8月9日の記事のコメント欄でChic Stoneさんから以下のようなコメントをもらいました。<引用開始>「本質的に、民主主義+資本主義で「木を植える」ことはできないのではないでしょうか。木が育つまでには時間がかかりすぎますから、民主主義では投票者は自分は損するだけで受益者は孫です。資本主義においても植林に投資するよりどこぞの国債に投資するほうが得です。もちろん原始林を皆伐するほうが得です」。<引用終わり>
このChic Stoneさんからのコメントに対する私の回答に加筆して新しいエントリーとさせていただきます。
純粋なレセフェール資本主義の下では持続可能な林業など不可能という点は、その通りです。ですので、林業部門に関しては、どの国も非資本主義的な「規制」「計画」「保護」の法的枠組みを設けています。
営利主義では人工林の育成林業はよほどの適地でなければ成立しません。世界に成立している人工林のだいたい4分の3は政府の補助金など、公的部門の後押しによって成立したものだと推計されています。
資本主義では、原生林の伐採による採取林業は非常に利潤の高い産業として資本家たちを引き付けますが、植えて育てて収穫するという育成林業は逆に利潤が出ない産業とされ、なかなか成立しません(ユーカリなど特殊な木材は別です)。一般的には、政府の後押しなくして育成林業は成立しないのです。
ところが昨今の貿易自由化の流れの中で、「国産人工材よりも海外の原生林(しかも多くは違法材)」に流れてしまっています。日本の国産人工材など放置する一方で、日本の消費者はロシアやインドネシアの違法材の疑いのある木材を熱心に消費しているわけです。
グローバル化の時代にあって、「グローバルなレセフェール」は世界の原生林を滅ぼします。国家の枠を超えた「グローバルなガバナンス」なくして、持続可能な資源管理は不可能でしょう。
さて、この記事に掲載した図は、FAOの『Global Forest Resources Assessment 2005』に載っているものです。
年率0.5%以上の速度で森林面積が増えている地域が緑色表示、逆に年率0.5%以上の速度で森林が減っている地域が赤色表示になっています。アマゾン、アフリカ西海岸、インドネシアが真っ赤に染まっており、その森林減少の様子が痛々しいです。
1995年時点でのIPCCの報告書では、熱帯林が消失することにより年間16億トンのCO2が排出され、それは地球大気中の年間CO2純増加量(33億トン)の約半分にのぼるとされていました。熱帯林を維持できれば、CO2の年間増加量は半分に減るのです。それが可能になれば、人類の存続のためにどれだけ貢献することでしょうか。でも、グローバルなレセフェール資本主義はそれを許さないわけです・・・・。
さて地図を見て、現在、年率0.5%以上の速度で森林面積を回復させている緑色の地域を探してみてください。スペイン、イタリア、ポルトガル、フランスなどのEU諸国の中に緑色が存在します。他に、途上国でも3つほど緑色に染まる国々があります(もともと森林率の低かった乾燥帯の国々をのぞく)。
まず大きな緑のかたまりとして中国が目につきますね。中国がいかにすさまじい勢いで植林しているのかに関しては、このブログでたびたび書いてきたとおりです。最近5ヵ年は、中国一国で年間平均400万ヘクタールという驚異的な速度で森林面積が増加しており、それは中国以外のすべての国々の年間森林増加面積の合計を軽く上回る面積なのです。
他に途上国で森林面積の増加が著しい緑の国は、ちょっと絵の解像度が低くて見にくいのですが、中国の右下のベトナムと、それから見えにくいかも知れませんがカリブ海にもう一つあります。キューバです。
おわかりですね。森林面積を増大させている3カ国はいずれも社会主義国です。「グローバル市場原理主義万歳」を叫び続けてきた日本のマスコミ(のとくに経済部)の方々はこの事実を知っておいた方がよいと思います。レセフェール資本主義を採用している途上国の多くは森林を救えていませんが、政府が懸命に後押ししている中国、ベトナム、キューバの3カ国は国連の統計で見ても、森林をこのように回復させているのです。
もちろん、これらの国々の社会主義的トップダウンの植林政策には多くの問題があります。とくに中国とベトナムは農民に犠牲を強いながら植林を進めている側面が多分にあります。
キューバに関しては、私は事情をよく知りません。多分、中国やベトナムよりは上手に、ソフトにやっていることでしょう。
それでも、森林経営が市場原理に任せてないという、まさにその理由によってこれだけ森林面積を増加させることが可能になっているという事実は知っておくべきでしょう。
私は中国において、農民にかかる精神的・肉体的な負担を回避しながら植林を進めるための植林政策の改善策を研究しています。中国政府には「ここが悪い。こう改善すべき」と堂々と言います。別に弾圧されません。
ベトナムも、米軍の空爆と枯葉剤で200万ヘクタール以上の熱帯林が消失しました。米国は何の謝罪も補償も何もしませんが、ベトナム政府は多大な財政負担を自力で捻出し、ベトナム戦争以前の森林面積に戻そうと懸命の努力をしています。ただ、やはりベトナムの場合も、農民への負担が大きい植林プロジェクトになっています。
