前回、前々回の記事“村上シリーズ”のとっかかりだったフィギュアスケート村上佳菜子選手、半週遅れになるけどSP2位発進だったNHK杯フリーは残念でしたね。最終的には初シニアグランプリシリーズで表彰台乗りの3位だから上等に花丸つくんだけど、3度の転倒がね。出だしの3-3がきれいに決まったので、「もっと上いけるかも」と微妙に色気が出ちゃったかな。特に3フリップを二度試みて二度とも着氷失敗しちゃったのと、下りた3ルッツの回転不足ダウングレードは本人がいちばん悔しいでしょう。
表彰式前のインタヴューなど聞いていると、まだ氷上アーティスト魂とか勝負師魂という段階ではなく、“所与の課題をクリアして評価され前進する喜び”という一兵卒マインドにある様子なので、本領発揮はいろんな意味でこれからでしょうね。
それより翌日の男子シングルフリーを山田満知子コーチとスタンド観戦中、ぶっすり浮腫んだ“寝起きのアイドル”顔を生放送のカメラで抜かれちゃったのが10代女子として悔しかったかも。緊張が解けて、疲れがドッと出て、成績も正直不満だったし、そでなくても15歳、眠い盛りなんだから、TVも気い遣えって。先輩高橋大輔選手の貫禄演技にはさすがに目が覚めて拍手してましたが。
さてと、もうひとりの村上=あかりの『てっぱん』、いろいろある中での魅力のひとつは“緩(ゆる)さ”にあるように思います。
“ベタ”を一体で連れてくるタイプの緩さ。最初に「あぁこれ緩さ押しのドラマだな」と思ったのは、先週21日ラスト~22日アバンでの、あかり(瀧本美織さん)、田中荘に帰ると親友加奈(朝倉あきさん)肩揉みに出くわすの場面。「ココも頼みますわ」「あんた、じょうずやなぁ」と気持ち良さそうな初音ばあちゃん(富司純子さん)に、あかり思わず「うちのあの苦労は何じゃったん~!?」。
『てっぱん』導入部はリアルに考えればかなり重い話でした。17年育てられなじんできた家族が実は他人家族で、自分はたまたま同地に流れ着いた家出女性が、たまたま同地で産み落とした赤ん坊。好意で養子にとられて実の親子きょうだいと空気のように疑わず生きてきたが、或る日突然祖母にあたるおっかないばあちゃんが現われ、実のお母ちゃんと思っていたお母ちゃんとは別に生母がいることがわかった。生母が別にいるなら、実父も目の前のお父ちゃんとは別の人に違いない。そこを問い質し追及する気も回らないくらい、あかりは動揺しました。
「背負わされたものから逃げたくない」意地と、「でも、せっかくわかった血のつながり、近づいて埋め合わせて回復したい、実の親のこともっと知りたい」呼び覚まされた里心とで祖母ちゃんと同居を敢行したものの、祖母ちゃんにも意地があり、意地と同じくらい尾道の育て家族への気づかいや、家出のまま和解もならず亡くなっていた娘への無念やらもあって、なかなか一気に「孫娘可愛い」「お祖母ちゃん大好き」大接近とはなれずにいます。お祖母ちゃんが肩凝った素振りを見せたら「揉んであげようか」「頼むわ」と言える関係を築けたらどんなに嬉しいか。加奈の肩揉みを見て「揉ませる人違うじゃろ」とあかりはショックだったに違いありません。
しかし、そういう焦れったさや淋しさを、当事者であるあかりみずから「うちのあの苦労」と言葉にしてさくっとまとめるのは、フィクションであるからこその“ベタ込みの緩さ”以外の何者でもないだろうと思うのです。関西のツッコみ文化を背景においたお話だから、なおさらこれ式がやりやすいのかもしれない。ヒロインが自分で自分のせつなさや、たくまざる滑稽さを相対化しているわけです。
ちょっぴりスカした音大講師岩崎を演じるジュノンボーイ弟・柏原収史さんの“あらかじめ寒め”なコメディリリーバーぶりも刮目ものでしょう。あかりの最初の大阪訪問時、後からこっそり追いかけた次兄鉄平(森田直幸さん)が、バンドメンバーと一緒におさまったお好み焼き屋ショット(←岩崎ひとりだけアルバムジャケ写みたいな頬杖ポーズ)からその気配はありましたが、先週の「…何の話だっけ?」の微妙な間といい、今日(26日)の「君がほしい」、「キミのトランペットをこう、前面に出して…」のいちいちジェスチャーつき天丼、駅伝くん(長田成哉さん)に「戻り過ぎや」とツッコまれるなど、“この人が出てきたら笑うところだな”が加速度的に定着しつつあります。顔の造作通りのイケメン押しにはチョット身長や顔サイズ比が不利で伸び悩んでいるかなと思えた弟柏原さん、“顔が端整だからこそ可笑しい”役柄を、演出のテクスチュアになじんでこれくらい制御できればしめたもの。
加奈がバンド練習する卓球場をこっそり覗きに来たあかりに浜勝社長(趙珉和さん)「お゛の゛み゛っ゛ちゃ゛ーーん!」など、脳内で「ちっ゛ち゛き゛ち゛ーー!」と付けたくなりました。要するに、重い話でも“そんなに額面通り重く見なくていいよ”という信号を適宜発してくれているドラマなんですね。
好みの問題でしょうけれど、月河はこういう“正直さ”は結構好きです。肌合いが若干アタマでっかちで机上的だった分、あまり支持されなかったけれど、“ラジオの男(イッセー尾形さん)”という相対化装置を常時顔出し声出し稼動させて走り切った『つばさ』にも同種の正直さがあった。シリアス押しで来ていながら唐突にふざけを入れたり(しかも決まって笑えない)、コメディ仕立てと見せて生煮えの社会派メッセージ性をぶちかましてきたりする“不正直”なドラマに比べるとずっと良心的で潔い。
“国内作りモノ界の古豪=NHK朝ドラ”の貫禄、この先も見せていただきましょう。
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