以前、取材したときにすぐ書いた「亜鉛閣」という住宅。
たいへん高名な建築家・山下和正さんの「終の住みか」です。
場所は、福島県南部・いわき市の隣村。
首都圏で活躍されてきた建築家としてはめずらしく、高断熱高気密をわきまえ
ツーバイフォー建築が日本に導入されるごく初期から取り組んでいたという建築家です。
建物は、そのように性能をしっかり追求されているもので
それはそれ、なのですが、取材で感激したのは
荒廃した里山の自然を長期の時間を掛けながら、回復させてきた営為です。
この建物が建っている敷地は、離農した農地だったのですね。
約8000坪の土地なのだそうですが、周辺は山に囲まれた盆地なので
自然体系としては、約12万坪の後背の広がりを持った土地なのだそうです。
そこが戦後に開拓農地として開墾されたけれど、
やがてうち捨てられて、自然が荒廃したまま放置された
という、農地だったのです。その意味では全国にたいへん多い、自然破壊の痕跡。
その土地を、長期にわたって、って約15年間だそうですが(!)
なんとか、植生を考え植樹し、植林し、山から出る水を管理する調整池を造成し、
破壊された法面を回復させたり、という自然回復の努力を傾けられてきたんです。
写真左側がそうした営為を配置図的にまとめたものです。
その結果、みごとに自然はその復元力を見せて
この周辺は本来の力強い、自然のサイクルが再生しています。
取材撮影ポイントのすぐ後ろ側には、野生イノシシの痕跡があったりもしておりました。
やがて自分の「終の住みか」にする考えとはいえ、
そこまでの営為を続ける、それを個人として続ける意志の力
そして、そうした営為を支える豊かな建築土木への情熱
こうしたものすべてが必要だっただろうと思うのです。
誰のためでもなく、こうした自然回復のために
自分が蓄積してきた技術や見識・知識を動員して時間を掛けてきたひともいるんですね。
建築の世界も、構造計算書偽造で騒がれています。
なんか絶望的な事件や、モラルの喪失を感じさせることがらが多い昨今。
一服の清涼剤の話題として、提供したいと思った次第。
なお、この亜鉛閣は1月15日発売の東北版リプランに掲載されます。
ぜひ、ごらんいただきたい住宅と、そのプランだと思います。