イエローフローライトを探して

何度も言うけど、
本当にブログなんかはじめるつもりじゃなかった。

韓国ドラマ『秘密と嘘』 ~そこに懐かしさがある~

2020-10-09 22:13:22 | 海外ドラマ

 いよいよ今年も残り3か月を切ってくると、自然と来し方振り返りモードになりますな。歳月人を待たず。コロナウイルスが人を選ばず休日も祝日もないように、月日も時間もコロナなんぞには躊躇も遠慮もしません。どんどん来てどんどん去ります。

 思えば春先からのステイホーム推奨で、おうち時間が例年よりたっぷりあったわりには、今年は韓国ドラマ、特に月河の好物の、長尺多話数ドラマをあまり視聴しなかったような気がします。

 いつものように「まとまったヒマを作って一気に録画視聴」なんて気合い入れなくても、まとまらない細切れのヒマがいっぱい出来てしまったので、逆に長尺タイトルに嵌まらなかったのかもしれません。代わりに『刑事コロンボ』の週一リバイバル放送の様な、単発一話完結モノはだいぶ見ました。

 リアルタイムのTV放送界でも、一時は、放送中、乃至は開始予定のドラマ収録が完全に休止して再開未定のまま、空いた枠に平成初期や昭和のドラマが再放送されて人気再燃、本放送時未見もしくは生まれていなかった若者にも大反響で、かえってペンディング中の新作のハードルが上がって、再開しづらくなったなんてこともありました。

 新型コロナ下で出勤退勤・働き方や、子供たちの学校、高齢者のケアサービス等も含めた生活サイクルの、各人各家庭の大幅変化で、TV以外のおうちエンタメ、インドアイベントの世界もえらく振り回されたこの一年でした。いずれトンネルを抜けたときに、何か確かな物が、媒体にも客側にもひとつふたつ掴めて残ればいいのですが。

 そんな中、5月の大型連休明けから途中乗車して、録画で追いかけながら9月中旬の最終話まで、気がつけば食い下がっていられたのが『秘密と嘘』(BSフジ)。

 月河がいたく好む“偽物/本物”“入れ替わり・すり替え”“成りすまし”モチーフ(←これがいろんなタイトルで何度も何度も、性懲りもなく登場するから、韓ドラ追尾やめない月河でもある)の極北みたいなお話で、実母を亡くし実父に育児放棄されて児童養護施設送りになった少女が財閥会長の孫娘シン・ファギョンにまんまとなりすまし成長、TV局の新人女子アナとなって野心を燃やす・・辺りまでは安定の定番展開なのですが、冒頭2話でいきなり出自がバレちゃうの。しかもバレるに事欠いて全国ネットのTV尋ね人番組に。公式サイトでは全88話(本国本放送では122話!)、どうすんの?どうやって尺もたすの?とハラハラしてたら、偽孫娘ファギョン、追いつめられた土壇場で、財閥会長が捜索していたもうひとりの孫=早世した長男の遺児に、自分に惚れている気のいい青年ジェビンを仕立て上げて、自分はその嫁として財閥家に居座り生き残るという奇策に出ました。

 言わば“なりすましの二階建て”

 取り巻く親世代、大人たちも、良かれと思って嘘を暴こうと腐心する者、自分の利得や保身のために嘘に加担する者、それらに巻き込まれて逆恨みする者等が入り乱れて、誰が誰と敵対してるのか、あの秘密はこの人もう知ってるんだったっけ?知らないんだったっけ?とか途中で混乱をきわめるのもいつもの韓ドラコースなのですが、踏ん張れば意外と踏ん張れるもんです88話。

 惜しむらくはファギョンへの情から嘘と欺瞞に手を染めていくジェビンの描写がいまいち緩かった。“あらかじめ強烈で、ずっと強烈なまま”設定のファギョンを触媒として見れば、明朗純朴で天然なジェビンが財閥後継となって欲に目覚め、徐々に変貌していく過程は振り幅が大きく、最大の見どころになったはずなのですが、結局一貫して善良な人なのか、或いはよくわかってないおバカなだけなのか、どっこいおバカなふりで油断させようとしているのか、演出も演技もしかと掴めていないまま場面場面で揺れているようなふしもありました。ところどころ、妻夫木聡さんを丸顔にしたような表情がチャーミングな、ぷっくりクチビルに長身のイ・ジュンムンさんちょっと惜しかった。

 最終盤の4~5話ぐらいはさすがに息切れしましたが、最終話でついに指名手配容疑者となり国外脱出を図るもTVニュースで顔バレして失敗、空港から裸足で逃走したファギョンが、なけなしの小銭で公衆電話に飛び込むも「・・ママの電話番号が思い出せない」と愕然とする場面は刺さった。スマッシュヒットでした。番号を登録した携帯が手元からなくなると、家族や最も親しい人の番号こそ暗記していないことに気づく・・ってあるあるじゃないですか。固定電話や紙の電話帳の時代にはなかった悲喜劇だと思う。なりすましが露顕するまでは溺愛してくれた母、その一員で居たくて、嘘に嘘をかさねて足掻いてしがみついてきた家族が、こんなに遠かった。88話の長きにわたって詰られても叩かれてもへこまず反省もせず悪の華を貫いてきたファギョンが、一瞬足元が深淵に抜けたような恐怖にかられる。偽の娘に散々振り回された母親は、脱出の道筋をつけてやったようで、実は追っぱらった気でいるのですが、「ママならまだ助けてくれるかも」と思っている時点でファギョンの惨敗。