キューバは従米ポチのバティスタ独裁政権下で森林率は国土の10%程度にまで減っていたそうです。カストロやゲバラらによる脱米キューバ革命以降、政府は営々と植林を続け、現在では森林率は24.7%にまで回復させているのです。熱帯諸国の中で、国レベルでこのような「奇跡」を成し遂げたのは、現在までのところキューバのみといってよいでしょう。キューバは環境先進国なのです。
<補記>
ちなみに2000年から2005年の5年間で、森林面積の年間平均増加量が大きかった国々のトップ10は以下の通りです。(FAOの前傾書、21頁)
途上国でトップ10に入っているのは中国、ベトナム、チリ、キューバの4カ国です。中国は2位のスペインの13倍という、2位以下を大きく引き離す驚異的な速度で森林を増やしています。
また日本より小さな面積のベトナムが、広大な面積の米国を上回る第3位につけているというのも驚きでしょう。キューバは日本の3分の1以下の国土面積しかないのに世界第7位にランクされています。
――――――――――――――――――――――
国名 年平均森林増加量(1000ha/年)
――――――――――――――――――――――
中国 4058
スペイン 296
ベトナム 241
米国 159
イタリア 106
チリ 57
キューバ 56
ブルガリア 50
フランス 41
ポルトガル 40
上位10カ国計 5104
――――――――――――――――――――――
このChic Stoneさんからのコメントに対する私の回答に加筆して新しいエントリーとさせていただきます。
純粋なレセフェール資本主義の下では持続可能な林業など不可能という点は、その通りです。ですので、林業部門に関しては、どの国も非資本主義的な「規制」「計画」「保護」の法的枠組みを設けています。
営利主義では人工林の育成林業はよほどの適地でなければ成立しません。世界に成立している人工林のだいたい4分の3は政府の補助金など、公的部門の後押しによって成立したものだと推計されています。
資本主義では、原生林の伐採による採取林業は非常に利潤の高い産業として資本家たちを引き付けますが、植えて育てて収穫するという育成林業は逆に利潤が出ない産業とされ、なかなか成立しません(ユーカリなど特殊な木材は別です)。一般的には、政府の後押しなくして育成林業は成立しないのです。
ところが昨今の貿易自由化の流れの中で、「国産人工材よりも海外の原生林(しかも多くは違法材)」に流れてしまっています。日本の国産人工材など放置する一方で、日本の消費者はロシアやインドネシアの違法材の疑いのある木材を熱心に消費しているわけです。
グローバル化の時代にあって、「グローバルなレセフェール」は世界の原生林を滅ぼします。国家の枠を超えた「グローバルなガバナンス」なくして、持続可能な資源管理は不可能でしょう。
さて、この記事に掲載した図は、FAOの『Global Forest Resources Assessment 2005』に載っているものです。
年率0.5%以上の速度で森林面積が増えている地域が緑色表示、逆に年率0.5%以上の速度で森林が減っている地域が赤色表示になっています。アマゾン、アフリカ西海岸、インドネシアが真っ赤に染まっており、その森林減少の様子が痛々しいです。
1995年時点でのIPCCの報告書では、熱帯林が消失することにより年間16億トンのCO2が排出され、それは地球大気中の年間CO2純増加量(33億トン)の約半分にのぼるとされていました。熱帯林を維持できれば、CO2の年間増加量は半分に減るのです。それが可能になれば、人類の存続のためにどれだけ貢献することでしょうか。でも、グローバルなレセフェール資本主義はそれを許さないわけです・・・・。
さて地図を見て、現在、年率0.5%以上の速度で森林面積を回復させている緑色の地域を探してみてください。スペイン、イタリア、ポルトガル、フランスなどのEU諸国の中に緑色が存在します。他に、途上国でも3つほど緑色に染まる国々があります(もともと森林率の低かった乾燥帯の国々をのぞく)。
まず大きな緑のかたまりとして中国が目につきますね。中国がいかにすさまじい勢いで植林しているのかに関しては、このブログでたびたび書いてきたとおりです。最近5ヵ年は、中国一国で年間平均400万ヘクタールという驚異的な速度で森林面積が増加しており、それは中国以外のすべての国々の年間森林増加面積の合計を軽く上回る面積なのです。
他に途上国で森林面積の増加が著しい緑の国は、ちょっと絵の解像度が低くて見にくいのですが、中国の右下のベトナムと、それから見えにくいかも知れませんがカリブ海にもう一つあります。キューバです。
おわかりですね。森林面積を増大させている3カ国はいずれも社会主義国です。「グローバル市場原理主義万歳」を叫び続けてきた日本のマスコミ(のとくに経済部)の方々はこの事実を知っておいた方がよいと思います。レセフェール資本主義を採用している途上国の多くは森林を救えていませんが、政府が懸命に後押ししている中国、ベトナム、キューバの3カ国は国連の統計で見ても、森林をこのように回復させているのです。
