『相棒season7』1月21日放送“逃亡者”は、前週1月14日の“越境捜査”の延長戦の要素も持っていました。
“越境~”は都県境を越えて県警との協力体制を急遽敷いたら、こんな布陣でのこんな捜査活動が始まりこういう状況ができ、結果産物としてこんなことも…という組み立てのエピでしたが、過去seasonでも時効、死刑確定と執行、年齢上の刑法適用免責(小学生による殺人)、精神鑑定、超法規的司法取引など、犯罪の世界でのさまざまな“ボーダーライン”をモチーフに採り上げてきた『相棒』、今話は、“殺人捜査の国境問題”を底流においた話。
深夜歩道橋上で言い争っていたカップル。男が恋人女性に手をあげようとしたとき、偶然通りかかった女性が止めに入って、男に振り払われ階段から転落してしまいました。女性は最後の力をふりしぼって携帯で110番通報しますが、犯人の男が恋人の制止も聞かずそのスイッチを切り逃走、女性は絶命。
スイッチ部分に残っていた指紋と、救急センターに録音されたスペイン語の会話を右京さん(水谷豊さん)が指摘、犯人は南米ルベルタ共和国からの日系出稼ぎ労働者マルコとわかり、同夜現場で言い争っていた相手である恋人の日系ルベルタ人エリ(『ゴーオンジャー』では早輝の悪魔ナ姉チャン英玲奈さん)を聴取したものの、マルコは間一髪、ルベルタへ逃げ帰って行方不明に。日ルベ間には犯罪者引渡し条約が未締結(日本が同条約をかわしているのはアメリカと韓国の2ヶ国のみ。豆知識by右京)なため、ルベ人が日本で犯した犯罪について、ルベに引渡しを要求することはできないのです。
被害者の母親はショックで寝込み、恋人・志茂川(山下徹大さん)は「逮捕さえしてくれたら、僕がこの手で殺してやるのに」と息巻き、継続捜査から外された所轄の左刑事(丸山智己さん)は「これでいいわけがない、絶対捜査に加えてもらう」と本庁に直談判。右京さんも小野田官房長との回転寿司会談で、身柄引渡しが叶わないまでもせめて外務省ルートで現地警察にネジ巻くことはできないかと持ちかけますが、小野田は「あちらが少しばかり仕事を早めても、ヘタすれば社会奉仕程度で済んじゃう。被害者家族がそれで救われるかしら」とネガティヴ。
そんな矢先、志茂川が勤めを休み、マルコのルベの実家の写真が掲載された週刊誌のスクープ記事を頼りにルベに渡航したとわかり、3日後にはマルコは現地で転落死体で発見。志茂川の復讐犯行か?と一同に緊張が走った矢先、今度は志茂川が間一髪、日本への帰国便に乗ってしまったこともわかりました。
「あちらの警察に志茂川の身柄の保護と引渡しを頼むのに頭下げなきゃならないかと思ったけど、これでやっとイーヴンになりました、ホッとしたらなんだかお腹が空いちゃって」と朝からカレーをパクつく小野田に、「ある意味最悪の事態です」と、常日頃から(キャラで)硬い表情をますますこわばらせる右京さん。
今度はルベルタ警察から、容疑者志茂川を引き渡せと言われてもつっぱねることができる。官僚の小野田は、日本が一方的に下手(したで)に出ざるを得ない状況が回避されたと喜んでいますが、正義ピューリタンな右京さんには、“条約のない国の人間が他国で犯罪を犯し母国に逃亡すると、被害者側の国は(当該母国の警察に事情を話して頼み込む以外)、捜査も取調べもできない”という不合理の“2乗”に見えたのです。
成田で待ち受けていた捜一トリオに「自分が殺しました、外国人は母国に逃げ帰れば訴追されずにすむ現実、ここまですれば国も本気になってくれるはず」と供述した志茂川ですが、彼の所持品にあった現地日本語新聞の記事から、右京さんは別の可能性を見つけ、やがて現地警察から日本語に翻訳されて(捜一三浦さん大喜び)届いたマルコの検死報告中の一枚の写真が新たな展開を…。
…理不尽に恋人の命を奪った犯人をどうにか日本に連れ戻し償わせたい志茂川、その志茂川を「落ち着き払いすぎてる」と一度は怪しんだ申し訳なさも手伝って、所轄の壁を破ってでもとやはりマルコ逮捕にこだわる不器用正義漢・左刑事、そして現場でマルコに自首をすすめたのに、転落した女性を案じて救急通報している間に逃げられ、「日本で犯罪したら逃げ帰る、ルベルタ人が皆そんな人間だと思われたくない、私はずっと日本で暮らしたいから」と、やはり連れ戻そうと後を追って渡航したエリ。チンピラマルコの軽率な(でも、素直に即刻出頭すればまだしも軽い刑で済んだかもしれない)犯行と利己的な逃亡のために、善意の人々がそれぞれ切実な思いを抱いて、短時日に相次いでルベルタに渡り、目的は全員マルコだったのに、一度も三人が現地でハチ合わせせず、意思のすり合わせが行われなかったためこういう結末になったというのが、何とも相棒ワールドなアイロニー。
