イエローフローライトを探して

何度も言うけど、
本当にブログなんかはじめるつもりじゃなかった。

オリヴィア・デ=ハヴィランド礼賛 ~良き時のみを記憶に留めよ~

2020-07-28 19:22:10 | 映画

 昨日(27日)午後にネット上で一報を目にして、あれッ?“妹さんのほうが先になったか”と思ったのは、ついこの間だったのでは・・と思いましたが、調べるとジョーン・フォンティンさんが旅立ったのはもう7年も前、2013年だったようです。ハリウッドビッグネームの訃報はここのところ毎年少なからず耳にするので、あっという間のような錯覚がある。

 姉のオリヴィア・デ=ハヴィランドさん死去、104歳。長生きもここまで来るとレジェンドの域ですな。妹ジョーン・フォンティンさんも享年96歳でしたから、長寿の血筋なのかもしれません。

 オリヴィアさんと言えば日本では何といっても『風と共に去りぬ』(1939年)のメラニー・ウィルクス役でしょうが、あの映画に年代的にあまり高体温でない月河にとっては別の作品での役のほうが強い印象を持っているんです。

 13年ほど前に、このブログで当時の昼帯ドラマのヒロイン像とのかかわりでも触れた『謎の佳人レイチェル』(1952年)。ここでのオリヴィアさんは謎の美女です。ニュートラルに見ればしとやかで才気ある貴婦人、怪しく思って見れば不詳な過去と、夫殺しの疑惑を秘めるファム・ファタール。

 月河は原作者のダフネ・デュ=モーリアを偏愛しているので原作小説は何度も読みましたが、作中には「絶世の美女だ」という様な短絡的な描写はひとつもないのですけれども、映画のオリヴィアさん(当時36歳)は目いっぱい美しく、過不足なくしとやかで知的で、なおかつ申し分なく怪しくて、物語の主人公で語り手でもあるリチャード・バートンの身になって見れば途方に暮れるほど、悪女っぽさと無垢さの間をスウィングするのです。これはオリヴィアさんの持ち前の美貌と演技力だけでなく、演出と助演陣の力も大きい。

 月河は原作の邦訳初読から約20年余、原語のペーパーバックで読んでからも7~8年後に民放TVの名画劇場で観たのですが、“52年米(=アメリカ制作)”という新聞ラテ欄の番組表を見て、本編を観て、VHSで録画したのをまた観て、「こんなにド嵌まりのキャスティングで映画化されてたんなら、先に観ればよかった」と思ったものです。

ちなみに翌1953年のアメリカ・アカデミー美術賞・撮影賞・衣装デザイン賞と、当時27歳のバートンが助演男優賞の候補になり、オリヴィアさんはこの作品ではオスカーノミニーにはなりませんでしたが(46年『遥かなる我が子』、49年『女相続人』で既に主演賞2回受賞済み)、ゴールデングローブ賞ドラマ部門の女優賞にノミネートされています。

 奇遇なのは、同じデュ=モーリアの長編作で『謎の~』の原作『レイチェル』(初版1951年)よりはるかに人口に膾炙している『レベッカ』(同1939年)の映画化(1940年アルフレッド・ヒッチコック監督)で、オリヴィアの実妹ジョーン・フォンティンが主演していることです。

 作者デュ=モーリアは、ノーブルでたおやかな筆名に似ず一筋縄でいかない作家なので、構想時の意図は必ずしも「『レベッカ』の鏡像もしくは裏焼きを書いてみたい」というような、わかりやすい所には無かったかもしれない。しかし語り手=主人公の男/女を入れ替え、境遇や暮らし向きを対称にし、親しい人の変死にまつわる主体と客体を入れ替え、謎の降りかかり方の受動と能動を入れ替え、すべてが写真のネガとポジのように対照的かつ補完的なこの二篇の、それぞれ初の映像化が、妹と姉、いずれ劣らぬ美貌の人でありながら、姉妹だよと言われなければそうとは判らない強い個性のスター女優二人をそれぞれヒロインに迎えて成立したのですから、小説以上に小説的なめぐり合わせです。

 『レイチェル』の原作映画化権を入手した当初の監督は、レイチェル役にヴィヴィアン・リーを望んでいたのが、少なからぬ(たぶん)曲折あって最終的にオリヴィアさんに決まったようで、これもまた奇遇な話です。月河は断然、「曲折あって良かった」と思う派ですが。

 光の加減で剛にも柔にも輝いては翳るあのヌメるようなレイチェルの怪しさ、ヴィヴィアン・リーは起用されれば演技力で組み伏せるでしょうけど、なんか違うのです。

 先日、刑事コロンボ『偶像のレクイエム』について書いたとき触れたように、月河の実家母は若い頃メル・ファーラーとオードリー・ヘップバーンの『戦争と平和』に嵌まっていたのですが、もっと若い頃観た映画の中では妹ジョーン・フォンティンさんのほうが贔屓だったそうで、『レベッカ』はもちろん『断崖』(1941年)も、のちにLDを買って何度も観ていました。

 「キュッと片眉を上げると左右非対称な顔になるところがいい」「美人さんってああゆうアンバランスな表情あんまりしないよ、この人ぐらい」とよく言っていたので、月河が「歌手の荻野目洋子ちゃんがいつも少し眉を段違いに引いててこんな顔するね」「剃らないで自眉なりにかいてるからああなるのかも」とジャケ写を見せたら、荻野目ちゃんも贔屓になって『コーヒー・ルンバ』のカヴァーなどよく聴いていました(期せずして彼女も姉・慶子さんと美人姉妹)。

 「お姉さん(=オリヴィアさん)は妹よりととのった顔立ちだけど、ちょっとエラが張っててケンのある顔だ」「メラニー役はアレ、演技でしょう。きっと地の性格はキツイはず」とも。さらに「そもそもあのメラニーってオンナがぶりっ子で好きじゃないし」と、最後は月河も同感でした。

 オリヴィアさんの、彼女曰く“ケンがある”ところがうまく引き出された作品として、月河は『謎の~』と、やはり当時のTV名画劇場から録画した『暗い鏡』(1946年)を見せたのですが、彼女の感想「・・やっぱり妹さんのほうが綺麗」。

 この『暗い鏡』も、オリヴィアさんが一卵性双生児の姉妹、どちらか一方がサイコ連続殺人犯・・という難役の二役をこなす、オスカー主演賞持ちの女優さんとしてはなかなかの冒険作で、“女性の持つ二面~多面性”表現に、この時期彼女自身演技者としてかなり意欲を燃やしていたのではないかと思われるふしもあります。

 104歳大往生、『謎の~』ともどもこの機会にリマスターしてDVDなりBDなり今様の技術でパッケージソフト化、ぶりっ子メラニー役でしかオリヴィア・デ=ハヴィランドを知らない現代のファンにも観賞可能にしてもらえないかな・・と切に望みます。


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