7月スタートのドラマで『探偵が早すぎる』とは反対に、見掛け倒しというか竜頭蛇尾というか、“出オチ”みたいに終わったのが『ハゲタカ』(テレビ朝日系木曜PM9:00~)。
『ハゲタカ』ですよ、あの。信じられない。これ、事前に全然知らなくて、7月19日にたまたま新聞のラ・テ面の“今日のTV”コラムで“『ハゲタカ』(新番組)”とあるのを見かけ、まさか“あの”ハゲタカじゃないよね?同じタイトルで漫画原作とかあるの?と思ってコラムの活字を追ったら“鷲津政彦(綾野剛)”とあって、ドヒャー!あの鷲津ふたたび!しかも綾野剛さんって!キャストも局も違う!よく原作者オーケーしたな、チャレンジャーだなと思い、ついつい見てしまいました。怖いもの見たさってやつでしょうか。
どうでしょう、2007年のあのNHK版を見た人の何割くらいが今回のヴァージョンを見たんでしょうね。まぁ一個人の感想ですが(テレビ通販みたいだな)、すがすがしいまでに期待はずれでした。・・いや、期待はずれは失礼だな。すがすがしいまでに別物でした。はなから12年も前のNHK版のメモワールで頭の中いっぱいにして、比較する気満々で視聴始めたこちらのほうが料簡(りょうけん)違いでした。
綾野剛さんが、もともと『仮面ライダー555』の敵オルフェノク出身、つまりは“敵性を宿らされたヒーロー”の人だったことを、最初に思い出しておかなけりゃいけなかった。
ヒーロー、そう、このドラマはNHK版の12年後のリニューアルではなく、ましてや後日談でもなく、ニチアサスーパーヒーロータイムのテレビ朝日の平日夜9:00台、『ドクターX』や『BG』や『緊急取調室』、はたまた『9係』『臨場』『相棒』といった、限りなくヒーローキャラクターものに近い社会派風お仕事ドラマとして受け止め視聴すべきでした。
そう思えば綾野鷲津のデスクバーン!も「あなたはまだ生きている。」も、一種の“決めワザ”として自然に受け入れられるし「きた例のヤツ!」「ホラ出た!」と指さしてウケられるというもの。
その視点で見ると脇キャラも敵キャラも(“役”ではなく“キャラ”と呼びたい)恐ろしく過不足がない。この世界観、設定でこの配置ならこういうキャラだろうな、という見通し通りに全員嵌まっている。これは、どちらがいい悪いとか、優れている劣っているとかいう問題でなく、『探偵が早すぎる』とは対照的に、“怪演”と評したい人が見事にひとりもいませんでした。この俳優さんをこのポジションに持ってきたらこんな感じの芝居をするだろうという世界を、一歩も踏み越えなかった。高嶋政伸さんでさえ、『真田丸』みたいにベニスに死すばりの白塗りしてないぶん今回はまったく奇矯度が低いほうだったし、小林薫さんなど、むしろ『ナニワ金融道』と混じらないよう、ブレーキ踏み踏み演じているふしもあった。
考えようによっては、せっかくの豪華キャストを“小さく”しか使えなかったわけで勿体ないという捉え方もされましょうが、逆に言えば“はみ出しのない見積り”だったということで、キャスティングとしては成功だったと言えるのではないでしょうか。当たりではないが成功。またまた一個人の感想ですが、たとえば沢尻エリカさんの、お顔の小ささのわりには思いがけずヴォリューミーなフトモモなど、「これがあったか♪」と思わせるお得感シーンも、少ないながらちゃんと機能していました。
唯一返す返すも残念だったのは、渡部篤郎さんの三葉銀行芝野役ですね。12年前の柴田恭兵さんと比較してどうこうという意味ではありません。芝野役に篤郎さんが合わない、ほかの俳優さん、誰某さんのほうが良かったという話ではなく、“『ハゲタカ』ワールド”に篤郎さんがキャスティングされたとき、振られる役が芝野だということが残念。
いつの間にこんなに、枯れて悟って落ち着いた、仕事と家庭のワークライフバランス上等の役好適俳優さんになっちゃったんだろう。月河の中での俳優・渡部篤郎のイメージは土曜ドラマ『外事警察』が唯一無二で、そこで止まっていて微動だにしていないのですが、こちらももう9年前のドラマなのだなぁ。NHK版『ハゲタカ』同様、こちらもTVシリーズ本編終了の翌年、劇場版も製作公開されたはずです。
あの警視庁公安部外事4課住本(すみもと)の、扁球体(球体ではない)の氷の中に太さの違う複数の針が凍結されているような立ち居、物言いは、篤郎さんにしか出せないものだった。9年経って、『ハゲタカ』で、役もあろうによもや芝野を演じることになるとは。いや、篤郎さん本人にとっては、逆にこれこそチャレンジだったのかもしれないのですが。
12年前のNHK版を視聴済みで今回のテレビ朝日版を(動機はどうあれ)見てみた人の相当数が、NHK版をもう一度見返してみたい欲求にかられたことと思いますが、月河は『外事警察』のほうを切実に再視聴したくなりました。こちらは確か地デジ環境になってからの放送だったから、DVDに焼いて自宅のどこかにあるんじゃないかと思うんですが、こういうの探し始めると、部屋の模様替え始めるに等しいからなあ。落ち着け自分。
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