もちろん、これらの国々の社会主義的トップダウンの植林政策には多くの問題があります。とくに中国とベトナムは農民に犠牲を強いながら植林を進めている側面が多分にあります。
キューバに関しては、私は事情をよく知りません。多分、中国やベトナムよりは上手に、ソフトにやっていることでしょう。
それでも、森林経営が市場原理に任せてないという、まさにその理由によってこれだけ森林面積を増加させることが可能になっているという事実は知っておくべきでしょう。
私は中国において、農民にかかる精神的・肉体的な負担を回避しながら植林を進めるための植林政策の改善策を研究しています。中国政府には「ここが悪い。こう改善すべき」と堂々と言います。別に弾圧されません。
ベトナムも、米軍の空爆と枯葉剤で200万ヘクタール以上の熱帯林が消失しました。米国は何の謝罪も補償も何もしませんが、ベトナム政府は多大な財政負担を自力で捻出し、ベトナム戦争以前の森林面積に戻そうと懸命の努力をしています。ただ、やはりベトナムの場合も、農民への負担が大きい植林プロジェクトになっています。
キューバは従米ポチのバティスタ独裁政権下で森林率は国土の10%程度にまで減っていたそうです。カストロやゲバラらによる脱米キューバ革命以降、政府は営々と植林を続け、現在では森林率は24.7%にまで回復させているのです。熱帯諸国の中で、国レベルでこのような「奇跡」を成し遂げたのは、現在までのところキューバのみといってよいでしょう。キューバは環境先進国なのです。
<補記>
ちなみに2000年から2005年の5年間で、森林面積の年間平均増加量が大きかった国々のトップ10は以下の通りです。(FAOの前傾書、21頁)
途上国でトップ10に入っているのは中国、ベトナム、チリ、キューバの4カ国です。中国は2位のスペインの13倍という、2位以下を大きく引き離す驚異的な速度で森林を増やしています。
また日本より小さな面積のベトナムが、広大な面積の米国を上回る第3位につけているというのも驚きでしょう。キューバは日本の3分の1以下の国土面積しかないのに世界第7位にランクされています。
――――――――――――――――――――――
国名 年平均森林増加量(1000ha/年)
――――――――――――――――――――――
中国 4058
スペイン 296
ベトナム 241
米国 159
イタリア 106
チリ 57
キューバ 56
ブルガリア 50
フランス 41
ポルトガル 40
上位10カ国計 5104
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その三国がむしろ強引に森林を育てている、
というのは新鮮な視点です。
漁業を考えても「グローバルなガバナンス」
は僕も必要だと思います。
ただ、そこで少し感じた疑問点…
○森林を社会主義的に保護しようとしたら、
腐敗によって破壊されるのではないか。
○(現在そんな国が存在しないだけかも
しれないが)強い保守伝統主義は父祖から
受け継いだ豊かな自然を次代にそのまま保守する、
だから森林を守り育てる、という姿勢に
ならないのか。
「文明崩壊(ジャレド・ダイアモンド、草思社)」
では徳川幕府も森林保護政策をとっていて、
それと気候のおかげもあって長期間の安定が
あったのだ、とありましたが…
>腐敗によって破壊されるのではないか。
社会主義は必ずしも森林保全にとって良いとは限りません。毛沢東時代の中国社会主義体制の森林破壊はすさまじいものでした。ただ社会主義の動員型プロジェクトが「開発」から「保全」へと方針転換されると、状況は改善されるということです。
また北朝鮮の森林は絶望的で、今夏も洪水災害出大量の死者が出ているようですが、ちゃんと植林して10年も経てば状況はドラスティックに改善されるでしょう。私の以前の黄河流域の記事で、植林からわずか4年で洪水災害が激減したと紹介しました。
植林の効果は孫の代でというほど長期的なものではなく、露出した地肌が一通り緑に覆われるだけで相当に状況は改善されます。
>強い保守伝統主義は父祖から
>受け継いだ豊かな自然を次代にそのまま保守する、
>だから森林を守り育てる、という姿勢に
>ならないのか。
徳川時代の日本の森林管理の主体は、幕府や藩の機能も一部にはありましたが、より広範な面積に関しては村落共同体の機能だと思います。
徳川時代の日本人がかなり森林を管理できたのは事実ですが、父祖から保守したというよりも、秀吉(=初代の田中角栄?)の時代から徳川時代の初期の「大建設ブーム(日本の主要都市のほとんどがこの時代に生まれた)」の中で、森林資源は非常に劣化しました。そこで父祖の破壊を反省し、復旧させようというする中で育成林業の伝統が誕生したと考えるべきでしょう。
中国も毛沢東の「大破壊時代」の反省を経て、いま復旧しているので、日本と似たようなプロセスかも知れません。
その三国の植林の金とノウハウを出しているのは日本なのですが?
