今月3日公表の金融庁金融審議会報告書に端を発した “老後二千万円不足”問題、張本人の金融庁トップでもある、失言王としてつとに名高い麻生太郎財務大臣が「政策と違う」「報告書として受け取らない」と言ったおかげでますます天高く炎上していますね。梅雨時の空が炎の熱気でカラッと乾燥してくれればいいのですが。
絶対延焼してこない対岸から眺めている分には火柱も気分がいいものですがね。
月河は最初この報告書の見出しを新聞で見たとき、てっきり「金融庁の、長期政権への復讐だな」と思いました。
官僚主導を嫌い万事“官邸主導”で人事権も切りまわして押し切る安倍-麻生-菅体制に、ついに金融庁が謀反を起こし「なんとか参院選負けさせようぜ」「衆参同日選になったらもっと一石二鳥」「安倍退陣に追い込んで、あわよくば野党連合の無知蒙昧政権になったら、我ら賢い官僚様天下の返り咲きだ」とばかり、わざわざ“老後不安を煽る要素てんこ盛り”のアナウンスを、選挙前のこの時期にぶつけてきたのではないかと。
同審議会で起草~とりまとめに携わった専門家の皆さんも「主意が伝わらず不本意」「“貯蓄から投資へ”を促す目的だったのに」と鼻白んでいるとの報道ですが、真相はいざ知らず(知らないのかい!)たとえ月河が妄想するほど露骨に漫画チックな時の政権への悪意は無かったとしても「老後」「不足」「赤字」、そして「(リスク込みの)分散投資による」「現役時代からの」資産形成・・なんて、年金コンシャス世代をナーバスにさせずにおくまいとドシロウトが考えてもわかるワードをこれでもかと並べて、あっけらかんと一般紙に載せてしまう無神経さは、やはりメイドイン霞が関官僚ならではだったと思います。
月河にとっては今シーズン残りGⅠ連戦連勝でも二千万は何万マイルの彼方だし、“女性60歳”は目と鼻の先とはいえ、その時点で“65歳厚生年金加入”の配偶者を有している可能性が顕微鏡レベルに極小なので、そもそもアナザーワールドなのですが、この報告書なるものの何がやりきれないって、すべてを“平均値”、それも“金額の平均値”で、綺麗に言えば抽象化して固めてあるため、「65歳まで働いて年金受給者となって、その後20年(=85歳まで)、ないし30年(=95歳まで)生きる」という人生を、いったいどのような時間として考えているのかさっぱり見えないことなんですね。
95歳と、“点”でとらえれば95歳でしょうが、たとえば94歳から95歳までの一年間、三百六十五日が、どんな暮らし、どんな春夏秋冬だと、この報告書を作った人たちは考えたのでしょう。何を見聞きし、何に触れ、何を喜び、何を悩む時間か。暮らしとは一万円、十万円とおカネを費ったり貯めたりすることではありません。目を開けて耳を澄まして何かを感じ、考え、歩いたり走ったり、声を発したり、物を作ったりする時間の積み重なりが暮らしです。65歳から三十年間というなら、年金を受給しようが貰いはぐれようが、春夏秋冬が三十回、来て去ってめぐっていくことになります。
月河宅には毎度おなじみ高齢組が二名いるので高齢者の知人は多数です。年金受給前はそれこそ老後資金計画もあれば投資信託や株買うかなんかも話題になりますが、受給開始から二十年ともなると、暮らし、生活の最大のテーマは病気・持病の悪化、白内障、難聴、骨折、歩行困難、介護認定、そして認知症です。生活時間の大半がこのどれかもしくは複数との付き合いです。喜びも悲しみも悩みも、食べ物を口に入れて噛んで呑み込むのも、息吸うのも吐くのも脈打つのも、病気と要介護と認知症次第。どう慣れ、なだめ、折れるところは折れながら屈服はしないでやり過ごしていくかが、生きるということのほとんどすべてです。
もちろんそうでない人も大勢いるでしょう。年金受給二十年超えても現役時代とほぼ遜色ない体力で歩き回り、同じように遜色ない友人知人とスポーツや旅行や習い事に行きまくり、現役世代とデスクを並べて仕事をし、何のお荷物にも笑い物にもならず、頼りにされリスペクトされている人も、月河高齢家族の周辺にはいないようですが、全国レベルではかなりいるはずです。
病気介護認知症ワールドの人にも、遊びも仕事も現役並みの人にも、一人一人ずつに一年三百六十五日春夏秋冬があり、それぞれに触れるもの見聞きする物があり、喜び考え悩みがある。それが二十年、三十年積み重なっていくのが、人が生きると書いて人生です。
今般の報告書には人が生きていません。あるのは金額のみです。一か月に食費何万何千円、光熱費何万何千円、文化教養費何万何千円・・という、ショベルカーで掬ってきたような、何処の誰とも知れない顔のない名前もないサンプルを、さらに平均値というチカラワザのローラーかけてなぎ倒して、蒸留して抽出して圧縮して凍結乾燥させた、もはやサンプルの原型すらとどめない、何処にも存在しない抽象の数字の列挙です。
人間がいなくて、人生が無くて、おカネの額の数字のみ。それも実在しない抽象。これは“報告書”と銘打ちながら、何も報告していません。お化けです。血のかよわない、息もしない、体温も、脳も神経もない化け物です。
こういう物は一言で言って「目が腐る、耳が腐る」です。関心持つ価値無し。関心持ったら持ったところから腐る。
或いは金融庁の目論み通り(目論んでないって?)見事、参院選で与党ダダ負け、ダダ負かしの起点になるかもしれませんが、こんな血も肉もない数字のお化けで民心が動揺して政権が転覆するとしたら、“一強”なんて一時期持ち上げられていてもその程度のもんだったということでしょう。
ネットの辺境の弱小泡沫無名ブログですから世間にはなんの影響も宣伝効果もないでしょうが、月河のここでは今後いっさいこの報告書なるものに触れません。汚らわしい。塩まいておきます。
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