志茂川は「いくらなんでもやりすぎ」という世間のバッシングにさらされ、左刑事はせっかく決まっていた本庁捜一への転出がお流れになった上減給と謹慎、エリは国外退去の憂き目に。善意の人たちの、してはならないことだけれど、でもやむにやまれぬ行動が、結果全員に小さからぬ報いをもたらすことになりました。
見て見ない振りして、あるいは避けて通ってもよかった行きずりのカップルの喧嘩を、「女の子が危ない目に遭ってる」とでも思ったのか、あえて割って入ろうとして悲劇に見舞われた被害女性の無償の親切心と、着のみ着のまま週刊誌の写真だけを頼りにルベルタに渡った志茂川に、安価で安全なホテルを紹介し道案内を買って出てくれたという無名の日系ルベルタ人。“母国に逃げればお咎めなし”という法の不合理、非情さと、それぞれの国の一般人の純粋な善意とが静かに対照されているのも面白い。ルベルタ人が皆マルコのような卑怯者ではなく、見ず知らずの日本人にも優しく接してくれる人もいるとわかって、志茂川も少しは心慰められたかもしれない。ルベルタで日本語学校にかよってから来日10年、日本の草木染のミサンガを売るほど日本を愛していたエリも陰ながら喜ぶでしょう。
予告で山下徹大さんの顔を拝見、非高齢・高齢家族取り混ぜて「お父さん(=加山雄三さん)に似てきたね」「出てきた頃はヒョロヒョロだったのに、少し肉がついてきたね」「でもちょっとチビかな」なんててんでに言っていたのですが、まさにその“背が高くない”ことが事件解明の手がかりになっていましたね。今seasonは“希望の終盤”で蟹江敬三さんジュニア蟹江一平さん、先週の“超能力少年”で佐藤B作さんジュニア佐藤銀平さんと、有名どころの二世起用が続いていますが、とりあえず少なくとも高齢組にとっては「えっ○○の息子が?どれどれ」とTV画面に前のめりになる、ひとつの手頃なきっかけにはなっています。
前の記事で“親のコネでギャラもらって社会の害悪云々”と書きましたが、『相棒』でのジュニア諸君に関しては、一応演技が水準以上で、まだまだ製作陣が魂まで売り渡してはいないようです。
ところでTV誌などの内容紹介で、“左”刑事という役名から、“右”京さんの新相棒?と思った向きもあるのではないでしょうか。月河も一時そう思いました。丸山智己さんは05年の昼ドラ『デザイナー』のロン毛執事で長身と独特のマスクは知っていたし、水谷さんの右京さんとはいい感じの身長差。鉄仮面系の端正で一見とっつきにくい容貌ですが、結構演技の奥行きはある人。
結局今話でのレギュラー定着はなかったようですが、鑑識ルームで捜一ヤング芹沢(山中崇史さん)と米沢さん(六角精児さん)とともに謎の警部と初対面、ドコ部署の誰ともわからないうちにあれよあれよと華麗なる推理に巻き込まれてリアクションが変わっていくシークエンスは、なんかちょっとコイツかわいいかもと思ってしまいました。寺脇康文さんの亀山ほど好感度ストライクゾーン広くはないタイプだけど、偉大なる熱血バカ亀去りし後、“バカ不足”な捜一伊丹(川原和久さん)にも気に入られたようだし、経理マンで見当たり捜査オタクで終生女難の陣川警部補(原田龍二さん)のように、インターバルおいて特命とコラボっては徐々にキャラ出して行ってくれると、結構シリーズを盛り上げてくれるかもしれませんよ。
前週“越境捜査”での右京さん「ボクは電車で帰りますから」、同じく“超能力少年”での「お化けと超能力は信じています(←亀山、幽霊目撃報告から白骨死体発見の実績あり)」や今週の伊丹「嫌いじゃないぞ、オマエみたいなバカ」など、固有名詞を出すことなく亀山不在を思い出させ、各人の中のそれぞれの回顧と愛惜を暗示する台詞、ここらは脚本家さんたちの意識とセンスにかかっていて、匙加減が難しいですがなかなかうまいですね。
もう一つ思ったことは、亀山くんが愛妻美和子さん(鈴木砂羽さん)をも連れて行ってしまった現在、何らかの設定で“特命と近しいマスコミ人”のセミレギュラーは早めに参入させたほうがいいですね。美和子さん同様新聞記者でもいいし、TVキャスターやディレクターでもいい。今話のように、週刊誌スクープ記事が重要な転換点になるようなとき、“マスコミ代表”がひとり物語世界にいれば、その人物が直接関与したものでなくても、「それは○○社の××という記者がそういうことに詳しいから」などと一言差し挟むだけで、劇中の記事が立体化し“顔”を持てる。但し一度出れば頻々と出番が予想されるだけに人選、キャラが重要。今後のこのシリーズの課題でしょうね。
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