>本なのですが?
キューバに関しては全く自力です。
ベトナムと中国に関してもほぼ独自予算と独自技術です。ベトナムと中国へは、日本からも円借款と無償協力が入っていますが、両国における植林総予算のごくごく一部にしかならないと思います(全体の何%くらいになるのかはちょっと調べてみないと分かりません)。ほとんどの予算と労力は自力で捻出しています。
ベトナムの植林予算に関しては、本来なら全額米国が出資すべきものだと思うのですが、米国政府からはビタ一文出ていません。
はじめまして。
==========引用始め
「平成15年度 食料・農業・農村の動向に関する年次報告」農水省
第3節 世界の農産物需給と農産物貿易交渉の動向
(1)穀物等の国際需給動向と我が国の国際協力の取組
イ 中国の動向
http://www.hakusyo.maff.go.jp/books_b/WN01H150/html/SB1.3.3.htm
>(土壌流失や砂漠化が進行している)
> 中国では、平原が国土の12%を占めていることや北方における水資源の不足といった自然条件のもとで、家畜生産や耕地面積の拡大によって食料増産を進めてきた。しかしながら、近年過放牧や過耕作といった主に人為的な要因により、土壌流失や砂漠化が進行している。
> 土壌流失のみられる面積は、1997年には1億8,300万haと国土面積の2割を占めており、年間約1,000万haのペースで拡大している ※1 。砂漠の面積は、我が国の国土面積の7倍に相当する2億6,700万haとなっており、年間約100万haのペースで拡大している ※2 。特に中国内陸部において砂漠化が深刻となっていることから、中国政府は農地に植樹を行うことによって、森林をふやす「退耕還林」を実施するなどの取組を積極的に推進している。
==========
砂漠化・黄砂の対策 「任重くして道遠し」
http://www.people.ne.jp/2006/04/21/jp20060421_59173.html
>2005年に終了した「第3回全国砂漠化土地モニタリング」によると、中国に形成されている砂漠の面積は174万平方キロで、5年前と比べると、砂漠化の進む面積は3436平方キロから1283平方キロに減少した。しかも、対策の行われた地域では、経済・社会の発展の面でも促進効果が上がっている。
>しかし中国の砂漠化・黄砂は依然として深刻だ。
==========引用終り
などの記事を目にする機会がありますが、
==========引用始め
中国の砂漠緑化
http://www.ryokukaclub.com/kisotisiki/kisotisiki2.htm
> 中国では毎年東京都とほぼ同じ面積の2,460k㎡が砂漠化しているといわれている。1950年~70年代は、年1,560k㎡の速度で、1970~80年代は年2,100k㎡の速度で砂漠化が拡大した。
==========
森林が増えている国々(中国、ベトナム、キューバ)と減っている国々
http://blog.goo.ne.jp/reforestation/e/f4189f6518d6a08dd094414bb5d3868e
――――――――――――――――――――――
国名 年平均森林増加量(1000ha/年)
――――――――――――――――――――――
中国 4058 =40,580 k㎡/年?
スペイン 296
ベトナム 241
米国 159
イタリア 106
――――――――――――――――――――――
==========引用終り
中国においては緑化推進策が功を奏して、
*緑化面積 : 40,580 k㎡/年
*砂漠化化面積: 2,460 k㎡/年 or 1,000 k㎡/年
「緑化面積>砂漠化面積」と捉えていいのでしょうか?
お教えください。
by びん
>*砂漠化化面積: 2,460 k㎡/年 or 1,000 k㎡/年
>「緑化面積>砂漠化面積」と捉えていいのでしょうか?
中国全体では、「緑化面積>砂漠化面積」となっています。でも、緑化しているのは長江以南の南部地域に多いのです。南部地域は雨量に恵まれ、そもそも砂漠化の心配などない地域です。
ゴビ砂漠の周辺など砂漠化の深刻な局所を見れば、とても「緑化面積>砂漠化面積」とはならないのでしょう。
また急激な緑化政策は、地元のモンゴル人から見れば非常に迷惑なものが多く、さらに効果に疑問なものも多く、課題山積といえるでしょう。
詳しくは、↓この本を読んで下さるとうれしく存じます。(私も著者の一人です。)http://www.amazon.co.jp/gp/product/4812205239/sr=8-1/qid=1161881869/ref=sr_1_1/250-8991711-0365845?ie=UTF8&s=books