対策」、宇沢・細田編、前掲書、81頁***
十分すぎるほど議論されているように見えます。懐疑論者の方々は、俗受けする本はたくさん書いておりますが、ちゃんとした学術論文を書ける能力のある方は少ないように思えます。
>また排出権のみを問題としているのではなくこれに関連する様々な利権を問題視していると思います。
だから、この点は問題であるという認識は共有しますと申しているのです。本文をちゃんと読んでください。
>人口爆発、砂漠化、貧困、戦争、すぐにでも実施しなければならない様々な問題を差し置いて
正しいやり方で温暖化問題を解決しようと欲すれば、戦争も貧困も砂漠化の問題も総合的に解決するような方策が採用されるはずなのです。
すべての問題は関連しているのですから、総合的な解決は可能なのです。私はこのブログでもエコロジカル・ニューディール政策を提示しつつ、さんざん書いてきました。
どうして、どれかの問題に注力すれば、他の問題はおろそかになるというトレードオフ関係が成立すると考えられるのか、それが不思議です。
オバマ政権は、温暖化対策をする→自然エネルギーを振興する→不安定な中東からの石油輸入量をゼロにする→中東に軍事介入しない→不毛な戦争を回避する
と、すべてセットにして考えているのです。また、自然エネルギーを振興する中で、失業も貧困も解決できるのです。すべて総合的に解決可能です。
私はこのブログを始めてから口を酸っぱくしてそう言い続け、ようやくアメリカでもグリーン・ニューディールと言われ始めて、国際的にもコンセンサスが得られてきました。しかし未だに日本の温暖化懐疑論者の方々は、この理屈を分かって下さらないようです。
関さんって本を書くほどすごいひとなんですか!?初めてしりましたよ。
「保護主義というタブー」
ジャック・サピール(Jacques Sapir)
http://www.diplo.jp/articles09/0903-4.html
制度構築上の具体性もある重要な提言だと思います。
中学生では分からないのは当然です。大学生くらいになれば、分かるでしょう。ここで紹介した本も、大学3年生以上くらいの知識がなければ読むのは難しい内容です。がんばって勉強してください。
マスコミは、「保護主義が景気の悪化をさらに加速させる」みたいに言いますが、実際は逆です。
自由貿易にしがみつけばしがみつくほど、さらに賃金の下落を加速させ消費を冷え込ませますので、逆に景気の冷え込みを悪化させてしまいます。自由貿易を維持しようとすればするほど、逆に貿易額もさらに減るでしょう。ある程度の、国際協調的な管理貿易をした方が、景気の回復を早めるのです。
まあ、日本のマスコミがアホな主張を繰り返しても、結局、負けるのは彼らです。
日本のマスコミが、財政出動反対・バラマキ反対のキャンペーンをいくら貼っても、結局、私たちが訴え続けたエコロジカル・ニューディールの主張の方が、国際的に勝ったように・・・。貿易の問題も、時間の問題です。いずれは私たちの勝ちで、日本のマスコミの負けでしょう。
日本のマスコミは、早いうちに頭を冷やして冷静に考えるべきです。
これが最悪の悪夢のシナリオですね。1930年代は、結局のところ軍事需要の拡大による景気刺激策に走ってしまって、戦争に至りました。だからこそ軍事費の削減とグリーン・ニューディール予算の拡大を訴えることが、何にもまして重要なのだと思います。
本当に、軍備拡大派にとっては、金正日サマサマですね。困ったことです。
ってなわけで、経済学、日本史、世界史、倫理、将来どれをとろうか迷っているところですけど・・・。
はい、私も日本と親のために勉強し、経済学、歴史学、心理学、に精通できるよう努力しようと思っているところです・・・まだやろうとはあまり思っていませんけど。
アメリカって軍需産業が盛んだったのですか!初めてしりましたよ。関さんの言うとおり、軍需拡大から戦争はまずいですよね。自分も簡便してほしいです。
ちなみに日本は今新型戦車TK-Xを作っているって知っていますよね?名目は自国防衛のためです。まだマシですよね。ステルス戦闘機なんか作られたらもう・・・激しい戦争は目に見えていますよね。中国が開発中だとか・・・中国人め!
私は生態移民とは、退耕還林や退牧還草に伴って生じた移民を指すもの、と思っていました。が、本の中では何人かの方が生態移民政策という言葉を使っていますよね?
退耕還林条約の中で生態移民について触れられているということは、生態移民は中国政府の政策として捉えていいのでしょうか?