 『その女の海』で数奇な運命の翻弄されヒロインだったオ・スンアさん、美人だけど般若系のお顔立ちなので、ドS役とか、物の怪(け)役とか演ったら嵌まりそうだな・・と思った通りのそれ以上を存分に見せてくれてこちらは一応満足。綺麗めの女優さんも、ここまで長丁場をビタ一文改心せず、邪悪なまんま演り通すのは、或る意味冥利(逆冥利?)に尽きるかも。

 途中、「アナタが財閥継孫」とほのめかされたジェビンが、“そうなったら高級車に乗ったり女性にもモテモテ”と妄想する場面があるのですが、そこに登場するジェビンの“脳内ファギョンさん”がラブコメみたいに可愛く、オ・スンアさん、キツ系の般若顔だからこそ甘々なラブコメの、ツンデレヒロインとかもいけるかもしれませんよ。最近は予算の関係か制作本数が少ないみたいだけど、時代劇でも期待大です。

 親世代ではファギョンの親友で女子アナ候補生同期ウジョンの母ジュウォン役キム・ヘソンさんと、財閥家の入り婿で本物ファギョンの父、心ならずも偽ファギョンの成りすましの共犯ともなるシン社長役チョン・ノミンさんが安定の芝居で、韓ドラおなじみの“あり得ないワールド”を支えました。

 ジュウォンは最初はアナウンサー志願者の憧れ“国民的テレビMC”で、財閥アパレルのCMキャラクターとしてポスターモデルになったり、スキャンダルまかれて生卵ぶつけられたり、階段から転落して殺されかけたり後遺症の譫妄発作で暴れたりジェットコースターみたいな展開でしたがさらっと演るし相変わらず美しい。『宮廷女官 チャングムの誓い』(2003年)のお母さんの頃からほとんど変わってないんじゃないかしら。

 いっぽうシン社長役のノミンさんも『善徳女王』(2009年)の叩き上げソルォン公から変わってないっちゃ変わってないし、この人の場合、頭はいいけど打算策略系のセコい役も多いのに一周回って結局どこか哀愁と可愛げが出るのが不思議です。今作も、或る意味すべてのタネをまいて自分で自分のクビ締めちゃってるような立ち位置なのに、死線をさまよって生還するとなぜか「・・助かって良かった」と微量思えてしまう。こういう現代ものドラマをにぎわす男優さんたちが軒並みモデル体型のイケメン揃いの中、頭身大きめ胴が長めの日本人・・じゃなくてアジア人体型なのが効いているのかな。

 あとひとつこのドラマでちょっと良かったのは、ウジョンの異父弟(=キム・ヘソンさん扮するジュウォンがウジョンを連れて再婚して生まれた)ウチョルが知的障害で映画『レインマン』のようなサヴァン症設定なのですが、これだけ欲得まみれでエゴい人物がゾロゾロ出てくるのに、障害をネタに虐めたり揶揄ったりする描写が一度もなかったのは好感が持てました。

 ウチョルはお母さんとお姉ちゃんが大好きで、彼女たちを困らせる人物にはちゃんと抗議もする。コーラも大好きで誰かが止めないと際限なく飲みすぎてしまいますが、他は特段困った点や人に迷惑かけるところもなく、音楽の才能があってクラリネットが得意、インディーズバンドに共演を誘われる腕前(←演奏場面はあまり無し)、サヴァン症独特の精密で瞬間的な記憶力、再現力を活かしもっと展開の鍵を握るかと思いましたが、聞きつけた姉の出生を書いた折り紙の件と、ジュウォン転落現場のファギョンを絵に描いた件程度で終わったのはちょっと残念。ハンデキャップネタは踏み込みすぎると昨今は簡単に炎上するので触らぬ神に徹した感もありますが、話数に不足なかったわりにはサブストーリーらしいサブストーリーが皆無に近く、ウチョルくんにはジェビンの妹で料理人志望の“親切なジェヒさん”というお似合いの相手も現れたのに、あまり発展もゴールもないまま終了(いいムードは継続)。

 このドラマは韓国MBSの夜のイルイル(日々)ドラマで、日本のBSでも一昨年~昨年に放送された『棘(とげ)と蜜』『幸せをくれる人』等の同枠後番組なのですが、キャストはまずまずなのにお話が風呂敷を広げきれず、あるいは最初からコンパクトサイズの風呂敷で守りについてきたようなのが、これ系ドラマ愛好者としては気がかりです。本作の後に同枠放送された『ヨンワン(龍王)様のご加護』がBS11で来月始まるのでとりあえずチェックかな。3年前の今頃嵌まっていた『ルビーの指輪』のイ・ソヨンさん久々。全81話。うーん。


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