秋が深まり、昨日も書いた通り、いささかフライング気分の冬季限定モノの発売なんかもあったりするうち、『ゲゲゲの女房』放送終了してはや2週間が経とうとしていますね。
懐かしくなったら、こつこつ録画してはダビングしたシロウトDVDを再生して観るのが直球コースですが、そうやって最終話まで保存し手元においた連続モノの例にもれず、“観るとなると最初から観たいし、いったん観はじめれば「続きは明日」と踏ん切りをつけるタイミングがむずかしいと自分がいちばんよくわかっている“ため、うっかりとっかかれない。
そんなときいちばんお手軽かつ満足度が高いのは、やはりサウンドトラックリスニングでしょう。すでに先月15日、第2集も発売。←←←左柱にも1集と併せて当分載せておこうと思います。
1集と同じ、水木しげるさんが紙芝居絵描きの頃から仕事机に置いて愛用しているという“染め粉”=絵の具ビンのジャケ写。1と2、写真とレイアウトを統一したのはいいですね。店頭でも探しやすいし。
しかも、1集がなんとなく、白い紙が日焼けと年季で黄ばんだっぽい色合いだったのに対し、2集はもともと、ほのかな薄桃色だったのが日焼けした様な古薄紅なんですよね。
…1集発売が6月16日。まだ劇中の布美枝さん(松下奈緒さん)としげるさん(向井理さん)は、乳飲み子の長女藍子ちゃんをかかえて、戌井(梶原善さん)とともに発刊した期待の新作『悪魔くん』は打ち切りになるわ、風邪を引いて寝込んでも鼻紙も買えないわで、いつ果てるとも知れない貧乏神との戦いに明け暮れていました。
でもそれから3ヶ月が経って、2集リリースの9月15日には劇中時間も昭和38年から59年へ。あのときようやく「藍色の海に向かって歩き出した」藍子ちゃんも大学を卒業、お父ちゃんの懸念をよそに志望をつらぬいて小学校の先生に。妖怪イソガシのピーク後一時途絶えていた漫画の注文も、編集者側の世代が一巡するとともに再び上昇、久しぶりに上京した源兵衛さん(大杉漣さん)としげるさんの碁の約束も果たせたし、序盤から見守ってきた者としてはよくぞここまで…の感がありました。
…ジャケ写も、リアル時制3ヶ月、劇中時制20余年の間に、ほんのり紅らんで“オンナになった”感じがするではありませんか。
…………オヤジか月河。
第1集がよほど好評だったのか、解説&クレジットパンフも2集は2倍にヴォリュームアップ。巻末の、作曲・窪田ミナさんのプロフ写真もカラーになっています。
1集では扉見開きにドラマ制作統括谷口Pの推薦文みたいのしかなかったのですが、今作では腹巻猫(劇伴倶楽部)さんによるアルバム解説と、サウンド&ヴィジュアル・ライター前島秀国さんによるテクストに窪田さんのインタヴューをまじえた作曲者解説もつきました。
…うーん。“窪田さんはこんなに才能ある人、素晴らしい仕事される人”ということは皆さん強調してくださるし、読んで、聴いて、異論はまったくないですけど、第1集でも思った通り、いま少しドラマの内容から曲想に至るきっかけとか、企画書やシノプシスのこんなところからこの曲が生まれた…的な、ドラマ制作の一局面としての解説が読みたかった気もします。
まあ、ジャケ解説のみに頼らずとも、窪田さん自身が公式ブログ『Mina Kubota official blog』で、すべての放送回ごとにその日の使用曲、どの場面に充てられたか、それぞれの曲に寄せる作曲者としての思い、オンエアを観てのいち視聴者としての感想なども織り交ぜて、事細かに、それはフレンドリーにつづってくれていますので、参照しながら聴くのも一興です。
月河が楽しみにしていた、二度めのチャンスとともに豊川編集長(眞島秀和さん)再訪で流れた、勇壮ながらどこか漫画チックな曲はM‐07『勝負の瞬間(とき)』、豊川さんのリクエストで初めてひいた電話の前で「最初が肝心ですけん」と布美枝&藍子が正座して待つ場面の、口笛フィーチャーの軽快な曲はM‐02『青空とスキップ』と、しっかり収録されていました。しげるのノリツッコミ(?)「よし、冷し中華!」も懐かしいですね。
全体に、1集で紹介された音の世界が、“深いほう”にひろがって、容積を倍した感じです。全40曲の曲タイトルを事前に試聴サイトなどでチェックした当初は、貧乏苦闘話やしげるの出征中体験をイメージしたグルーミーな曲が1集に比べて多め?なんて想像してしまいましたが、聴いてみると陰気、暗鬱どころか、神秘的でセイクリッドな感覚をおぼえる曲が揃い、窪田さん自家薬籠中の、ケルト音楽テイストがスパイスのように利いています。
何話のどの場面で流れたかを抜きにして、どの曲も“『ゲゲゲ』ワールド”のどこかしら一角を担い、何かしらの匂いや気配をまとって紡ぎ出されてくるメロディーばかりなのですが、お気に入りを選ぶとすると、うーん、M‐08『暗夜の疾走』、M‐12『箒星見上げて』、M‐20『星とバンビ』、M‐34『あたたかな手』かな。
08は、1集で『作戦指令ゲゲゲ』を繰り広げていた妖怪たちの“ブラック篇”のよう。急に性悪になったというわけじゃなく、妖怪世界にも昼と夜があるのね。♪夜は墓場で運動会~だけじゃなく、たまには株主総会とか、刑事裁判とかだってやってるでしょうしね。
20はチャイコフスキー『くるみ割り人形』の“金平糖の踊り”をちょっと思い出させます。チェレスタではなさそうですけれどね。木琴か鉄琴が入ってるのだけはわかる。☆型つながりというか、なんかキラキラしているのね。窪田さんとしては、少女漫画家志望のはるこ(南明奈さん)のテーマとして作ったそうですが、藍子ちゃん喜子ちゃんの登場場面にも使われ、ドラマ終盤にはイタチ浦木(杉浦太陽さん)20周年記念パーティーに現るのシーンにも付けられていて、「浦木もついにカワイイキャラになったらしい」と上記ブログで楽しそうに書いておられましたね。
12は、お伽の国から来た街頭音楽師が奏でるようなストリングスです。西洋メルヘンの世界に紙芝居があったら、この曲が流れていそう。語りはもちろん音松親方(上條恒彦さん)の赤毛モノ版みたいな名調子で。
34は木管の響きがなんとなく、たちのぼる湯気を思わせて、“夕餉のテーマ”といった趣きです。“夕食”ではなく、もちろん“ディナー”でも“晩餐”でもなく、卓袱台でかこむ“夕餉(ゆうげ)”。
…また間隔をおいて、別のタイミングで聴いたら、その都度お気に入りが変わったり増えたりしそう。リアル人間たちの夫婦愛や親子、きょうだい、家族の絆、友情や信頼の絆の彼方に、この世の者ではないけれど見守ってくれる“見えんけど、おる”世界をも眺望した、こよなく広やかなドラマ世界の音楽なので、バラエティに富んでいるというだけではなく本当に何度聴いてもそのたびごとに美味しい、豊潤なサントラになりました。